危機時のリーダーの言葉力~東京をコロナ封鎖させないために/村山 昇
INSIGHT NOW! / 2020年3月28日 11時30分
村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング
日々刻々、新型コロナウィルス感染の状況が変わっています。この記事を書いている時点では、東京が爆発的感染するかどうかの分岐点にあって、3月最後の週末は外出を控えるように東京都から発信がなされています。
新型コロナがいったん爆発的に拡大してしまった中国や欧米国は、都市封鎖というハードランディングを取らざるをえませんでした(正確には機体をランディングさせたものの、まだ火花を散らしながら地滑りしている状態ですが)。
一方、日本はというと、どう数字を読み込んでよいかわかりませんが、少なくとも周囲の知人で罹患した情報なども入ってきませんし、また確実掌握される死者数の少なさをみても、危機的な深刻さには陥っていないように感じられます。もちろんこの感覚的なことで、気を緩めることはできません。1週間もあれば、状況がまったく変わるくらいの感染力をこのウィルスは備えているのですから。
ただ、もし、東京が、日本が、このまま都市封鎖をせずに、自粛呼びかけだけで、ピークを下げ、ピークを後にずらし、結果的にソフトランディングで収束させることができれば、これはすごいことであると思います。
「東京モデル」として、世界から感心されるでしょう。「さすが日本人は、東北の大震災のときも利己的行動を控え、規律的に行動し、互いに支え合って乗り越えたよね。ニッポンはミステリアスだ」というふうに。その意味で、私たちはいま、中国・欧米のように中央強権的な禁止によるのではなく、個々の自制的な行動によって解決を引き出す事例を世界に示すことができる機会をもっています(それほどこのウィルスは生やさしいものではないかもしれませんが)。
ですから、小池百合子東京都知事も、藪から棒に「ロックダウン」というようなインパクトの強いワードを持ち出して危機感をあおるだけではなく、「いまこそ世界に東京モデルを示しましょう(だからみなさんの自制的な協力が必要です)」といったような呼びかけが同時にできないものでしょうか。少なくとも、私なら、そう呼びかけられたほうが能動的にそうしようと思います。世界から「日本人ってすごいね」とほめられるのが好きな日本人ですから、大勢がすすんでそうするでしょう。
信頼のおける政治家のことを「statesman」と言います。「state=言葉にする+man=人」。過日のドイツ・メルケル首相の国民に対する演説は、まさにstatesman(statesperson)の言葉でした。「このままだとロックダウンやむなしですよ」とだけ警告を押しつけて終えるのか、それとも、もう一歩踏み込んで「東京モデルを示しましょう」(これ以外のもっと深く導く言葉もあるでしょうが)と1人1人の心を促せるのか、この差は大きいと思います。「北風」と「太陽」ほどの違いがあります。どんな言葉を選び、発するかで政治家の質が表れます。
同様に、マスメディアの報道も「ロックダウン」や「オーバーシュート」「外出禁止令」など危機感や不安感、恐怖感をあおるだけの言葉を並べ立てます。そのほうが注目してもらえるからでしょう。もちろん危機意識を醸成することは、彼らの正しい役目です。しかし、政治家にしてもメディアにしても、いわゆる「劇場型」の演出に終始していて、その奥に「深慮の心」が感じられません。心がないから心ある言葉も出てこないわけです。アタマだけの言葉になっているように思います。
上っ面の劇場型の言葉に、大勢の人が上っ面で扇情されることが、国家的危機の際に一番避けなければならないことだと思います。
最後に、この戦いの最前線で奮闘されている医療従事者の方々、関連役所の方々に最大級の敬意と感謝を申しあげます。
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