「中小企業デジタル化応援隊事業」はDXを推進できるか/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2021年5月21日 12時55分
猪口 真 / 株式会社パトス
以前もあったこの「中小企業デジタル化応援隊事業」、第2期というのがはじまるらしい。
(https://digitalization-support.jp/)第1期の成果については知るところではないが制度そのものに違和感があったため、第2期が始まったことにちょっと驚いた。
中小企業のデジタル化を推し進め、ニーズにあった製品やサービスを効率的効果的に提供できるように、ビジネスプロセスを変えることは、絶対に必要であることは間違いない。しかし、デジタル化を国からの中小企業へのデジタル化支援というのはこういうことなのだろうか。
確かにアンケート調査などでも、デジタル化が進まない理由に「人材不足」と「資金不足」を上げる中小企業の経営者は多いため、それも真に受けたのだろう。
実際に、これまでと異なるのは、「ハンズオン支援」というコンセプトだ。その企業の内情を理解したうえでデジタル化を進めるためには、ハンズオンという、人材投入して中小企業の課題を解決するというやり方は、これはいいのではないかと感じた。システムやツールの導入費用の補助だけ支援していくのでは、単なるツール導入で終わってしまうだろう。
しかし、中身を見てみると、ハンズオンどころか、単なるアルバイト(副業)の斡旋?と感じる。私だけか?
導入企業側からしても、勘違いしそうな説明が多い。まず、あくまで相談であってソリューションの導入ではないこと。お題目に、「オンライン会議システムをはじめとするデジタルツールの導入、ECサイトの構築、キャッシュレス決済の導入、オンラインイベントの開催、RPAの活用といった、企業のデジタル化にまつわる様々な課題を、IT専門家のハンズオン支援によって解決する」なんてことが書いてあるため、時給500円(3500円の国負担で時給4000円の場合)で、すべて実現するのかという勘違いをする企業は多そうだ。
また、至極丁寧に応募要領などが記載されているのだが(領域と依頼内容がマトリックスになっていて、いかにもどこかのコンサルさんがつくった感じ)、「デジタル化したい領域が明確でなく、⽀援の依頼内容も定まっていない場合」などと堂々を書かれており、これを見れば経営者も「とりあえず、なんかうちにプラスになることをやってくれるらしい」と思いこむだろう。
第一、こういう企業に時給4000円(支援金3500円と仮定)の人材が、半年もないのにどうやって対応するのだろうかと思ってしまう。
次に、相談相手が、どこのだれかわからず、フリーのITコンサルなのか、企業の担当なのか、はたまた会社には内緒でアルバイト(副業)しているケースもあり得ること(経産省の登録企業:SMEサポーターであれば法人登録も可能らしい)。いくら500円だとはいえ、ある意味これからのデジタル戦略の方向性を探るのに、こうしたマッチングサイトで決めてしまっていいのかと不安になってしまう。ちょっと軽すぎはしないか。
受けるコンサルタント側にとっても疑問が満載だ。
まず、登録が9月30日までで、終了が12月17日までとなっており、そこまでで支援が終わってしまうようなデジタル化支援で本当に大丈夫なのか。ECサイトの構築・マーケティングプロセスの整備、あるいは業務プロセス改革を含めた働き方改革などに本気で取り組むとなれば、その期間で終わることはまずないだろう。「ZOOM」の使い方を教えるだけではあるまいし、そのあとは、本気でお金を出して自分でやって、ということか。
また、成立までのプロセス事例を見ると、かなり詳細な支援計画を提出する必要があるようだ。事前ヒアリングは用意されてはいるものの、そのヒアリングだけの内容で、どういう計画を提案できるのだろうかと不安になってしまう。それこそ、デジタル化のステップなど、各社、各部署でまったく違う。その会社に本当にマッチした計画を策定するとなると、それこそ、それだけで数カ月は要するだろう。そして驚くことに、この支援計画の段階は、無料だということ、変な話、無料の計画を受け取っておいて、「あとはなし」なんてことが頻繁にありそうだ。
少なくとも、魅力ある提案書にするだけでも2日や3日かかりそうだし、そもそも、詳細な業務内容の精査や調査なく、効果的な提案などできるはずがない。
こういう仕事を本物のITコンサルやSEがやるとはまったく思えない。必然的にアルバイトや副業としてやるのか、小さなSierの社員が登録し、会社が公認にして仕事をするかたちか(この場合、収益は会社にいくはずでコンサルやSE個人のうまみはない)。
受け側にしても、業務のデジタル化は、本来、仕事の仕方やバリューチェーンそのもの、あるいは製品サービスまで変えようとするのだから、これで本当にノウハウがたまっていくのだろうか。
なかには、すばらしい出会いがあり、経営者の意識が一変し、このあとにイノベーションが進展したという事例が生まれる可能性もゼロではないだろう。
とにかく、デジタル化による業務改革、イノベーションが不可欠なのは間違いない。取り組む意識を含めた本当のナレッジをどうすれば共有できるのか、まだまだ課題は多い。
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