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組織を任せてはいけない人の「二つの特徴」(【連載30】新しい「日本的人事論」)/川口 雅裕

INSIGHT NOW! / 2019年11月28日 16時40分


        組織を任せてはいけない人の「二つの特徴」(【連載30】新しい「日本的人事論」)/川口 雅裕

川口 雅裕 / NPO法人・老いの工学研究所 理事長

ドラッカーの『強みに集中せよ』はあまりにも有名だが、著書「明日を支配するもの」の中で、「強み」を発揮して成果につなげるために重要なこととして2点の指摘を行っている。引用すると、『知的な傲慢を矯正することである。強みの発揮を妨げているものを認識することである。そのうち最悪のものが、他の分野の知識を軽く見ることである。』、『悪癖や態度を改めることである。それらのもののためにチームワークや協力を阻害してはならない。』である。

平易に言えば、次のようになるだろう。

自分が持っている知識・スキル・情報のほうが、他者のそれよりも価値がある。自分の専門や得意分野は、他者のそれよりも貴重であるなどと考えて学ぼうとしないのは知的傲慢と言うべきものであり、そのような傲慢な態度は、自らの強みの発揮を妨げてしまう。知的傲慢を含めて、チームワークを阻害するような悪癖や態度は厳に慎まなければならない。なぜなら、強みの発揮も成果の向上も、自分ひとりでできるものではなく、関係者間の協調によって実現するからである。

ドラッカーのこの言葉は、人を登用する(昇進や昇格を決める)ときの貴重な示唆となる。昇進は一般に、その人の持つ強みを根拠にして行われる。表面的には出した成果に対して報いるために昇進が決まったように見えても、成果を出せたのは何らかの強みがあったからこそで、その強みをさらに発揮してもらうために、より高いポジションを与えることになる。ところがよく起こるのは、そのような根拠で昇進をさせた者がなぜか強みを発揮できなくなり、それだけならまだいいが、部署の士気を下げたり、メンバーの成長を遅らせたりしてしまうケースである。

ドラッカーの指摘から、このような結果に終わるのは、本人の「知的傲慢」であり「チームワークを阻害する悪癖や態度」が原因であると考えられる。そもそも、日本のビジネスパーソンの学習に費やす時間やお金は欧米に比べてかなり少ないようだが、そんな中で、自分は強みを評価されて昇進したと満足してしまえば、余計に学ぶ意欲が低下するような人も少なくないだろう。自分の持つ強みを実際よりも高く評価し、それによって部下の持つ強みを無視したり、軽視したりするようになる人もいるはずだ。こういう知的な傲慢から、新たな学びに対する責任も欲求も出てこないのは当然である。「恥ずかしながら、しばらく本も読んだことがない」という管理職は少なくないが、表面的に謙虚な人ではあっても、ドラッカーは知的傲慢と言うだろう。

もう一つの「チームワークを阻害する悪癖や態度」は、様々なことが思い浮かぶ。表情や姿勢や物腰や振る舞いなど、見ているとすぐ伝わるような不安定で不機嫌な態度。評価されたい、見て欲しいという気持ちの裏返しで幼稚な心理なのだろうが、メンバーや関係者の活力を低下させていく。語彙の不足や思考力のなさがすぐにバレてしまう、あるいは、お里が知れるような話し方、話す内容、言葉の選び方。対話やディスカッションのイロハも知らないような、相手の否定と自己主張と不寛容。他者への関心が低いから、多様性に対する理解などもない。どのような強みがあろうと、チームの中における適切な役割と、メンバーとのコラボレーションが、その強みを効果的に活用するための前提条件であり、このような悪癖と態度を持つ人は、自分の強みだけでなくメンバーの強みも殺してしまう。

そして、こういう人はいつか、自分の強みを評価してくれた上位者にばかり目が向くようになる。預かった組織の成果が上がらず、メンバーも育たず、自らの強みも発揮できなくなってくることによって、立場の危うさを感じるようになるからだ。そのストレスの捌け口が部下に向かうようになれば、メンバーもすぐに上しか見ていないヒラメと化していく。「知的傲慢」と「チームワークを阻害する悪癖や態度」を持つ者の昇進は、これくらいリスキーである。社員の主体性や向上心のなさ、組織の硬直化や活力の低下、社内や部署間のコミュニケーションの不足、従業員の定着率の低さ、といった組織風土に関する悩みの尽きない会社も多いが、こう考えてくると知的傲慢や悪癖を持つ者をマネジャーにしてきてしまったのが一因かもしれない。

したがって、昇進の検討にあたっては、「知的傲慢がないこと」と「チームワークを阻害する悪癖や態度がないこと」をチェックするのが重要になるが、昇進の検討基準にするだけでなく、知的傲慢や悪癖を戒めるようなメッセージを経営が日常的に発しつづけるのも大切だ。知的傲慢や悪癖を持つ者は、そのことを自覚していないからである。だから、評価基準にしてルールによって変えていくアプローチと、日常的なメッセージで空気から変えていくアプローチの両方が必要で、これを継続してようやく彼らは自らの状態を自覚できるようになるはずだ。彼らにとって必要な指導は、まず『知的な傲慢を矯正せよ』『悪癖や態度によって、チームワークを阻害してはならない』であり、そのような態度の修正ができて初めて『強みに集中せよ』が意味を持つのだろう。

【つづく】

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