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サービス提供者に犠牲を強いる「おもてなし」というブラック労働の素/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2020年1月31日 10時23分


        サービス提供者に犠牲を強いる「おもてなし」というブラック労働の素/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

無断キャンで数十万円の損害

ホテルやレストランなどでの無断キャンセルがたびたびニュースでも取り上げられます。予約に基づいて何十人分もの食材を仕入れ、当日は席も確保したにも関わらず、予約時間になっても誰も現れず、予約者に電話しても使われていなかったり、通じないため、店側は全損害を泣き寝入りすることになります。

インターネットで予約が簡単になり、スマホで即座に予約は完了できる店もたくさんあります。「相手の好みがわからない時に複数ジャンルの店を予約しておき、スマートに当日選べる」等といったヨタ情報をツイートした人は炎上するなど、一定の良識はあるかも知れません。一方で開店日に貸し切り予約が入ったが結局誰も現れなかった等のニュースはけっこうよく見ます。

ノーショーとも呼ぶようですが、この手の無断キャンにおいてよくある声に、「キャンセル料を請求しろ」「外国のようにクレジットカードで事前決済すべき」などがあります。私も同意ですが、それに対し店側からは「お客様に負担がかかる」「迷惑かけたくない」という反応があります。

コロナウイルス対応

新型肺炎を起こすコロナウイルスだけでなく、インフルエンザなど、飛沫感染する病気は毎年あります。実際コロナウイルスに感染した人はバスの運転手のように、直接お客さんと空間をともにしていました。医療関係者だけでなく、接客で不特定多数のお客さんと触れなければならないサービス業界は、こうした罹患リスクに常にさらされます。

マスクは絶対的防御ではなくとも、リスクを減らすために一定の効果はありますが、サービス業界ではなぜか「マスクは(お客様に)失礼」という感覚があるとのことで、デパートやホテルのような高級店舗でのマスク着用は奨励されていません。さすがにコロナウイルス蔓延で、マスク着用を店側も認めたということがニュースになるくらい、サービス業界の姿勢が消極的なことは明らかだと思います。

飲食店にしろ、ホテル・デパートにしろ、お客様にご迷惑をかけたり失礼があってはならないという姿勢が一貫しているのはすごいなと感じます。ちなみに私が愛用する飲食店(ラーメン屋さんとか定食屋さん)や店舗では、普段からレジのおばさんたちもマスク着用の方が多いので、お店の人のマスクには一切違和感はありません。

サービス提供者に犠牲を強いる「お・も・て・な・し」

全国民が待ち望む東京オリンピックですが、その招致スピーチで滝川クリステルさんが放った言葉「おもてなし」は、日本のホスピタリティ、メンタリティの優れた点を表す言葉として注目されました。おカネではなく心構えからして違うのが、日本という国の行き届いたサービスなのでしょう。

でも、そうなんですか?それで良いのでしょうか?「おもてなし」って、サービス提供者の犠牲で実現できるものなのですか?だっておカネ関係無しに実現出来るのが日本のサービスレベルなんでしょ?

外国だってバカ高い料金払えば、隅の隅まで行き届いたサービスはいくらでも受けられますよ。かつて会社の出張で超高級ホテルに泊まった時、空港までリムジン(注:バスではなく、バカ長いリンカーンのリムジン)で送ってくれたり、コンシェルジェが代わりにレストラン取ってくれたりしました。

そうした手厚いサービスを、料金に繁栄させず、心意気で提供するから日本のサービスレベルは高く、その「素」となるのがおもてなし精神なのでしょう。

それってブラック労働そのものではないのですか?気合いや精神力で仕事をせよというブラック企業の姿勢そのものこそ、「お・も・て・な・し」なのでではないかと、クリステルさんのスピーチを見た時から感じていました。

金払わなければ客ではない

「お客様は神様」の真の意味として、クレーマーを増長させる意図ではないという、三波春夫さんの真意を初めて解説した拙著「謝罪の作法 (ディスカヴァー21)」では、「お客様はお客様」というサービスの基本を説きました。払った料金に相当するサービスを受けられるから、お客様だけでなく提供側も等しく利益を共有できます。

「おカネはもらわなくともサービスだけを提供したい」と、経営者が望むのは自由ですが、従業員に無償奉仕や低賃金なのに高度なサービスを強要したり、そう洗脳することでブラック労働は生まれます。「お客様はお客様”」、つまり払っていただいた料金と相応のサービス提供こそ理にかなうコストシェアです。適切なコストシェアによって、ブラックな労働やブラックな職場を防ぐことにつながります。

かつて医療業界で仕事をしていた際、医療業界ヒエラルキーの頂点に君臨する医師には、業界全体で「先生様」扱いが常識でした。しかし営業責任者として未払い金数百万円の回収をした際は、「先生」とは呼ばずに「代金をいただかなければお客じゃないですよ○○さん」とこの時とばかりにウサ晴らしできました。

従業員への犠牲を強いることによる「お客様第一主義」や「おもてなし」、それによってブラック労働を忌避する従業員が集まらない、人手不足は、企業の自己責任なのではないでしょうか。

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