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世界最大のリテーラー、ウォルマートの「顧客との距離を縮める」ゲリラ的戦略/石塚 しのぶ

INSIGHT NOW! / 2020年7月15日 6時2分

世界最大のリテーラー、ウォルマートの「顧客との距離を縮める」ゲリラ的戦略/石塚 しのぶ

石塚 しのぶ / ダイナ・サーチ、インク

ウォルマートの駐車場がドライブイン・シアターに!
ウォルマートが全米にある店舗のうち160か所の駐車場を利用し、「ドライブイン式映画館」を臨時運営するという。コロナの時代に映画館に行くこともままならなくなって、夏だというのに家にいなくてはならないのかと多少フラストレーションを感じている生活者にとっては嬉しいサービスだ。

アメリカでドライブイン式映画館といえば、車に乗ったまま映画鑑賞できる屋外型シアターで50年代から60年代にかけて全盛期を迎えた業態だが、私が渡米した頃もよくお世話になったことを覚えている。お家にいながらにしてあらゆるエンターテイメントが楽しめるネットの時代になってすっかり影を潜めてしまい、今では全米に400か所、ロサンゼルス近郊でも数えるほどしかないが、ウォルマートがそれを一時的にでも復活させると聞いてノスタルジアにかられた。

8月から10月まで、およそ320件の興行を予定しているという。ニューヨークのトライベッカ・フィルム・フェスティバルの運営会社であるトライベッカ・エンタープライズとの提携により運営する。

ウォルマートの発表によると、ただ映画を上映する、というだけではなく、映画監督やセレブが特別出演したりするイベント性の高いものになるようだ。また、映画といえばソーダやポップコーンなどといった食べ物や飲み物も楽しみのひとつだが、オーダーを入れると車までデリバリーしてくれる、あるいは事前にオーダーしておいて到着の際に所定の位置でピックアップするなどのサービスも提供するそうだ。

バーチャル・サマーキャンプで困っている保護者たちに助け舟
また、子供向けのプログラムとしては「キャンプ・バイ・ウォルマート」と銘打ったバーチャル(オンライン)サマーキャンプ・プログラムを立ち上げる。アメリカの家庭では、夏休みの間、子供たちをあらゆる課外活動が楽しめる「キャンプ」に送ることが珍しくない。泊りがけで参加するキャンプもあれば、通学タイプの「デイキャンプ」もある。アメリカでは共働きの家庭も多いので、学校が3カ月間近くも休みになってしまう夏季には、「サマー・キャンプ」がなくてはならない存在になっている。

私が普段生活しているロサンゼルスでは、コロナがらみのロックダウンが始まってからもうかれこれ三カ月を超え、その間、子供たちは学校にも行けずにずっと家で生活している。はじめのうちは「学校が休みになってラッキー」という感じだったかもしれないが、そろそろマンネリと退屈が頂点に達する頃だ。ロックダウンに伴い在宅勤務している親御さんも多いだろうが、家族全員、もう我慢が限界に来ているという話もちらほら聞く。

そこに、ウォルマートがマンネリと退屈を解消する「ファミリー・プログラム」を助け船として提供するというわけだから、普段、ウォルマートで買い物をしていなくても飛びつく人も多いだろう。

「キャンプ・バイ・ウォルマート」は、ニューヨークを中心に体験型リテールを展開するCAMP(キャンプ)社との提携によりプロデュースされる。テレビや映画、ミュージカルなどで人気のスターを起用し、アートあり、歌あり、ダンスありなど・・・、ありとあらゆる子供向けの娯楽や学習のアクティビティを提供するという。

「物売り」ではなく、「ライフスタイル・ソリューション・プロバイダー」
ドライブイン・シアターも、キャンプも「ファミリー」を念頭にデザインされたライフスタイル・ソリューションだ。これを機に、ウォルマートはただの「物売り」ではなく、「顧客(ファミリー)の暮らしを楽しく、そして楽(ラク)にする、ライフスタイル・ソリューション・カンパニー」であるという位置づけをより確かなものにする思惑が見て取れる。

これら二つのいずれも、「ウォルマート・アプリ」を通しての情報配信を前提としていることもミソだ。今までウォルマートの買い物客でなかった人たちにもこれを機会に「ウォルマート・アプリ」をダウンロードしてもらい、「ついで」に買い物もしてもらえたらという算段なのだろう。

ここ数年、ウォルマートはミレニアル世代(80年代から2000年にかけて生まれた世代)を顧客に取り込もうと努力に努力を重ねてきた。依然として世界最大、米国最大のリテーラーという規模ゆえの強みはあるものの、「ウォルマート」といえばどうしても古臭いイメージがつきまとう。近年、環境問題への積極的な取り組みや、あらゆる社会問題について明確なスタンスを示していくなど変化がみられるのも、社会的意識の高いミレニアル世代にアピールしようという努力の表れだろう。ジェット・ドット・コム、ボノボス、モッドクロスなどミレニアル世代に人気のネット通販の会社を立て続けに買収したのも、その顧客をウォルマートに取り込むという相乗効果を期待してのことだったが結局は不発に終わった。

ミレニアル世代は、20歳から40歳までという非常に広範囲な年齢層をカバーする世代だが、ちょうど、サマーキャンプを必要とするような小さな子供がいてもおかしくない世代だ。

コロナという一生に一度あるかないかの危機的状況に際して、困っている生活者に少しでも暮らしを便利に、ラクにするソリューションを提供することは、「急場を救ってくれた(る)ウォルマート」という好感の育成につながるだろう。それは定量化しがたいものだけれど、定量化できないからこそ価値の高いものなのだ。コロナ(隔離)の時代に、顧客に近づく、顧客とつながる戦略を次々と編み出しているウォルマートのクリエイティビティに尊敬の念を感じざるを得ない。

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