森会長退任問題が暴露した根性論組織の脆弱性 ~リスク管理できない日本的組織/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2021年2月16日 12時10分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
・千葉県知事候補になれなかった元メダリスト
プロやアマスポーツでも、現役時代に名選手として活躍すれば、引退時にはそのまま「監督職」という花道を飾る人が多くいます。オリンピック選手に代表されるアマスポーツ界では選手引退後、監督やさらにその上に国会議員や政府官庁トップという例もあります。
水泳の金メダリストの鈴木大地氏は初代スポーツ庁長官に抜擢され、同庁は鈴木氏退任後に、やはり金メダリスト・室伏広治氏を長官としました。もはや金メダリストでなけれはスポーツ庁長官は無理ゲーな前例ができました。鈴木元長官ですが、退任後、これまた台風時の行動や説明で批判を浴びる森田健作千葉県知事の後継知事候補として意欲を見せ、県内与党の支持も集まりそうとのことでしたが、急きょさらに上からの判断かなにかで結局知事候補を辞退することになりました。
千葉県を襲った台風への甚大な被害に、タレント出身の森田健作知事が何もできなかったという批判について、その能力ではなく知名度で選ばれたという意見も出ました。その森田氏後継が結局のところ知名度抜群の元金メダリストで良いのかという声が上がりました。鈴木氏の長官在任中の5年間は、反則タックル問題、ボクシング協会問題、体操協会やテコンドー協会などで、さまざまな問題やトラブルが続出しました。その重要な時期にスポーツ庁長官がイニシアチブを取って事態収束に貢献したという印象はあるでしょうか?
鈴木氏が知事選立候補を取りやめた理由は不明ですが、仮に出馬しても、先に出馬表明している現千葉市長の熊谷氏の評価に対抗できるか、かなりの疑問符が付くようです。
・名選手なら名監督なのか
かつて名選手ではあっても監督で失敗した人は少なくありません。本来は別の機能である選手能力と監督能力ですが、とりわけスポーツの世界においてはとりあえず選手としての名声の高い人は、一度は監督職に就くのが一般的です。しかしそれが上手く機能しなかった例はたくさんあるのですが、現在でもこの流れは全く廃れてはいません。
まあやっぱりスポーツの世界は組織論や経営管理論より根性論なのかなとも揶揄できそうですが、スポーツ界だけじゃなかったですね、功績と管理能力をごっちゃにしてしまうのは。今回の組織委員会会長問題ですが、そもそも失言で首相在任中もさんざん批判を浴びた森氏を会長に据えた組織委員会の責任はどう見てもあります。
組織委員会公式サイトによれば、組織委員会を作ったのはJOCと東京都だそうです。それなら上位機関であるJOCや都はどうしたのと思いますが、残念ながらJOCの山下会長がこの事件でイニシアチブどころか、森氏を統制などできているとは思えません。小池知事は世論を巧みに読んで、態度や発言を変えているようですが、自身が収拾するような動きは見えません。
これで組織として機能しているのでしょう。
・「取締役」という名誉職
スポーツ界だけでなく、日本社会には組織が組織として機能していない面は多々あります。かつて企業社会でも「取締役」は長年会社に滅私奉公で勤め上げた上がりのポストでした。大臣は長年与党で政治家を務めた栄誉でした。昭和の時代には何の知識も能力もなくとも「(官邸に呼ばれて)急に拝命した」と正直に言ってしまう大臣がいくらでもいました。
しかしもう今のコンプライアンスの中で、こんな組織をないがしろにした配置は許されません。上場企業の取締役になれば株主代表訴訟を起こされるリスクもあります。大臣は強力な与党に所属しているだけで、能力に関係なく指名され、あっさりボロを出して即座に退任になる大臣も数々います。
日本のダメ組織の典型的な例が組織委員会であり、名誉職としての取締役や大臣だと思います。能力や責任によって決められなければならない管理者を、組織への忠誠や貢献という意味不明な理由で充てた結果がのきなみ失敗するのだと思います。「余人をもって代えがたい」という理由で推戴された人物が機能したためしがないのはその証左でしょう。森氏や石原元都知事の周囲でもこうした意味不明理由が聞かれました。
・組織の稼働を止めてはならないという当然の危機管理
組織委員会には6人の副会長がいます。なぜ会長が退任した場合、副会長が後を継がないのでしょうか。企業であれば職務代行者順位があり、社長はもちろん、部長が欠けても課長が欠けても組織が動かせるシンプルかつ有効な仕組みがあります。米国大統領も正副2名の大統領が常に別働することで、万一の時に政務を継続でき、さらに下院議長、上院仮議長と継承順位はしっかり決まっています。組織管理の基本といえます。
結局単なる偉い人をとりあえず副会長にしておけ的な、きわめて悪い意味での日本の組織の代表のようなものだといえるでしょう。コロナの終息が見えない中、オリンピック選手や元選手だった役員の方々からは、「選手の夢」や「一生を賭けた戦い」といった自分たちの都合は聞こえても、コロナにどう対処するか、コロナリスクと大会運営の両立という建設的意見は聞けませんでした。そんな人たちが運営している組織は、やはり組織としてはきわめていびつであり、危機管理についても対策できていないものといわざるを得ません。
「オンラインじゃ気持ちが伝わらない」という思考は、コロナ下での出社を強要したり、患者を差別したりする非科学的なものと同一と思います。名誉と管理者能力をごっちゃにするのは、この同一の非科学的思考によるものと断じたいと思います。
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