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ゴーン会見への反発に見る「外資の常識」 ~グローバルスタンダードに反発する日本のおやじ/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2020年1月9日 11時1分


        ゴーン会見への反発に見る「外資の常識」 ~グローバルスタンダードに反発する日本のおやじ/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

1.ゴーン会見の目的
ゴーン会見に対して「何も新たな情報が無い」「すべて想定の範囲内で何ら意味は無い」「犯罪者が偉そうにしゃべるな」と専門家や、素人のおやじ友達は反発していました。「日本の司法が悪い」「私は悪くない」というメッセージに終始した会見ですから気分を害する日本人が多いのも当然かも知れません。

いかにダメ会社だった日産を自分だけが生き返らせ、巨額の利益をもたらせたか、自分がいなければ存続できるはずもない会社を建て直し、結果として得た報酬はそもそも多額といわれる筋合いはないというような自らの能力をバンバン自賛します。厚顔無恥もはなはだしいそのプレゼンは日本人にケンカ売ってるのか、と思う勢いです。

加えて人質司法、99%有罪といわれる日本の刑事制度や取り調べにおける不当な取り扱いなど日本の司法批判も日本人の愛国心を損なうものだったでしょう。そんな反発をゴーン氏ほど頭の回る人物は予見できなかったのでしょうか?なぜ素直に謝罪するのではなく、日本人全員から反発を買うような会見にしたのでしょう。

2.日本の(おやじたちの)反発と外資
そもそもゴーン氏の会見の目的は謝罪でも何でも無く、はじめから自己弁護だったからです。自己弁護とそのための自画自賛、それに伴う日本以外からの国際世論の支持を得ることを目的とするコミュニケーションである以上、すべて予定通りに会見は進められたといえます。自分が犯罪で訴追されているのに自己肯定を堂々と行うことに対する反感や批判は、ゴーン会見の目的と全くずれたものとになります。

かつて「日本産業」と、国の名を冠した財閥企業だった日産。今や日産は日本における最も巨大な外資系企業の一つです。日頃進路指導している学生たちにも、ゴーン氏を知らない者はいないにも関わらず、日産が日本最大級の外資系企業だという認識を持たない者がほとんどです。

グローバル化の流れで勤務先が外資系企業に買収されたり、外資系企業に転職する人も増えたでしょう。しかし「外資」と一言でいっても、オフィスの半分が外国人、それも欧米系白人だったり、社内文書やメールがすべて英語というようなものはドラマや映画の世界です。私が知る限り圧倒的に多くの外資系企業のオフィス環境は、見た目で日本の企業とのがつきません。

外資とは「資本」が外国人に握られていることですから、実際に外国人がオフィスにいなかったり、社長や役員以外全員日本人の外資などごく普通です。しかし、外資は外資なのです。この意味がわからないドメスティックな感覚で勤務すると悲劇が起こります。特に長年日本のドメスティック企業の体質が染みついた人は、大きく混乱し、迷走する恐れが高いのです。

3.「謝ったら負け」の世界に謝罪を求める愚
外資の常識では「自分の過ちを認めたら負け」などともいわれます。私は外資系企業勤務の方が長く、またヨーロッパやアメリカだけでなくアジアの企業とも取引をしてきましたが、正確に言うと「謝ったら負け」なのではなく、「いわれ無き批判でも否定しなければ肯定」と考えるべきだと思っています。

自分の業績アピールをできず、転職面接で「そこそこ業績を上げてきました」的な謙遜をしてしまうような、典型的日本人の美徳を備えた物腰は、グローバル環境において理解されることはないでしょう。

つまりきちんと主張すべきアピールができない=能力が無い=ダメ=間違っているという価値観です。そのために盛りに盛って自らが会社すべてを動かしていたかのようなとんでもない大ブロシキを広げるアピールも何度も聞きました。しかし聞く側はただのバカではないので、そのプレゼンを鵜呑みにすることはありません。自らの眼で、その真偽や説得を検証し、自ら判断する(できる)人物が評価します。

ゴーン氏が自画自賛会見をすることはしごく当然であり、その場で「新たな情報が無い」など全く意味をなさない批判ではないでしょうか。訴えをアピールしたい相手はこうした日本的価値観に基づく日本人ではなく、そのようなグローバル環境を共有できる日本「以外」だからです。英語とフランス語に加え、アラビア語??までまじえて説明するゴーン氏に対し、日本の対応はどうだったでしょう。

4.グローバルコミュニケーションとパフォーマンス
会見のあった深夜、森法務大臣も会見を開き、ゴーン氏を批判しました。このタイミングで意見表明できたことは非常に素晴らしかったと思います。タイムリーに発さなければ意味が無いメッセージですから、ここまでは大成功ですが・・・・・

結局森法務大臣の会見、中身がありませんでした。単に「適正な法的プロセスに基づいている」「三権分立」といったお題目を唱えるだけで、少なくともグローバルスタンダードに照らして、日本の司法制度が間違っているというゴーン氏の主張への否定にはなっていません。

謝罪会見で「遺憾に思います」という言葉がいかに虚しく、何の説得力も持たないかは自明です。いくらベストタイミングの反論か意見であっても、反論の内容そのものに意味があるとは思えませんでした。これではゴーン氏の批判にロジックを組み立てて反論できない日本というメッセージになりかねません。

起訴されれば99%有罪という日本の司法制度はやはり大きな違和感があるものと思います。また推定無罪がほぼ機能しない日本のマスコミ含めた現状は、大きな問題があると感じます。しかしこうした日本の独自性やその主張、制度の正当性を訴えたいのであれば、残念ながらゴーン氏のようなパフォーマンスができなければ、そのメッセージは届かないでしょう。

私は会見でゴーン氏の正当性だけが理解されたとは全く思いません。「勝手なこといいやがって」と反発を感じる外国人もいくらでもいることと思います。しかしそれに対するカウンターメッセージを打てなければ、「自分の業績貢献はそこそこです」と転職面接で言ってしまう人と同様に、その真価を理解されることはないと危惧しています。

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