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小規模事業者のための「バランススコアカード」変則活用法/猪口 真

INSIGHT NOW! / 2019年5月25日 20時24分

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猪口 真 / 株式会社パトス

給与から始まるBSC

バランススコアカードは、かなり古い印象があるとはいえ、今でも十分に活用でき、また多くのファンを持つフレームだ。

しかし、多くの企業から「うまく使いこなせない」という話を聞くことが多い。特に中小~小規模企業にとっては、財務から個人に落とし込まれるまでのプロセスが短く、全体のマップとして俯瞰するまでもないことが多いのかもしれない。

組織のファンクションが分割され、それぞれの役割が明確な組織においては、現在の状況分析から、将来あるべき全体の戦略マップを描くには非常に分かりやすいモデルだ。

しかし、ここにも落とし穴がある。バランススコアカードは極めてシンプルで分かりやすいモデルであるゆえに、あまりも包括すぎていて、すべての部門、組織機能に対して変革的なアクションを求めることになる。

全体がつながっているのだから当然の話なのだが、そもそも、バランススコアカードの4つのすべての視点に対してイノベーションやシステム・プロセス変更の意思決定できるのは、経営トップぐらいしかできないだろう。出来上がった組織なら、経営トップすらままならない。

何人かの経営幹部によって建設的なディスカッションができ、そのメンバー(幹部クラス)がリスクを背負う覚悟がある組織ならいいが、多くの企業では、その両方とも難しい。

なので、本来バランススコアカード(BSC)は、一人(多くても数人)で会社の戦略やプロセスを変更する意思決定ができる組織のほうが活用しやすい。

ただし、小さな組織でBSCを使ったプランニングを経験した人なら感じたことがあると思うが、財務→顧客→プロセス→個人と、落ちていくプロセスには、むず痒いものを感じる。

まず、すべての経営者が売上規模の拡大を望んでいるわけではない。小規模事業者にとってまず重視するのは「利益」と「キャッシュ」であって「売上」はあとで考えるべきものだ。(なかには、売上は関係ないという人もいるが、顧客が受け取るのは製品・サービス全体であって、通常それは売上で測られる)

売上だけを追ってしまうと、余計なキャッシュフローの心配とリスクが増えるだけで、多くの場合はほとんどメリットない。

さらに、従来であれば、その利益目標から、顧客貢献、そしてそれを実現する「業務プロセス」へと落ちていくわけだが、小規模事業者がそれをやったところで、絵にかいた餅にしかならないことが多い。

そもそも小規模事業者にできることは限られている。

通常、バランススコアカードは、財務→顧客→プロセス→個人と、落ちていくが、私が推奨する、小規模事業者のための「バランススコアカード」の活用法は少し(だいぶ)違う。

小規模事業者にとってはあたりまえだが、「利益」(キャッシュ)の中でも、最も注力するのは、そこから生まれる「人件費」だ。絶対に守らなければならないのは、自分(経営者)も含めた継続的に支払うべきメンバーへの給与であり、ほかのことは、すべてその次だ。

だから、小規模事業者のBSCはここからスタートする。

現在の自分たちのビジネススキル、実力から見て、いくらの人件費(給与)の価値があると考えるのか、そして、現在「市場(顧客)」は、その評価をしてくれているのか、過小評価しているのか、ある程度の評価をしてくれているのかをまず判断する。

また、自分のビジネススキルというのは、ビジネスプロセスとも直結している。スキルが「何を生み出すことができるか」との問いの答えであるならば、スキルとプロセスが一体になってはじめて製品やサービスは生まれる。

小規模事業者の場合は、大半がオーナー(経営者)の引いたレール(ビジネスプロセス)を他のメンバーがたどるから、スキルとプロセスを切り離すことのほうが困難だ。

そこが明確になれば、自ずと目標にすべき利益額が見えてくる。

このプロセスをメンバー間でじっくり話しあったことがある人は少ないだろう。仕事の評価はつまるところ、報酬なのであり、そこを後回しにするのは、むしろ不自然だと思う。

そこで今度は、今後自分のスキルや実力の向上によって、どこまで給与を伸ばしたいのかを考える。つまりいくらの給与を自分たちは得るつもりなのかを明確にするわけだ。

そして、その人件費をかせぐためには、いくらの売上とそれに伴う原価をシミュレーションする。

ここでようやく、どの顧客にどのような貢献をし、どのサイズのビジネスをするのかということを問うことになる。最初は、無理矢理関連付けることはせずに、ランダムにアイデアを出し合い、グルーピングだけしておく。もう出てこないというまでアイデアを出す。

そして、全体を眺め、「財務―顧客貢献」のアイデアと「業務プロセス―個人の成長」との結びつき、関連を探る。これらを出し切ると、必ずどこかにギャップがあるのがわかるだろう。

「現在の顧客とビジネスサイズ(売上)のギャップ」「自分たちの望む報酬と顧客評価のギャップ」「現在のスキル・プロセスと望まれるビジネスサイズのギャップ」などなど、ひとつどころかあらゆるところにギャップが存在しているはずだ。

そのギャップを埋めるための施策を考えることこそが、中小~零細における戦略というべきものとなる。

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