伝統のビジネススキルは現場に生かすことができるか 問題と感情を分けて考える?/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2021年4月17日 17時52分
猪口 真 / 株式会社パトス
いわゆる「できるビジネスマン」の思考条件としてよく言われることが、問題解決のためには、「問題と感情を分けなさい」ということだ。
事実と意見を混同しない、感覚や気持ちで考えるのではなく、客観的なことなのかどうかを見極める必要がある、さらに、意見・感情の部分に関しては排除して考え、事実としての問題だけを冷静に考えなさい、そうすれば問題解決につながる、など、自分の感情をコントロールし、事実だけを追い求めることによって、問題解決をすばやく行うことができる、といった話だ。
とくに様々な問題を颯爽と解決するコンサルタントには、まず必要な思考プロセスと言われることも多い。
相手がどれだけ感情的になっても、クールにロジカルに、論点を整理し、解決策を生み出していく。最後に握手をして終わり。いかにもかっこいいコンサルタントのイメージだ。
確かに様々な困難で、でかい問題に直面し、並みのビジネスマンでは解決できないようなこともなんとかしなければならない一流のコンサルタントにとってはそうかもしれない。しかし、一般ビジネスマンにそんなことが本当にできるのだろうか。
問題解決にあたる場合は、感情的になっているのが、自分の場合と相手の場合とがあるだろう。自分自身が感情的になってしまい、冷静な判断ができなくなっている場合と、感情的になっている相手に対してどう対応するかという問題だ。
自分の場合、たとえば、自分の出す企画や提案がうまくいかず、出した結果に対してダメ出しばかりをくらったとき、周囲が自分の思ったとおりに動いてくれず、想定どおりに物事が進まず、「くそー、あの野郎!」と頭にくることは誰にでもあるだろう。
このときに、問題と感情を分け、「本当の問題は何なのか」と冷静に考え、正しいこと、本質的な問題解決を図ることが大事だということか。
しかし、「相手はこう考えてきたからこうなったのか」などと仮説を立てたところで、それが本当かどうかわからない。むしろ、「こう考えたこらこうなったのではないですか?」と伝えたところで、「いや」と答えられた日には、さらに頭にくることになりはしないか。要はお互いのコミュニケーションの問題か。
経験から考えた場合、仕事の大変さと感情の良し悪しは実はあまり関係ない。こまかな問題であっても、感情が爆発することもあれば、どれだけ難しい仕事であっても、良好な人間関係と信頼関係の中での仕事はやりがいも生まれるし、気持ちも前向きになる。
次に、相手が感情的になっている場合。これまで経験してきたクレームに対する対応を考えれば、実は自分が気にするのは、相手の気持ちだけだということを思い出す。相手が、こちらの対応になぜか怒り心頭の場合、「いやいやそれは誤解です。いったん、お気持ちは置いといて」と解決できたかというと、私には無理だった。どれだけかっこよくロジカルに叫んでも、「だまれ」の一言でさらにひどいことになった。
スティーブン・R・コヴィーは、著書『第3の案』のなかで、次のように言う。
「どんな対立にも感情が絡んでいる。給与を巡る単純な対立一つをとっても、そこには深い怖れと期待が結びついているものである。仮にあなたが女性の上司で、男性の部下が給与の不満を言いにきたとする。あなたの目の前にいる部下は、相容れない感情をいまにも爆発させるかもしれない。(中略)彼が感情的になったら、問題点だけを考えましょうよと、ありきたりなアドバイスをするだろう。しかしこれでは感情の解決にはならない。言葉とは裏腹に、問題点だけを考えることなどできていないのだ。暫定協定は結べても、そこに絡んでいる感情は交渉できるものではない。くすぶった気持ちはいつか表面化する」
「感情の問題はいったん置いといて」ということではなく、「感情」自体が問題なのだから、結局、感情の問題を先に解決しないことには、ものごとは何も進まないのではないか。
同じような物理的な大変さを持つ仕事があったとしても、お客さんなりパートナーなりが、気持ちよく仕事をしてくれる場合とそうでない場合とでは、雲泥の差がある。
お互い気持ちよく仕事をした場合は、「あれは大変でしたね。どれだけ苦労したか」と、とてもいい思い出話となる。それがきっかけで本当に友人になったりもする。ところが逆の場合は、うまく収まったとしても、いやな気分しか残らないことも多い。「次もお願いします!」という気持ちを持つことはほとんどない。
人生の悩みのほとんどは、人間関係によるものだといわれるように、自分が感情的になろうが、相手がなろうが、それはお互いの人間関係、コミュニケーションの問題ということになる。
感情と問題を切り離し、問題を解決する有能なコンサルタントさんには心から尊敬する。しかも、仕事を継続してできるのだ。
私ら、並みのビジネスマンには到底真似することのできないハイレベルのビジネススキルだ。あまり真似しないほうが身のためかもしれない。
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