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何か変だぞ『働き方改革』/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2020年2月26日 10時0分


        何か変だぞ『働き方改革』/野町 直弘

野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

最近、ある仕事の関係で働き方改革の事例について調べていました。しかし、調べていくと、出てくる事例は労働時間の短縮を促進するものばかり、まるで働くことが悪のような感じです。
「働き方改革」の目的やゴールをどこに置くかにもよりますが、「働き方改革」なのですから、皆がいきいきと働け、尚且つ生産性が高くなる(投入時間当たりのアウトプットが高くなる)ことが恐らくゴールとなるのでしょうが、そのための施策になっていないので、短期間で飽きられてしまう危うさを感じています。

以前もメルマガで書きましたが、労働に関する変数は労働量と難易度、品質と対価、と考えられます。難易度、品質が同一であれば、倍働けば2倍の対価が手に入るわけです。一方で、難易度または成果が高ければ、労働一単位あたりの対価は高くなります。例えば執筆で言えば労働量は原稿の枚数となりますので、(何時間かけようが)100枚の原稿を書けば100枚分の、200枚の原稿を書けば、その倍の対価を得ることができるのです。

この例のように労働量が客観的に定量化できれば、極めて分かりやすいのですが、労働量を測定する概念が、多くの場合、労働時間になることから、働き方改革の本来の目的である生産性の向上ではなく、単なる労働時間短縮運動になっているのでしょう。

労働の難易度と品質はコントロールできません。一方で労働時間と対価はコントロールできます。本来であれば生産性が上がれば同じ労働時間でも多くの労働量を生み出せます。つまり、生産性が上がれば短縮された時間で同じ量を生み出すことが可能になるわけですから、労働時間は短くても、対価は当然同じになるでしょう。

今の働き方改革はとにかく労働時間短縮であり、残業を減らしましょう、という方向なので、労働時間を短縮すると、その時間内で同じ難易度と品質の成果を出そうという方向になります。これによって、多少は生産性が上がるかもしれませんが、一方で対価は、残業が減ってしまうので、減額になります。つまり、生産性は上がっているのに、対価は減るというような、おかしな方向に向いつつあるのです。

このような「働き方改革」=「労働時間短縮運動」の手法ですが、調べてみると、これはいい施策だな、というものもいくつかありました。

ここにそれらの事例を取り上げていきます。

一社目はサイボウズの事例です。同社が働き方改革に乗り出したのは会社設立9年目となった2005年とのこと。IT業界の過酷な労働環境他により、同社の離職率は年間28.5%にまで達していたそうです。このままでは組織が疲弊し長期的な成長へのリスクがあるということで、同社は「長く働き続けることができる人事制度」を「会社のために」導入することを決め、2013年
には離職率を4%にまで改善することに成功しました。

新しい人事制度のコアとなったのは、ライフスタイルに合わせて月単位で働き方を選択できる「選択型人事制度」です。

ここでのポイントは「選べる」ということ。今はどの企業もノー残業デー、有給休暇取得奨励日、20時になったら消灯、というように、一律の施策が多いです。それを改善すべく、「選択型人事制度」を導入しました。「選択型人事制度」とは、「すべての社員を対象に、理由の
如何を問わず、個人のライフステージに合わせた働き方を提供する。」というもので、働き方は月単位で変更することができます。サイボウズでは3つの働き方を選択できるようです。
1.ライフ重視型:時間に制限があることを本人も会社も了承したうえで働く。時短勤務も可能で、給与は時給制。
2. ワークライフバランス型:残業も可能な働き方。月給制で給与は月40時間分の時間外勤務手当を含んだ金額となる。
3. ワーク重視型:より長時間の勤務が可能な働き方。裁量労働制となるが、みなし残業時間を超えて残業した場合は残業代を支給する。

この3つの働き方から自由に社員に選ばせているのです。また、この制度のもう一つ優れている点は、どの働き方でも、評価が同じなら時間当たり賃金は同額だということ。そしてこの選択を月単位で変えられるということです。

次の事例は味の素です。味の素は、来年4月から所定労働時間を1日当たり20分短縮することを労使で合意する見通しになりました。これが実現すると、基本給を変えずに、従来は7時間35分だった1日の所定労働時間が、同7時間15分になります。

1日の所定労働時間は8時間とする会社が多く、また休憩時間なども含むと実質9時間の拘束時間、となっている企業が多いですが、味の素は、もともと法定労働時間よりも短かった労働時間をさらに圧縮するという、取り組みをしているのです。

これであれば、労働量が不変であっても労働時間が短縮されれば、その分早く帰れることができますし、対価は変わりません。この対価が変わらないという点が、ポイントです。
実質的に生産性の向上に応じた対価になるということ。

一方で、味の素がどのように労働時間短縮の全社展開を進めているかというと、そのポイントは、「各部署への権限移譲」と「人事部によるアシスト」の2点のようです。。

味の素には本社機能もあれば工場もあれば研究所もある。同じ本社内であっても、営業部門と経理部門では働き方は大きく異なります。味の素では、「その部署の最も効率の良い働き方を考えられるのは、その部署自身に他ならない」と考えており、人事部がトップダウン的に施策を落とし込むのではなく、その部署の責任者に労働時間短縮の取り組みを考えてもらうという
ことを重視しているのです。

例えば、スーパーフレックスタイム制を導入しており、この制度はコアタイムが無いため、全体会議などはどのように招集するのか、という問いに対しては、味の素人事部担当者は「自主性が尊重される働き方によって、むしろ社員に責任感が生まれ、スーパーフレックスタイム制を導入したからマネージメントがしにくくなったという話は、どの部署の責任者からも出てきていない」とのことです。

両社の共通点は、社員一人一人や部署に選択肢を示し、個々の意思で選択してもらい、自主的に「働き方改革」=生産性向上が進むような仕組みにしている点でしょう。

いずれにしても、皆がいきいきと働け、尚且つ生産性が高くなり、その分時間が短縮されれば皆がハッピーになれます。このような目的を見誤らない推進が欠かせないでしょう。

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