改革推進者とバイヤーに求められる4つの力/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2019年11月27日 10時0分
野町 直弘 / 調達購買コンサルタント
今回は企業内での改革推進者に求められる4つの力とバイヤーに求められる4つの力について述べていきます。
以前記事で取上げた内容ですので、記憶されている方もいらっしゃるでしょう。
まずは企業内での改革推進者に求められる「4つの力」です。私は「意識」「手法」「インフラ」「実行力」の4つを上げています。
『意識』は正に改革に対する意欲です。
多くの企業の場合、既に「意識」が高い方がどこかにいらっしゃいます。何らかの改革を始める場合「あるべき像」と「ありたい像」を徹底的に討議し、共有する。「あるべき像」「ありたい像」の仮説をイメージするために多くの先進的な事例を共有する、また他社の改革推進者の声を聞き、周りに聞かせる、等々、、
意識の高いキーパーソンの発掘とともに高い意識の醸成を促していく必要があります。
『手法』とは改革手法のことです。プロジェクト管理のための手法やタスクの設計だけでなく、パワポ1枚、エクセル1枚のフォーマットも、場合によっては有益な道具になります。また『手法』は現場で使い、ブラッシュアップさせることで使いやすくなるでしょう。改革推進者は手法を活用する力を持ち、ノウハウを常に成長させることができる力を持っています。
『インフラ』『手法』と近いものですが、主にIT技術などを活用する力です。業務改革の基本は標準化でしょう。標準化した業務を統制するにはIT技術の活用は非常に有効です。特に調達・購買業務は社内外に多くのステイクホルダーが存在します。これらの多くの関連者を情報共有したり、管理するためにはどうしてもITの力が必要となるのです。
最後は『実行力』です。これは改革を推進する力と言えます。
改革を推進する上で一番重要な力は「制約を取り除く」ことです。もし改革推進する上で何らかの制約となっていることがあれば、それを取り払うことが肝要でしょう。制約を取り払うだけで、改革は自然と進んでいきます。そのためには何が制約となっているのかを見極める力と、現場に張り付きながら試行錯誤を繰り返し制約を取り除くことが改革の推進につながるのです。
これらの4つの力を持っている改革推進者は日本企業の調達購買部門にも徐々に増えています。またコンサルタントを上手く活用して、これらの4つの力を補っていける改革推進者も増えています。改革推進者は経験や年齢を積んだ人ばかりではありません。若手の改革推進者でもうまく周りを巻き込みながら改革推進者に必要な4つの力を補いつつ、改革を進めています。
このような改革推進者を外資系企業では”Change Enabler”と呼びますが、日本企業の調達購買部門でもこのようなChange Enablerが増えていることを日々実感しています。またそれによって今までにない改革を進めている企業も増えているのです。
次はバイヤーに必要な4つの力です。
私はバイヤーの4つの素養は「徹底力」「情報力」「コミュニケーション力」「頼られ力」だと考えています。
1つ目の「徹底力」については以前「しつこさ」というテーマで書かせていただいた内容です。
調達購買業務は、時には、社内の実力者や設計部門の部長を説き伏せ、時には言うことを聞かないサプライヤを説き伏せ、動かす力が必要です。どうやってそれを実現するか、人それぞれスタイルはあることでしょう。ただ共通して言えることは、優秀なバイヤーは「徹底力」を持っていることです。細かい文書化や整備されたルールを徹底すること、徹底するだけではなく、他人に徹底させること。それを実行させることによる将来的なメリットを確信して自分が納得できるまで「しつこく」こだわること。これが1つ目の力でしょう。
2つ目は「情報力」これはよく言うアンテナの高さです。
様々なニュースが日々流れています。そのようなニュースの中で何のニュースが大きな自分にインパクトを持つものか、またそのニュースや事象が何を意味しているのか、情報に関する感度の高さと洞察力を高めること、これが「情報力」です。多くのバイヤーは自分から情報を集めにいくことをあまりしません。何故なら情報が集まりやすい立場であり、「情報というものは誰かが持ってきてくれるもの」という意識がどこかにあるからです。これからのバイヤーは
複雑化した時代の中で「情報を集め」「分析・共有し」「洞察する」これらの「情報力」を一層高めていかなければなりません。
3つ目は「コミュニケーション力」です。誰もがその通りだと思われるでしょう。コミュニケーション力で重要なポイントは二つあります。「論理性、説得力」と
「モチベーションを持たせる力」です。「徹底力」でもふれましたが、バイヤーは社内外のステイクホルダーや自分自身に対して何らかの徹底をする必要があります。ここで重要なのは「相手を説得するための」論理的な思考であり、説得する力であり、それをコミュニケーションとして実行できる力です。また一方で様々な現場では論理的な説明だけでは通用しない場面がいくらでも出てきます。こういった場面では「論理性・説得性」だけでは説得できません。これらの場面では「モチベーションを持たせたり」「勇気づけ」を行ったりするコミュニケーション力が必要になります。これが本当の「コミュニケーション力」です。
このコミュニケーション力は別の言い方をすれば「交渉力」になります。「交渉力」とは相手に勝つことではなく、時には論理的に説得し、時には相手を勇気づけていくことで創造的な解決方法を見出す力なのです。
最後の「頼られ力」ですが、これは耳慣れない言葉でしょう。30代前半で私は会社の中で新事業企画の仕事をしていました。それまでは原価企画や購買の仕事をしていたのですが、購買という仕事は企業活動をしていく上で、なくてはならない部署でした。ですから自分が思うと思わざると仕事は生まれてきます。それに対して企画部門というのは自分が何かをやらないと何も生まれない仕事です。当初はそのGAPにかなり苦労しました。
その企画時代に、同じ職場に2つ下の後輩がいたのですが、彼には社内外の情報がどんどん集まってきました。また、社内のお偉い方がよく話をしに来ました、その後輩は企画能力も高かったのですが実現する能力が非常に高い優秀な人間でした。私は「何で彼には情報が集まるのだろう、何で彼のところにはいつも誰かが相談に来ているのだろう」それが不思議でしょうがありませんでした。しかし彼の仕事のやり方を見ていてハッとしました。彼は誰かに何かを頼まれた時に徹底的に時間をかけて、期待以上のことを必ずやって返しているのです。どんなに自分の仕事が忙しくても。。
例えば誰かが一言、「こういうこと知っているか?」と聞かれると、自分が知らないことでも、かなり時間をかけてレポートにまとめて、聞かれた方にプレゼンする。このように、依頼した方の期待以上の対応を必ずしていたのです。そこには仕事上の壁など全くもうけていませんでした。
これが所謂「頼られ力」です。私は社会人になって最初に覚えたのは「自分の仕事の範囲を如何に減らしリスクを低くしていくか」でした。それが間違っていることを、私はその後輩から教えられたのです。以降、私はいかに周りから「頼られ力」を高めていくか、を心がけています。
なぜなら「頼られ力」を高めること、イコール、自分のためになること、と考えているからです。
バイヤーは自ら進んで自分の殻を破り「頼られ力」を身につけていくべきです。「頼られ力」があるバイヤーには自然と情報があつまり、実行力や徹底力がついていきます。
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