ビジネスセンスの磨き方 ⑦フェアプレーの精神/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2019年7月15日 20時5分
猪口 真 / 株式会社パトス
ビジネスセンスというよりも、ビジネスパーソンとしての信頼度に大きく影響するのが、フェアプレーの精神だ。
一般的なフェアプレーな人の印象は、「相手のミスやトラブルにつけこまず助ける」「自己犠牲をいとわない」「自分に非があった場合は素直に認める」「姑息な手段を取らない」「ごまかさない」「主張や価値観が首尾一貫している」といったところだが、こうしたフェアな人との仕事は本当に気持ちがいいし、なんとかして役に立ちたいと思う。
また、こうした仕事がフェアな人は、信頼できるし、何があっても裏切ることはないという信頼感があるために、常に仕事をしたいと思える。
フェアプレーといえば、ビジネスよりもスポーツの中で語られることのほうが多いが、毎日の仕事ひとつひとつが評価される仕事において長期的に成功し続けるには、フェアプレーの精神は欠かすことはできないだろう。そしてフェアプレーの精神が組織全体にも浸透し、その組織の文化となれば、組織の文化としては最高だろう。
公益財団法人日本スポーツ協会が発行している、「フェアプレイニュース」というものがある。子どもたちにフェアプレーの精神(主にスポーツにおいて)を伝え、啓もうするために、著名なアスリートのインタビューやフェアプレーに対する考え方をマンガで紹介し、小学校、中学校に配布している。
そのなかで、スポーツ現場や日常生活のフェアプレーのエピソードを募集し、優秀作品を表彰する「日本フェアプレイ大賞」を発表している。
2019年の大賞は、陰で支えてくれている周囲の人たちへの感謝の気持ちを忘れずに、グラウンドに対しても挨拶を欠かさないこと、さらにその精神を後輩にもつなげていくと発表した生徒が選ばれた。
2018年は、チームメイトがプレーのなかでミスをしても、怒らないし責めないこと、そして試合においても相手を敵ではなく仲間と考えると発表したサッカー部の生徒が選ばれた。
2017年は、自分がされて嫌なことは相手にもしない、ルールを守って楽しくプレーすることが大切だと発表したサッカー部の生徒が選ばれた。
まさに、ビジネスにおいてもまったく同じことが言えるのではないか。これらの精神は、我々大人が学ばなければならない精神だ。
ほとんどのビジネスパーソンは一人で仕事をすることなどできないし、周囲の人に支えられて今の自分があることを決して忘れてはいけないし、仕事は敵味方ではなく仲間であり、仕事の成功のために同じ方向を向いていることも忘れてはいけない。また、「自分がされて嫌なことは相手にもしない」というゴールデンルールは、どのような場においてもあてはまる。
組織が不祥事や問題を起こすたびに、「フェアな精神」は話題になり、コンプライアンスやハラスメントの防止など、主に法的なことに対して順守すること、そしてCSRとして、社会に役立つことなどを多くの企業は宣言するが、先ほどの中学生の言葉をどう感じるだろうか。
部活においても、「勝ちたい」「認められたい」という気持ちに変わりはないし、ビジネスだから大人だからという言い訳はない。
我々大人は、ビジネスで収益を上げること、あるいは組織のなかで抜擢されて出世することが最終目的になると、ライバルを出し抜き、勝つことが何よりも大切な価値観となってしまう。場合によっては、相手が負けることを狙ったりもする。
もちろん、ビジネスを行っている以上、自己犠牲だけでは継続しない。自分自身が成功をおさめ続けることが何より重要になる。他人を思いやるあまりに、自分の利益を常に放棄していたのでは、自分自身が続かない。
また、現在ブラック企業や格差拡大の現在においては、自己犠牲は第一優先とされるものではない。自己犠牲を払うがあまりに最悪の事態を招いているケースも少なくない。
また、現在のビジネスの環境は、1対1の関係や、単純な戦略の比較のうえに成り立つものではないことが多い。様々な利害関係者の複雑なニーズや思惑が絡み合った仕事ばかりだ。何がフェアでフェアではないかは、判断の分かれる場面も多い。自分がフェアだと感じても、相手はまったくアンフェアだと感じることも少なくないだろう。
だとすれば、常に自分の選択に対して、堂々と説明できること。判断した根拠を示すことができること、コミュニケーションの機会から逃げないこと、そして、対立する案が出た場合は、素直に対案を理解し、対話を重ねること。最終的なフェアの精神は、深いコミュニケーションと信頼関係からしか生まれない。
思いやる気持ちや感謝の気持ちは、能力の高さや自分に対する自信があってはじめて可能となる。自信なき自己犠牲は、Win-Winではない。
重要なことは、Win-Winとなる選択肢は常に変わるということ、戦略の変更を余儀なくされることもあれば、当初からとは思いもかけないような変更事項もあるかもしれない。
だから、常にフェアな選択ができるような判断基軸を持つことが重要となる。
フェアな精神は、誰もが中学生、高校生の頃には持っていた精神だ。打ち込まれた投手に、「どんまい、大丈夫!腕振っていこう」と声をかけて励ましていたことを忘れてはいけない。
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