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改良的アイデア VS 革命的アイデア/村山 昇

INSIGHT NOW! / 2020年9月4日 11時52分

改良的アイデア VS 革命的アイデア/村山 昇

村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング

枠組みの中の発想か/枠組みを破る発想か

私たちは日々、仕事・事業の進化に努め、アイデアを出します。それを2種類に分けるとすれば、1つに「改良的アイデア」、もう1つに「革命的アイデア」が考えられます。

改良的アイデアとは、現行システムの上での生産性や効率性を高めるための改善案、製品・サービスの性能や魅力を増すための変更案や補強案をいいます。端的には、既存の枠組みの中で漸次的変化をもたらす発想です。


こうした改良的アイデアは、先行事例をていねいに見習ったり、細かな工夫に長けたりする日本人が得意とするところです。「カイゼン(改善)」を国際語にしてしまったほどです。ただ、昨今はリバースエンジニリングの発達もあって、あるところで導入された改良策は、すぐに他の所でも真似をされ、効果がすぐに失われるようになりました。

改良的アイデアを練るのは、もはや当然の取り組みです。しかしその次元だけに終始・安住してはいけません。他の誰かが革命的アイデアを放ってくるからです。

革命的アイデアとは、現行システムを破壊するような新規システムの創出案、既成概念を打ち破る製品・サービスの考案をいいます。端的には、新しい枠組みをつくり出し、非連続的変化をもたらすアイデアです。

真に革命的なアイデアが実現されると、それによって新しいパラダイム(枠組み)が起こります。すると現行パラダイムは一気に旧パラダイムとなり、減退・消失か、新パラダイムに吸収されてしまいます。それまで覇権や優位を保っていた勢力の存在は急速に縮んでいきます。


既存の枠組みの中で、いわば「処し方」を洗練させていく発想(=改良的アイデア)は、実直に取り組めばいろいろと出てくるものです。ところが、物事の「在り方」を変え、枠組みを変えてしまうような発想(=革命的アイデア)は、そう簡単には出てきません。難度がはるかに高いからです。

ですから私たちは、ついついこの革命的アイデアに取り組むことを敬遠しがちです。しかし、日々の多忙な仕事の合間にも、常に「在り方」を問い、根本的に何かを変えていくという挑戦が大事です。

事業における発想は「より多く売れるか」に縛られる

芸術家や学童が行う創造活動は純粋にそれ自体を目的にできるので何の制約もありません。ですから独創性が出やすいものです。ところが、仕事や事業におけるアイデア発想は、その先に必ず顧客を置かねばなりません。顧客の需要にかない、より多く売れることが宿命づけられます。したがって、いたずらに尖ったユニークアイデアよりも、無難に効果が期待できるグッドアイデアのほうが優先されます。

例えば、ある試作品4点を消費者調査にかけたとします。10人に10点満点(0点:全く買わない~10点:絶対買う)で採点してもらった結果が下表です。あなたが担当者なら、どの案がよいと思うでしょう?

おそらく私たちの多くは、平均スコアの高さからA案を最良のものとして選び、開発を進めるでしょう。あるいは、2番目に高いC案の要素をA案に加えて補強するかもしれません。そうやって多数から受け入れられ、失敗リスクが小さそうなアイデアに引っ張られていきます。

私はかつて消費財メーカーに勤め、商品開発を担当していました。当時の部門長は独自性や革新性を第一に置く人で、「市場を見るな、生活を見ろ」、「一生活者として欲しいものを起こせ」をモットーに現場を指揮していました。そういうカルチャーで育った私からすれば、この消費者調査において有望な候補は、断然B案です。独創性・差異化という観点で、B案は力強い何かを持っていそうだからです。9点が2つも付いたということはよほどの魅力です。

多くの担当者にとって、B案は敬遠すべきであり、採用しないでしょう。それはなぜでしょうか。「極端な趣味の2人にたまたまウケただけ」「ユニークだろうが、それが傑作なのか、駄作なのかが評価できない」「上長をうまく説得できない(データの裏付けがないから)」などの理由だと思います。

「多数にわかりやすい」への傾倒が独創性を衰えさせる

業界を問わず、市場に出回る製品・サービスがどこも似通ってしまうのは、結局のところ、マス(大きな数量)への誘惑によって、現状最も売れ筋の商品を真似て出した方が無難という考え方が蔓延するところにあります。リスクの大きい独創的なアイデアは排除されてしまいます。

また、消費者は自分の中ですでに顕在化している欲求、すなわち不備や不満を埋めてくれることにお金を払いやすくなります。ですから、商品のつくり手は改良的なアイデアによる「ボコ的発想」に集中します。


前掲の消費者調査において、B案は「デコ発想」によって潜在的な欲求をくみ取り、強い提案をしているのかもしれません。あなたはそれを拾い上げ、最終商品へと育む勇気があるでしょうか。B案は革命的商品に化けるかもしれないのです。が、一方、先取を気取っただけの駄作に終わるかもしれません。しかし、それをその時点で見破る評価眼、直感も含めて、優れた商品開発者の資質なのでしょう。

欧米キャッチアップの時代を終え、日本のメーカーが「商品スペックで勝って、事業で負ける」というようなことがあちこちで起こるようになりました。それは表現を変えると、「処し方を改良することでは勝っているけれど、在り方を起こすことで負けている」とも言えます。

もちろん改良的アイデアは大事です。これは日本人の民族的コンピテンシーとして保持すべきものだと思います。しかし、現場では依然、「多数にわかりやすいこと」が優先され、着実に改良を行い、着実に売れそうなアイデアへの傾斜が続いているように見受けられます。そうした傾斜の中では、独創的な発想を出そうとすることも、それを評価する眼も衰えていきます。量への誘惑から離れ、尖った発想・非連続的な発想ができる個と組織文化をどう涵養できるか、これは古くて新しい課題です。






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