アップルの変革/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2019年5月29日 12時0分
![アップルの変革/野町 直弘](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_10490_0-small.jpg)
野町 直弘 / 株式会社クニエ
今年の初めにアップルが業績予想を下方修正したことをきっかけとして関連の株価が軒並み下落する、いわゆるアップルショックが発生しました。iPhoneの販売台数の不振がもたらしたものと言われていますが、単なる景気低迷というよりもマーケットが成熟期に入ったことが原因ではないか、という論調が大方を占めています。
一企業の経営状況が相場全体の上げ下げにつながるという恐ろしい状況ですが、これもアップルがグローバル経済で大きな存在であるからと言えるでしょう。
そんなアップルですが、90年代後半には経営不振に陥り一時、ライバルであったマイクロソフトから出資を受けた程でした。また、アップルの創業者のスティーブ・ジョブスが2011年に亡くなった時に、アップルはこれから駄目になると言う人が多くいました。
しかし、アップルはこの8年間に大きな成長を見せるだけでなく大きな変革を起こしています。
それを引っ張ってきたのが現CEOのティム・クックです。
スティーブ・ジョブスと異なり、クックが行ってきた改革はあまり表には出てこないものばかりですが、「アップル さらなる成長と死角」という著書で元アップルに勤務された経験を持つ経営コンサルタントの竹内一正さんが興味深い内容を書かれています。
ティム・クックはオペレーション部門出身者で、アップルのヒエラルヒーではオペレーション部門はデザインやマーケティング、R&Dなどの下の「最下層」と言われているそうです。ティム・クックはIBMからコンパック社の購買部門の副社長を経て1998年にアップルに入社しました。
彼がやってきた改革を先ほどの書籍からピックアップしてみますと驚くほど大きな変革を実行していることがわかります。
・再生可能エネルギーの利用促進
・製品の完全なリサイクル
・CO2排出抑制
・労働・人権、安全衛生の配慮
・在庫管理の徹底「在庫は乳製品と同じ」
・アップル社内での製造からの移転
・無理が利くホンハイでの製造へ
・CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)の改善
・株主との協調
・社員の社会貢献活動への援助
・サプライヤーマネジメント力
・サプライヤーリストの公開
・サプライヤーの細かい支配(Tier1だけでなくTier2、3も)
・サプライヤー責任報告書の発行
・先進製造業ファンドの立上げ
・アップルウォッチによる医療分野への進出
アップルの主要サプライヤリストの公開や、CSR絡みのサプライヤ責任報告書の発行、卓越した原価企画能力などのサプライチェーン力の強さについては私も存知てました。
しかし単にサプライチェーン全体の強化だけでなく、他の様々な変革も成し遂げており、これが現在のアップルの強みにつながっていることは間違いないでしょう。また、ここに
上げられた諸変革施策は、カリスマCEOであったスティーブ・ジョブスの思想とは異なったものも多く、彼には成し遂げられなかったということも書かれています。
アップルはファブレス企業ですが、多くのエンジニアが自社開発をしており、開発だけでなくサプライヤの技術や品質の指導、生産立上げ支援などを徹底しています。新製品の立上げ時にはアップルのエンジニアがサプライヤの工場に出向いて生産計画通り新製品が立ち上がるように、近くのホテルに泊まりこんで完全サポートを行うのだそうです。また製品モデル毎にサプライヤの切替えも激しく、それに応えられるサプライヤだけが生き残っています。またこれはTier1サプライヤだけでなくTier2、3の(原料系)サプライヤにまで管理が行き届いています。
数年前のアップルの株主総会であるファンド系の株主から、「利益につながらない環境関連費用を控える」ように言われるとティム・クックは珍しく憤慨し「あなたのような人にはアップルの株を持っていただかなくて結構です」と言ったというのは有名な話です。
このように2011年にCEOを引き継いで以降のティム・クックの進めた変革は従来とは全く異なるものでしたが、その後の成長を見るとそれが効果的であったと言えるでしょう。
ジョブスによるイノベーションとクックによるオペレーションこれらは正に車の両輪のようにアップルを1兆ドル企業に成長させたのです。
一方でiphoneの販売不振を起因としたアップルショックを今後どのようなイノベーションでブレイクスルーしていくのか、今後のティム・クックとアップルの課題と言えるでしょう。
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