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調達購買業務のDXは進むのか/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2020年9月16日 10時0分

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野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

11年前にリーマンショックがありました。リーマンショック後、多くの日本企業はコスト削減を命題として取り組んでいきました。

特に従来であれば、あまり目が向けられなかった経費や投資などの外部支出(いわゆる間接材調達)も対象とされ、コスト削減に力が入れられたことを記憶しています。このような企業の支出全体を対象として、購買機会を戦略的に捉え、コスト削減を図っていく手法は「戦略ソーシング」と言われ、欧米企業では従来から、その取組が進んでいました。一方、日本企業で「戦略ソーシング」という取組みが一般化したのは、まさにリーマンショックがきっかけだったと言えます。しかし、当時間接材調達のコスト削減のスペシャリストは、日本国内には数えるほどしかおらず、多くの企業が、コスト削減をサービスとする企業を使いました。この時期には、上げられた成果に対する一定割合を報酬とする、いわゆる成果報酬型コスト削減サービスへのニーズが高まったことが、特徴でした。

一方で、今回のコロナ禍においては、このようなコスト削減活動への関心はあまり高まっていないように感じます。一部の事業者による同様のサービスの広告をネット上で見る機会は増えているものの、先のリーマンショック時ほど、コスト削減ニーズの高まりは、今現在感じられません。

他方、高い興味を感じているのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)です。先だって私が講演したセミナー参加者のアンケートでも調達部門のDXやIT活用に対する関心は、非常に高いことが結果として出ています。同様に日経新聞が8月に開催した、ダイキン工業の購買担当執行役員のWebセミナーでも、IT活用が今後の調達業務において欠かせない、というアンケート結果が高くなっているようです。

このようなことから考えると、コロナは正に調達購買部門のDX進展のきっかけになると言えるでしょう。

しかし、調達購買部門のIT活用はこの20年程度、殆ど発展が見られません。しいてあげればEDIの発展普及、インターネットの活用、間接材購買システムの導入が進展した程度です。2000年代の初めに購買品やサプライヤに関する様々なデータを収集し、そのデータを活用し、分析を行い、様々な戦略やコスト削減活動につなげるというCSM(コンポーネンツ・サプライヤ・マネジメント)というITツールが出てきましたが、これは殆ど普及しませんでした。

調達購買のコア業務と言われるソーシングプロセスの標準化、自動化のための、いわゆるe-RFxツールも殆ど活用されておらず、未だにメールと添付ファイルで見積りのやり取りが行われているのが実情です。

このように調達購買業務における実行系、情報系のIT活用は20年前から止まっていました。それが今回のウィズコロナの影響により、否応なくIT活用やDXが進んでいくと考えられます。

それでは、調達購買部門のDXは今後、どのように進んでいくでしょうか。短期・中期・長期の視点で考えてみましょう。

短期的には働き方改革やテレワークに伴う、ペーパーレスやプロセスの自動化などを目的にRPA(プロセスオートメーション)、電子決裁、電子契約、文書管理、などの仕組みの導入活用が進むと考えます。これは現状のシステムでは完全なペーパーレスやオートメーションができていない企業が、あまりにも多く、まずは現状ITでは、カバーしきれていないプロセスや紙を介した業務を改善するというのが狙いです。

中期的には、購買情報(品目、コスト明細、サプライヤー、人材スキル、市況、為替、など)の共有と活用を進める情報系システムの導入・活用が進むでしょう。具体的には列挙したようなデータの、情報収集→分析→提案→意思決定のスピードアップが進みます。またここでは、過去の意思決定ロジックを参照するようなAI活用も、進んでいくでしょう。具体的には、価格の自動査定やサプライヤの自動選定、コンプライアンス確保のためのAIによる監査などが上げられます。

長期的には、調達システムのパッケージ化(情報系、実行系共に)が進むとともに、バリューチェーン全体での最適化を図るような営業見積、予算策定、仮見積取得、予算管理、からBS/PL連携、キャッシュフロー改善までの、全社システムとの連携が一層進展していくでしょう。それと共に、調達機能のユーザーへの権限移譲が進んでいくと考えます。

また、これらは単に一企業のプロセス全体での最適化だけでなく、サプライチェーン全体の連携、という形で大きな成果をもたらしていくことが期待されるでしょう。例えばIoTの活用によるサプライチェーン全体での在庫最適化や、設備稼働率管理、保守業務の最適化などにつながるでしょう。

この時代にはIoT、AI、MR(複合現実)の活用などで、閉じたシステムではなく、サプライチェーン全体を可視化できるDXが望まれるに違いありません。

今回のコロナ禍は、その覚悟や方向性を決めた機会と言えるでしょう。この機会を活かすか活かさないかは、それぞれの企業次第です。

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