調達購買部門の働き方改革/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2020年7月1日 10時0分
野町 直弘 / 調達購買コンサルタント
前回は、コロナ後のによる人・モノ・金・情報の流れの最適化について述べましたが、今回はそれに続けて、特に調達購買部門の働き方改革にフォーカスして考察を述べます。
多くの企業で在宅勤務が強制的に義務付けられたこの2か月でした。しかし結論的に言うと調達購買部門にとって在宅勤務による支障はほぼなかった、です。特に調達購買部門にとっては「テレワークの推進はこれからも止まらない」不可逆的な流れでしょう。
調達購買部門の仕事はモノやサービスを購入することですが、リアルなモノや人間を取り扱ったりする機能は部分的にしかありません。検収や在庫管理、現品管理などのモノに関わる業務も、もちろんありますが、契約業務に特化した、いわゆるバイヤーにとって、現場は製造現場ではなく、要求元やサプライヤとのコミュニケーションの場であって、様々な情報に基づく意思決定が主業務だということが明らかになったと言えます。このような機能は、今後一層の情報技術の発展によって対面コミュニケーションの代替技術が進化していくことで、益々代替していくでしょう。
一方で今回の在宅勤務は、やむを得ない理由で、突然、在宅勤務を進めざるを得ない状況になりました。そのため、環境面で大きな制約があったことも否めません。小さなお子さんがいるといった家庭環境、仕事用の机や椅子がないなど働く場を準備できていない仕事環境、通信環境やパソコンなどのハード環境など、様々な環境面の制約があり、それが業務の効率を落とすなどにつながったという声も少なくありませんでした。
このような環境面の制約に対して直近の働き方改革でまず重要なことは「選べる」ことです。働く場所や働く時間を個人個人が選べることによってより効率が高まり、効果的な業務ができるのです。
例えば、集中して資料を作成する時は自宅で、対面のコミュニケーションが必要な業務は出勤して、印刷などのツールが必要な場合はサテライトオフィスを活用して、など業務に合わせて最適な場所を選択できる、ということなのでしょう。
ここで重要なのは、あくまでも個々人で「選べる」ということです。多くの企業で、オフィスに何割の人員のみ出社可とか、毎週何曜は出勤を命じるなどの条件を付けている企業のケースが多いようですが、個々人が自分で選択できなければ本気で働き方を改革しようとしているとは言えません。
今回の在宅勤務によってオフィス(特に本社オフィス)という物理的概念の重要性は低下しました。どこにいてもコミュニケーションを取ろうと思えば取れる、ことが分かったからです。
これは従来の組織戦略や組織設計に、より柔軟性を持たせるようになったと言えます。
トラディショナルな議論で、集中購買と分散購買どちらがいいのか、的なものがあります。機能分担においては、集中購買、集中契約を進めるために、物理的にも集中購買部門を本社に置き(場所)、全社の購買を集約するケースが多かったのですが、この場合、工場や事業所とのコミュニケーションが上手くいかない、という問題が頻繁に指摘されました。
それに対して集中購買機能であっても、物理的には工場や事業所に居る(場所)とか、工場や事業所の近隣に居ても問題はなくなります。これで工場や事業所の要求元との、密なコミュニケーションを図ることもできます。
このように機能と物理的な場所を切り話して考えることができ、機能面を優先した組織戦略や組織設計が可能となります。また、これがもっと進むと(本社)オフィス自体が必要なくなるということも近い将来考えられるでしょう。
一方でフェースtoフェースのコミュニケーションの重要性は、より一層認識されます。相手を説得するなどの、単なる報告や連絡ではないコミュニケーションはやはり相手の顔を見ながら相手の理解度を確認しつつ、全身を使ったコミュニケーションやパッションで説得をすることが必要です。大きな商談や要求元との複雑な調整などは、様々なオプションを持ちつつコミュニケーションと取引をしながら、進めていくものです。
このようなケースではフェースtoフェースが非常に重要になります。
また、コミュニケーションをとることが通常の業務になっていないような、新しいサプライヤとのコミュニケーションや今まで話したこともない要求元とのコミュニケーションなどもフェースtoフェースは必要不可欠でしょう。特に日本企業は顔を合わせたことがあるか、どうかでコミュニケーションの取り方や密度が変わってくるので、「初めまして」だけはフェースtoフェースで、やった方がよいという考え方も理解できます。
調達購買業務はコミュニケーションラインもほぼルーティン化されているので、今回の在宅勤務でも大きな問題は表出しませんでした。一方、新規営業などは最もコミュニケーションライン自体を作ることが重要で、オンラインコミュニケーションでは障害が大きいとも言えます。営業の新規開拓などは未だにアポイントメントをとってナンボ、の世界ですし、そういう点からは営業は今回のテレワーク化で相当苦労しているでしょう。
しかし、調達購買はサプライヤから情報収集し、それを自社に役立てていく必要があります。新しいサプライヤは従来にない情報ソースになれる可能性も高いです。そのような情報収集機会を捨ててしまうのではなく、フェースtoフェースのコミュニケーション機会をこれからも活用していくことがバイヤーにとって必要となってくるでしょう。
ウイズコロナの世界でバイヤーが気を付けなければならないのはリスクマネジメントです。様々なリスクがありますが、グローバルで供給がストップしてしまうリスクが第一に上げられます。他方、気にしなければならないのは、事業撤退などのリスクです。多くの企業は今回のコロナ禍で傷ついています。
中小企業においては、「経営危機でもう廃業するしかない」というケースだけでなく、「今まで頑張ってきたものの、心が折れてしまい、突然廃業する」ケースも増えるでしょう。
これは中小企業だけでなく、大企業においても事業の統廃合をドラスチックに進めていく戦略が実行されることも今後は頻発していくと予測されます。こういう環境下バイヤーは今まで以上にアンテナを高くし、情報収集し、手をうっていく必要があります。
ウイズコロナの時代においてはフェースtoフェースのコミュニケーション機会を選択し、活用することで、今まで以上にアンテナを高くして、有益な情報収集を行い、スピード感を持って打ち手を講じていくことが求められるのです。
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