スポーツ市場の起爆剤になるか「スポーツテック」/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2019年6月30日 10時36分
猪口 真 / 株式会社パトス
最近、何かと「テック」をつける言葉がやたら目立つが、スポーツにも「スポーツテック」なるものが登場した。
もちろん、フィンテックやエデュテック、不動産テックなどと同じように、スポーツとテクノロジーを組み合わせることで、新たな商品やサービスを生み出したり、これまでにない市場ができることを狙ってのものだ。
以前からスポーツにはテクノロジーが活用されており、腕時計型のウェラブル端末を使ってランナーやバイカーは走った記録だけではなく、自分自身の身体の状態をも同時に管理できるようになっているし、ゴルフではスコア管理だけではなく、GPSを使って残り距離の測定などにも活用されている。プロスポーツのコーチや監督がiPadを携えて、選手に指示を出す光景は頻繁にある。これらはほんの一端で、もはやテクノロジーを使わないスポーツを見つけるのが難しいほどだろう。
スポーツシューズを中心に市場は拡大
スポーツ産業の活性化に向けて政府が発表した「日本再興戦略2016」によれば、スポーツビジネスは、日本を再興するための柱のひとつであり、2025年には、市場の規模を25兆円に拡大したいとしている。現在の規模からすれば途方もない数字に見えるが、この市場規模を実現するためには、まさにスポーツ業界にもイノベーションが必要となる。そしてこのイノベーションに一役買いそうなのが「スポーツテック」だ。
スポーツテックと言えば、スポーツ自体がテクノロジーの塊なのが「eスポーツ」と呼ばれるこれまでになかったスポーツジャンルの登場だ。これをスポーツと呼ぶかどうかは、さまざまな意見があるが、新たな市場を生み出しているのは間違いない。
矢野経済研究所が発表した2018年のスポーツ用品国内出荷金額は、前年比104%と一見好調に見えるが、サッカーやバレーボールなどの古くからあるチームスポーツ系は軒並み前年割れで、けん引しているのは、スポーツシューズだ。
確かに、通勤の様子を見るとスポーツシューズを身に着けた女性が目立つ。ファッションの要素も多分にあり、スポーツ市場とみなすかどうかは意見の分かれるところであるが、スポーツ市場全体としては伸びている。
そのような中、バンダイがスポーツテックへの取り組みを始めたという。その商品とは小学生向けスポーツシューズ「UNLIMITIV」。「楽しんだヤツが、いちばん速い。」をコンセプトに、子どもたちが、楽しみながら走った記録や運動量を管理することができる。子ども向けの商品らしく、ゲームの機能も忘れていない。
仕組みとしては、ソールにセンサーをつけ、センサーが収集したデータをスマホに送信する。スマホのアプリがデータを読み取り様々な分析数値をはじき出す。
スポーツテックで見るスポーツを活性化?
スポーツにかかわって市場をつくっている人とは、基本的に自分で行うか、観戦するか、あるいは(主に行う人に)教える、の3つのいずれかに入る。(店舗で道具やグッズを売る場合も、このいずれかの人が最終ユーザーになる)
スポーツテックは、この3つのパターンの人たちを支援するものだが、「教える」人たちにはこれまでにも専門的なテクノロジーが数々使われてきたので、今さら「スポーツテック」と言うこともないだろう。さらに進歩していくのは間違いない。
メジャーリーグ野球で、ビッグデータの解析によって、守備位置を決めるなど、まことしやかに言われたものだが、現実には我々の想像をはるかに超えたテクノロジーの活用が行われているのだろう。
以前も紹介したが、日本と欧米(特にアメリカ)とのスポーツ市場の差は、「見る」スポーツにある。試合への動員、現地でのグッズの売り上げなど、プロ、アマチュア問わずとにかくスポーツの現場への動員が違うのだ。少し乱暴な言い方かもしれないが、野球やサッカーの一部を除き、とにかく日本のスポーツは観客を呼べない。
確かに、日本のトップスポーツであるプロ野球やJリーグを観戦に行っても、ゲームの内容は、テレビを見ていたほうがよくわかるという意見は多い。もちろん、臨場感や現場の雰囲気は何物にも代えがたいものではあるが、試合そのものに没頭して楽しみたい人にとっては、進行や判定がいまひとつ分かりにくい。
ゴルフの試合会場などは最たるもので、今の状況が今一つ分からない。最近でこそスマホアプリを使ってリアルタイムで状況を見ることができるようになったが、まだまだ改善の余地は多い。多くは数か所しかないアナログのリーダーボードを頼りにするしかない。
どの競技にしても、普段なら見たことのないプレーが堪能できるだけに、試合の状況が分かりにくいという理由で現地に呼べないのは、実にもったいない。
リプレイや解説、選手紹介、監督・コーチの動き、さまざまなシーンの切り替えなど、現地で補完することで、楽しみが増えるのは間違いない。
テクノロジーの力による「見るスポーツ」の活性化を望む人は多い。
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