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調達人材のタレントマネジメント/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2020年1月15日 17時46分


        調達人材のタレントマネジメント/野町 直弘

野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

欧米では人材育成の仕組みやマネジメントのことをタレントマネジメントと呼んでいます。昨年の秋にAPQC(American Productivity & Quality Center)という米国の調査会社が調達購買領域におけるタレントマネジメントに関するレポートを発表しました。

「Identifying and Developing the Future Skills Needed in Sourcing and Procurement」というレポートです。

このレポートは私も調達コンサルタントの寺島さんが発信している「It's購買系」というFaceBookページから紹介してもらい知ることができました。従来、欧米企業の調達購買における人材育成についての調査レポートはあまり多くなく、以前の調査で、主要米国企業の調達人員一人当たりの研修費用が平均641ドルで、日本企業の平均69,000円とは、あまり違いがないな、という程度の認識だったのです。

今回のレポートでは米国だけでなくグローバルで21業種204社の部門長を幅広く対象とした調査結果であり、とても興味深い内容でしたので、詳細をここで紹介していきます。

まず、冒頭のサーベイ結果で部門長全体の63.2%が調達購買領域のタレントマネジメントは最重要課題である、と答えています。聞き方の問題はあるにせよ、全体の6割を超える企業が最重要課題と捉えているというのは興味深い事実です。

一方でタレントマネジメントの手法としては、トップ5をinternal coaching(インターナルコーチング)、attending events(イベントへの参加)、professional development plans(プロフェッショナル開発計画)、participating in collaborative groups(コラボレーティブグループへの参加)、formal mentoring(メンタリング).などが占めており、その殆どが社内での取組みであることが特長的です。意外と欧米のタレントマネジメントは日本の状況と似た状況と言えます。

また現状の教育プログラムの実施の調査では、OJTが91.2%、Face to face classroom training(相対による研修)が77.9%、E Learning/online learningcが77.9%と、やはり、伝統的な手法が主たるものとなっているようです。これらの状況も日本の状況とあまり変わりがない、と言えます。

一方で調達購買機能がグローバル化や、新技術獲得や、多様な市場でのリスク管理や市場ニーズの把握に移行しつつあり、より戦略的なソーシングやサプライヤマネジメントを求められ始めているにも関わらず、多くの調達組織では、将来的に求められる機能を満たすプロフェッショナルの人材育成ができていない、とこのレポートでは指摘しているのです。

APQCは調達購買スキルを1.JOB-SPECIFIC、2.GENERAL BUSINESS、3.SOCIAL、4.DEEP WORKの4つのスキルに大別しています。

1.JOB-SPECIFICはFUNCTIONAL COMPETENCIESとも言え、サプライヤリレーションシップマネジメント、サプライヤリスクアセスメント、支出分析やカテゴリーマネジメントなどの調達業務固有のスキルです。
2.GENERAL BUSINESSは企業倫理、チームプレイ、リスクマネジメント、プロジェクトマネジメントなどのファンダメンタル系スキルと言えます。
3.SOCIALはコラボレーションや変革への貢献などの「ソフト」スキルであり、コミュニケーション、ステイクホルダーマネジメント、リーダーシップなどが含んでいるものです。
4.DEEP WORKはクリティカルシンキングやディシジョンメイキング、判断力などの思考法のようなスキルでしょう。

これらの4つに大別したスキルに対して将来の調達購買機能を満たすために必要なスキルをアンケート調査したところ、以下の様な結果になっています。

1位:Business ethics 59.8%:GENERAL BUSINESS
2位:Communication 55.9%:SOCIAL
3位:Stakeholder management 54.9%:SOCIAL
4位:Relationship building and management 52.0%:SOCIAL
5位:Critical thinking 48.0%:DEEP WORK
6位:Supplier relationship management 47.1%:JOB-SPECIFIC
7位:Leadership 46.6%:SOCIAL
8位:Complex decision-making 42.2%:DEEP WORK
9位:Traditional negotiation 41.2%:SOCIAL
10位:Team player 39.7%:GENERAL BUSINESS

調査結果、最も興味深いのは、1.JOB-SPECIFICスキルで上位10項目に入っているスキルは6位のサプライヤリレーションシップマネジメントだけであり、他の3分類のスキルが上位を占めていることです。つまりこれからの調達購買機能に求められるスキルは、より広範囲なファンダメンタル系スキルや改革系スキル、思考法などのスキルであるということです。

またこれらの上位10スキルで、現状備わっている(効果が出せる)スキルとのギャップを見ると、それぞれ以下の様な結果になっています。
(括弧内は効果が出せているスキル、:の後の数字はギャップを示す)

1位:Business ethics 59.8%(32.4%):27.4%
2位:Communication 55.9%(20.6%):35.3%
3位:Stakeholder management 54.9%(21.1%):33.8%
4位:Relationship building and management 52.0%(21.6%):30.4%
5位:Critical thinking 48.0%(14.2%):33.8%
6位:Supplier relationship management 47.1%(20.1%):27.0%
7位:Leadership 46.6%(19.6%):27.0%
8位:Complex decision-making 42.2%(11.8%):30.4%
9位:Traditional negotiation 41.2%(15.2%):26.0%
10位:Team player 39.7%(25.0%):14.7%


このように、必要と考えられているスキルとその習得状況には大きなギャップがあります。特に2.Communicationや、3.Stakeholder managementなどのSOCIALスキルなどのギャップが、大きいことがわかるでしょう。

ここまで読み解いていくうちに2012年~2015年まで私が主宰し、活動を続けた購買ネットワーク会の分科会であるマネージャー勉強会の人材育成チームの最終報告の記憶がよみがえってきました。
このチームでは様々な業種企業のマネジャー層が日頃課題と感じているテーマについて自主勉強会を実施し、報告書をまとめ上げたものです。

求められる購買人材像とは『自らの購買戦略を語り、結果を残す人』であり、そのために必要な10要素として以下をこのチームでは上げました。

1.ゴール設定力
2.戦略・戦術策定力
3.豊富な引出し(経験・知識・スキル)
4.情報収集・分析・加工力
5.論理的思考力
6.リーダーシップ
7.コミュニケーション力
8.人的ネットワーク
9.自分のスタイル・言葉
10.強い信念

言葉は微妙に異なりますが、APQCのレポートと同様のスキルが並んでいます。また、この10要素にはJOB-SPECIFICなスキルは入っていません。何十回かの議論を経るうちに、やはり結局は、このようなファンダメンタル系のスキルが必要だよね、ということに行きついたのです。

またチームの報告ではこれらの10要素を育成するために、OJT、OFFJT、自己啓発、ジョブローテーションなどを活用していく必要がある、としており、最終的には人材育成には近道がなく、何十年かかけて木々を育てていくような「庭師の心がけ」が重要、とまとめています。

従来の人材育成はどちらかというとJOB-SPECIFIC系スキルの育成が中心で、その時にはOJT、OFF-JT、自己啓発が特に有効な施策と考えられてました。しかし今後、これらのレポートのように、よりファンダメンタル系のスキルが重視されてくると、従来とは異なった育成施策を取らなければならないでしょう。

APQCのレポートでは自部門の見識範囲でのみの育成ではなく、人事部門や外部リソースなども活用して、不足しているスキルの獲得を図るべきと言っています。また、キャリアパスの視点など、ジョブローテーションを活用するなど、必要スキルの取得法を見直す必要があるでしょう。

私は今後、このようなファンダメンタル系スキルが益々重要視されると、意識的なキャリアパスの設定と活用、外部からのキャリア活用、人事部門と協業したカリキュラムの構築・実施などが益々重要になってくる筈だと考えます。

いずれにしても調達購買人材育成の方向がドラスチックに変わるきっかけになり得るものだと考えられるでしょう。

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