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国運の分岐点を読んで/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2019年10月30日 10時0分


        国運の分岐点を読んで/野町 直弘

野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

デービッド・アトキンソン氏の著書「国運の分岐点」を読みました。デービッド・アトキンソン氏は元ゴールドマン・サックスのアナリストであり、現在は国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社の会長兼社長をやられている方です。

私はマクロ経済の専門家ではありませんが、共感できる部分も多く、今回取り上げます。

アトキンソン氏の著書は以下のような内容です。

「日本の経済分析は客観性に欠ける、何故なら、自分たちが望む結論に合致するように強引に因果関係をつくるから。」

「日本の生産性(1人当りGDP)は世界で28位、生産性が上がらない最大の理由は中小企業が多いことである。その原因を作ったのは中小企業基本法と護送船団方式。」

「人口増加の時代には労働生産性(労働人口1人当りGDP)は下がっても国全体の生産性は上がった。日本が世界2位のGDPになったのは単に人口が多いからであり、技術力の高さや勤勉性は関係ない。人口増加時には賃上げよりも雇用促進が望まれた。」

「人口減少時代に入ると、消費を維持するには賃上げを行うしかない。賃上げの実行により、中小企業の統合が起こり、企業規模の拡大につながり、それが生産性向上につながる。」

「政策的には、最低賃金の引き上げが全体の賃上げにつながる。最低賃金は国益が求める最低生産性のラインである。最低賃金を経済政策として考えるべき。最低賃金を上げると中小企業の統合が進み労働生産性は上がる。また人材の需給状況から失業率が高まることは考えにくく、結果的に国全体の生産性も上がる。このように、人口減少時代には雇用促進よりも賃上げが国益につながる。」

前半に上げた「日本の経済分析は客観性に欠ける」という主張については経済分析だけでなく、日本企業のマネジメントも同一のことが言えるかも知れません。特に経済分析については私も同様の印象を持っています。
例えば1985-90年の所謂「バブル経済」が起こった原因についてですが、経済学者は「過剰流動性」と言いますが、何故その「過剰流動性」が「土地」や「株式」などの資産に向かったのか、その点について論理的に分析・説明しているものは、私が知る限り見当たりません。

また「人口増加時代と人口減少時代で打つ手を変える必要がある。人口増加時代には雇用促進を促す政策が効果的であるが、人口減少時代には賃上げを行う必要がある」というのも納得できます。

一方で賃上げはインフレの要因になるため、望ましいインフレ率に収まるようにコントロールする必要があるでしょう。また、賃上げと最低賃金を上げることは必ずしもイコールではありません。中小企業の統合を図り、生産性を高めるために最低賃金を上げることは、確かに効果があるかも知れませんが、一方で最低賃金だけでなく、日本企業全体の賃上げを誘導するような政策を取らないと、消費の底上げにはつながらないです。

このように、最低賃金引き上げを経済政策として捉えること自体は間違いないでしょうが、これだけで中小企業の統合が進み労働生産性が高まり、しいては国全体の生産性が上がるという点については、疑問を持たざるを得ません。

一方で、今までの人口増加時代の名残りである、1965年に制定された中小企業基本法による中小企業の保護の見直しについては積極的に推進する必要があるでしょう。
アトキンソン氏の主張は産業構造の変革を起こすべき、ということです。具体的には企業規模の構造を変革し、中小企業を減らし、(大企業に)統合することで生産性を高くするというものです。

一方で従来の産業構造の変革は、生産性の低い産業から生産性の高い産業へ構造変革をすることで、国全体の生産性を上げていくというものでした。

そういう面から、アトキンソン氏の指摘は新しい印象を受けます。確かに成長するモチベーションがない中小企業は多いです。また現状の税制なども昔ながらの中小企業を優遇するようなものになっています。一方、ベンチャー企業が成長を目指す事に対してはあまり優遇されているとは言い難いでしょう。

そう考えると中小企業を統合するための仕組みや仕掛けだけでなく、中小企業が成長することに対するインセンティブ制度も効果的な政策と言えます。いずれにせよ、賃上げと産業構造の変革(企業規模、業種両面)が必要になっていると言えます。

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