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ノーベル賞のオークション理論。 ビジネスに取り入れることは可能なのか。/猪口 真

INSIGHT NOW! / 2021年1月26日 17時31分

ノーベル賞のオークション理論。 ビジネスに取り入れることは可能なのか。/猪口 真

猪口 真 / 株式会社パトス

米スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン名誉教授が、「オークション理論」でノーベル経済学賞を受賞した。

オークションとは、ヤフオクやモバオクでなじみのある言葉で、かなりの人が参加したことのあるものだけに、このテーマでノーベル賞なのかと驚いた。

確かに、オークションであれば、欲しいと思う人が一番高い値をつけてくれるまで交渉が進むので、売り手としても納得感が高い。買い手にしても、いくらまで出すかは自分で決めることなので、誰の責任にもできないので、納得感もある。

オークションにもいろいろあり、たとえば、2番目の入札額支払う方式(通常の入札と同様に、最も高い金額を示した人が落札するが、落札者が支払う額は自身の入札額ではなく、競争相手が書いた2番目に高い入札額になる)などは、買うほうも売るほうも、納得できる価格決定メカニズムと言われている。

昔、学生時代に、需要と供給のバランスにおいて価格が決まる的なことを教えてもらった気はするが、そのバランスが崩れているのを、希少商品において、極端に是正するのがオークションということか!

確かに、公開した場で価格を調整することで、もっと高い価格で売れたにもかかわらず、売り切れとなってしまい、ビジネスの機会を失ってしまったという話はたくさんあるだろう。要するに、「もっと高い値段で売れたのに!」と後悔するわけだ。

多くのユーザーがいるなかで、唯一のサービスしかない場合は特にオークション向きだと言えるだろう。たとえば、大量生産できないコンサートや舞台、ショーなどのチケットは、まさにそうだ。1席1万円を1,000席売っても1,000万円だが、10万円で200人買えば、それだけで2,000万円だ。どうしても行きたい人であれば、10万円なら問題なく出すだろうし、こうした人に参加してもらいたいと売り手側も思うだろう。販売開始から1分で販売終了という現状には、そこに参加することすらままならない人も多い。当然、ダフ屋が存在するスペースもなくなる。

オークション理論は、結果として、欲しいと思うニーズの強さと価格が比例し、適切なニーズのもとに適切な価格で市場を形成することができると思われるが、一見すれば、我々のビジネスにおいても、原則的には、ニーズの強さによって費用は決まっていく。

引く手あまたのコンサルタントや講師のフィーは上がるし、誰も欲しがらない人は費用も安い。(これはオークションではなく、いわゆる「見えざる手」か)

ただし、そういう場合であっても、大半の場合、1対1の交渉となる。仕事として成立させたいときは、見積りとして出す、あるいは見積りをもらうことから始まることが多い。どうしても買い手が低予算でお願いしたい場合は、最初から「この金額でお願いできますか」という投げかけから始まる。

同時期に引き合いがあれば、交渉事として、売り手から「この金額までいただけませんか」と返すことはできる場合もあるが、ビジネスは人と人とのつながりのなかで行われるのが基本なだけに、通常の関係性のなかで、オークション的に価格交渉を行うのは、不可能に近いだろう。どうしてもそこは買い手に優位に運ぶことのほうが多い。

結果的に、治まるところで価格が折り合い、お互い、そこそこの満足感で交渉がまとまったとしても、あくまで自分達の存在する周辺の市場規模においての話であり、適切なマッチングがあった上での話かといえば、そうでもない。

現実としては、ほとんどの中小企業・小規模事業者は、所属する市場の仕組みのなかで、ビジネス慣例に基づいて取引されていることのほうが多く、ニーズの高さと価格がピークのところで取引が成立しているケースは少ないだろう。

実際に、本当に素晴らしいモノやサービスを提供できるのに、ニーズを持つ人に届かず苦労する企業も多い。現実に、我々にもそういう相談は多いが、大半の場合、買い手の発見を待たねばならない。

中小企業の大半のビジネスが、周辺の小さな市場のなかで行われている間は、そのなかでのシェア拡大に躍起になるしかなく、最悪の場合、競合との共食いすら起きる。

そしてこのコロナ禍だ。これまで以上に売ることが難しくなってしまっている。飲食業・観光業に限らず、乗り越えることが厳しい中小・小規模企業は多い。そして、いかに素晴らしい製品・サービスを持っていても、営業力・販売力に弱点を持つ企業は少なくない。

ビジネスユースでも、消耗品や部品などのeコマースはかなりポピュラーになってきているものの、常に在庫として準備できるものが大半であり、希少価値のある、遺さなければならない技術やサービスにおいては、マッチング的な仕組みは機能していない。

また、資金に余力のある企業のなかには、これを機に、何か新たな事業を始めたい、新たなサービスを販売したいと考える企業も少なくないだろう。

残された時間は多くないが、事業のM&Aを含め、適切なマッチングは、多くの人が望む仕組みであることは間違いないだろう。

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