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サプライチェーン断絶に備えて/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2020年4月1日 10時0分

サプライチェーン断絶に備えて/野町 直弘

野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

今日は4月1日です。

言うまでもなく新年度が始まる日であり、例年であれば新鮮な気持ちで新しい年度を迎える一日でしょう。しかし、今年はそうはいきません。新型コロナの世界的な感染拡大で企業活動や社会活動、その他の個人の活動が抑制されているからです。

足元で調達・購買業務にどのような影響があるのか、サプライチェーン断絶はおきているのか、など、現段階で捉えることも重要ですが、それに対して先手を打ってどのようなことをやっておくか、がより重要なことと言えます。

我々は2009年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、原発事故、計画停電、タイ洪水などの事案を乗り越えてきているのです。そういう意味から、今我々がやらなければいけないのは、これらの事案から学んだ対応方法を今一度確認することでしょう。

そういう点から私が2012年にアジルアソシエイツのときにまとめたレポート「震災ビフォアアフター」の内容を今回は紹介していきます。

「震災ビフォアアフター」は震災前後で企業の調達・購買がどのように変化したかをアンケートやインタビュー調査し、それをまとめたものです。

まず「震災、他事案の前後で調達・購買部門が変わった」と答えた企業が8割」で、具体的に何が変わったか、に対しては「自社BCP(調達関連業務)の見直し」「バイヤーの意識やスキル」「マルチソース化」「取引先との関係性強化」が多くの企業で上げられています。

特に「自社BCPの見直し」や「マルチソース化」においてはこのような変革を良い機会と捉え、今まで実現しにくかったサプライヤの採用につなげている、したたかなバイヤー像も浮かび上がってきました。「歴史的に1社購買であったものでも複数購買化することへの抵抗感は薄れてきており、複数化して価格差があることが判明した。」「従来からの変更を反対する社内メンバーの理解を得やすい環境となった。」といった声です。

また「バイヤーの意識やスキル」については「原材料の調達責任についての意識が向上した。」「初動が変化した。担当者が自主的に早急に確認実施するようになった。」というようにバイヤーが成長したことが、回答されています。

またBCPについては総花的なBCPではなく「その企業として優先的に生産すべき品目を明確にし、その生産品目に必要な部品や原材料を品目およびサプライヤ毎に管理をしていくこと」が重要であるとのことです。また優先順位をたてる上で重要なことは「リスクのパターン化」。これは単にコロナによるリスクということではなく、生産停止や物流、調達などのリスクに層別する。また、リスクパターン毎にリスクが高い国や地域などを特定し、対象となる品目、サプライヤをリストアップし、BCP対応を個別サプライヤ毎に明確にしていくことです。

またもう一つのキーラーニングは「いざとなったら動かないとダメ」ということでしょう。「今回の対応で三種類のバイヤーに層別された。①何もできないバイヤー②何でもかんでも買いまくったバイヤー③在庫調整と代替品採用(どうしようもない時だけ買いつなげた)に努力したバイヤーの三種類です。」というあるバイヤーの言葉にも象徴されるように、自ら社内外との調整に動いた③バイヤーにならないとダメということです。

そのためには会社の取り組みとして、ある程度の緊急発注についてはバイヤーに発注権限を持たせて柔軟に動けるような権限移譲が必要でしょう。「最終的にどうしても切らしてはいけない原料については直談判をすることも有効」というのはある購買部長の言葉です。

「緊急時において工場やサプライヤとの調整をどれだけ自発的にできるかがポイント」「営業との調整に動き、営業から顧客への代替品の検討に動いてもらうことが必要」など学ぶべき点は多くありました。

また先に述べた権限移譲だけでなく、今一番求められていることは企業としての共通の価値観です。震災発生時に多くのバイヤーを悩ませたのが会社や部門としての共通の価値観が欠如していたこと、と言われています。例えば担当役員は「とにかく生産を止めるな」といい、部長は「まずは情報収集だ」といい、課長は「人命優先」という、このような会社としての共通した価値観や行動指針がない状況が課題であった、と多くのバイヤーが語っていました。

発注権限や情報収集の対象や方法、優先すべき調達品目の明確化、おさえるべきサプライチェーンの対象範囲などを明確にすること。また、企業の仕組みとして経営的視点から必要な施策を策定し、それを講じていくこと、これこそが2011年の事案から学び、今回のコロナ事案に活かしていくべき最大のことだと考えられます。

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