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NHKを辞めてユーチューバ―に。起業は「縛られない自由な生き方」なのか/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2020年8月12日 12時14分

NHKを辞めてユーチューバ―に。起業は「縛られない自由な生き方」なのか/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

・2年4カ月でNHKを辞める
タレントのたかまつななさんはお笑い芸人としてデビューし、一方でお笑いジャーナリストを名乗り、演芸ではなく社会問題を広く若者に伝える活動も始め、自身が創業した会社を通じて社会問題や教育問題など出張授業を展開しています。さらに2018年にはNHKのディレクター職として採用され、さらにさらに慶応大学大学院に通いつつも東大の大学院にも通うという超マルチぶりだったようです。

そのたかまつさんが今年7月、NHKを退職したことを自身のユーチューブで報告しました。2年4カ月の在籍だったとのこと。

テレビ局といえば、偏差値最高峰の大学群ですらいまだに超々難関となる就職先です。その頂点の一つNHKですから、どれだけの難関か、もはや奇跡的な採用確率といえるでしょう。大学のキャリア相談を長年やっていますが、旧帝大クラスでもとびきりの学生だけが年に1人とか2人採用される程度のとんでもない最難関であることは間違いありません。「もったいない」と思ったテレビ業界志望者は多かったことでしょう。

・一流企業を早々と辞める若者たち
「3年で辞める若者」に対し、特にネット上において「3年勤めてナンボ」説を唱えればたちまち旧人類扱い、社畜呼ばわりされます。基本的に私の意見は倫理観とか社会正義というより功利主義的な実効性、効果・効率の視点に拠っています。「3年もたずに辞めるのは人としてケシカラン」というような主張をしたことも、思ったこともありません。

ではなぜ早期退職に批判的なのか。キャリア開発のセミナーや指導を行う相手は、大学生・院生だけでなく、企業人、それも年齢問わず新入社員から退職を見据えた50代までさまざまな人々と向き合ってきて、それが損だと思うからです。早期退職するのは個人の自由。自分が良ければ何の問題もありません。しかし「キャリア」は、ただの転職でも個人の好みでもありません。人生です。

人生というスパンでキャリアを見てきましたし、その視点でより良い選択ができる力を養うことがキャリア開発の目的だと信じています。短期間での退職はダメなのではなく、「損」なのです。今の会社を見切って転職する際、あなたの経歴を見るのはネットで社畜批判をする人ではなく、恐らくどちらかといえば会社で過ごした時間の方が長め経営者や人事責任者ではないでしょうか。

コンプライアンスを無視したブラック企業や、健康を損ねてまで勤務を継続する必要などないでしょう。それこそ仕事が元で身体を壊すのは大損だと思います。なのでそのような事態にならないよう、基本的な労働関係の知識を持ち、ブラック企業の洗脳に負けない体制を作っておくことが重要です。

・3年も耐えられない時は起業すればよい?
ブラックな労働環境が原因以外の理由で就職先を早々と辞めてしまう人の意見に「思った仕事と違った」「やりたいことができない」という不満が古くからありました。また「職場に尊敬できる先輩・上司がいない」「(会社や商習慣)ルールを強要されるのが嫌」「本来の仕事ではない、事務や雑用を命じられた」といったものもあります。

そんな社畜生活、サラリーマン生活にさっさと見切りを付け、自ら起業して「やりたいこと」を誰にも縛られずに自由に生きようという選択を進める有名人、芸能人、大富豪、ビジネスの成功者はたくさんいます。

注意しなければならないのは、そうした「何にも縛られない自由な生き方」を勧める人が、全員大成功者であり大金持ちであることです。中には起業などを進めるサロンやメルマガを出す側、つまりは自らの利益獲得のために起業をあおるポジショントークやインサイダーもたくさんいるということです。

政治家に代表される、生まれ育った閨閥(今や親が政治家かテレビタレント以外、政治家になるのは難しい)や環境(当然親が大金持ち)に恵まれた人ではなくとも、超人的努力と才能で成功した人もいます。重要なことは、「辞めよう」と思っている自分が誰かということだと思います。親子4代続いた上級国民でもなく、ばく大な富をもたらすビジネスセンスを持っている訳でもないような普通の人が、「何にも縛られない自由な生き方」実現は可能なのでしょうか。

・「雇われない選択」の実態
私が会社員を辞め、自分の会社を作ったのは40代半ばでした。会社のしがらみや組織のあつれきなど、普通の会社員並みに嫌というほど味わい、自分なりの戦いもし、転職もしてきました。起業において成功は夢見ましたが、大成功する確信は当然なく、事実何度か存亡の危機を迎えました。

何より会社という「器」のありがたみは、すべてを自分でやらなければならない起業によって十二分に理解できました。雑用するために起業した訳ではありません。しかし事務所のゴミは自分が捨てなければ誰も片づけてはくれません。社会保険など専門知識はまるでなく、法人設立だけでなく設立した後もさまざまな手続きを労働局や法務局、税務署相手にしなければなりません。

何より芸能人でも有名人でもない私は、すべて自分で営業しなければ売上が立ちません。「自分から営業しないで大成功」という起業ストーリーをよく見かけますが、営業は新規開拓だけでなく、クロージングから回収、入金されるまで完結しません。スタッフやシステム投資ができるならもっと楽なのでしょうが、「雇われない選択」とは、雑用含め全部を自分でやるという選択です。

ちなみに多額のシステム投資をしようが、自前で手間をかけようが、それらの仕事は1円の利益も生まず、ただ開業資金が出ていくだけです。売上・利益として回収されるには、営業が成功し、恐らく半年以上先に売上金が入金される時です。半年以上、売上・利益ゼロで日々の生活と会社運営をしなければならないのです。

・それでも最後は自らの決断
こうした苦労程度、起業を考える人は誰でも理解しているのだろうと思います。だから起業するなというつもりは全くありません。ただ会社員生活をきわめて短期間しかしていない人が起業するのは、かなりのリスクだということを理解し、それを上回る利益回収が見込めるなら、どしどし起業していくべきだと思います。

「コロナを正しく恐れよう」といわれますが、リスクはゼロにできません。正しくリスクと付き合える人は、きっと起業でも大きな失敗をせずに済むのではないでしょうか。

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