忘れた頃にバカッター事件が繰り返される理由/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2021年4月16日 7時30分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
・焼肉店バイトのTikTok動画
ニュースによれば、焼肉店のアルバイトが店のアイスクリームを什器から直飲みしたり、商品を不衛生にもてあそぶ動画が拡散しました。30代以上で、日常的にネットニュースを見ている人であれば「また?」と思ったことでしょう。
ネット上にバイトテロなどの不適切行為をさらす行為は「バカッター」と呼ばれるのが固有名詞化するほど定着しました。それくらい繰り返され、その都度「犯人」の自宅住所や家族のプライバシーまでさらされ、就職や日常生活にも支障の出るネットリンチを受けます。今回の事件もアルバイト先は懲戒解雇処分を下したと報道されています。
この世から犯罪がなくならないように、人間の愚かさは消えません。不適切行為は、どれだけ注意喚起しても恐らく永遠に起こるのだと思います。一方、バカッターは単にばかげた行為をするだけでなく、その結果をネットに上げることで、世界中にその存在を知らしめるという大きな影響力があります。今回もその行為がTikTokに動画投稿され、一気に拡散しました。典型的炎上状態になり、動画も転載を繰り返し、すでに犯人と思われる個人名まで晒されています。
・バカッター史前期
思い起こせば2000年代後半、牛丼店でアルバイトが商材の牛丼で超大盛りを作って遊ぶ動画がネット上で注目された頃がはじまりだったと思います。インターネットがない時代でも、アルバイトの悪ふざけは恐らくあったことでしょう。しかしネットの力で、一度その存在が世に広まれば、世界中に拡散します。そして次は犯人あばきが始まります。
その後再び不適切行為が盛り上がったのが2013年といわれる、バカッター元年です。このときはコンビニのアイスケースに入ってふざける写真や、食器洗浄機に体を入れている写真が続々とツイッターを介して出回り、被害者であるそのコンビニ店は後に閉店、食洗機の蕎麦店は破産と悲惨な末路を迎えました。
続々と発生する不適切行為はツイッターが主たるメディアだったことからバカッター行為とか、バイトテロと呼ばれるようになりました。その後も来店客の個人情報やプライバシーを勝手に公開したり、次から次へと不適切自慢が世間に晒され、その犯人個人が特定されていきました
店舗の危機管理、接客業やアルバイト従業員管理の重大性やリスクに注目が集まり、おりからの悪質クレーマー対策と合わせて「ストアディフェンス」という視点で、私も店舗の危機管理専門家としてあちこちでセミナーや講演に呼ばれました。
(プロに聞け(インテリジェンス an report) 第25回 バイトテロ、ネット炎上を未然に防ぐ―― 今、求められるネットリテラシー教育とは)
・バカッター史後期。バカスタグラムへ
大きな社会問題にもなり、バカッター行為も一旦沈静化します。2018年ごろ、若者はツイッターからインスタグラムにシフトします。インスタの興隆と、投稿後24時間で消えるというインスタの新仕様ストーリーズによって再びバカッター行為は息を吹き返します。この後バカスタグラムとの別称も生まれました。
バカッターと全く同じ轍を踏む、飲食店のバックヤードでの不衛生行為が投稿され、そのインスタ投稿自体は24時間で消えても、当然の如く転載され、永遠に残るサイトに載ったものは今でも残っています。
SNSも日々進化します。ツイッターがインスタに代わり、今回はTikTokが利用されていたようです。メディアが代わろうともインターネット上の情報がどんなものであるか、リテラシーを持たない愚かな人たちは永遠にバカッター行為をし続けるのだろうと思います。
・なぜ繰り返されるのか?
バカッター行為を働き、プライバシーが暴露され就職内定を取り消された者もいます。今回の懲戒解雇のような厳重処分や損害賠償なども課されます。自分だけでなく家族の勤務先まで晒され、甚大な影響を被ったにもかかわらず、なぜこうした行為は繰り返されるのでしょう。
それには年次進行という視点があると思います。学校用語ですが、例えば大学1年の時にアルバイト先でバカッター行為をしたことがバレ、大問題になったとします。その甚大な影響はさすがにバカでもわかるので、周囲は一旦注意をするようになります。しかしその後学年が進み、2年3年と進み4年で卒業となり、当事者とその時代を経験した「世代」が卒業してしまうと、もう「当時を知る世代」が不在になります。
ここでバカッター行為の甚大な影響は風化してしまうのです。わが身をもってしか痛みがわからないような愚か者がバカッター行為に及びます。リテラシーがあり、想像力と常識で判断できる人は元からこのような行為には及びません。
結局伝説を伝承する古老がいなくなった集落において、再び神を恐れぬ行為が繰り返されるのです。
・企業側の危機意識が必要
若者をアルバイトで雇用する店側、企業側はこうした事実を忘れてはなりません。ストアディフェンスというコンセプトを提唱していますが、若者たちが代替わりする3年から4年という感覚で、確実にバカッター事件は起きています。恐らくこの先もまた起こることでしょう。
今や新人バイトの教育において、バカッター行為への厳重注意喚起、SNSの扱いや仕事中のスマホ操作禁止など、当然のこととなっています。しかし当然すぎる感覚は返って緊張感を失い、その注意力低下のすき間で、バカッター事件は繰り返されるのです。
飲食店や小売店、お客さんと直接接する業務の企業の方は、今一度、こうした事件の度に危機感を持ち、自社自店の危機管理をあらためて意識して下さい。
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