ハラスメント専門家から見たリモハラの境界線 /増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2021年5月26日 7時53分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
1.コロナと企業業績の光と影
もはや会議と言えばオンラインミーティングが前提であり、対面しての会議をやっている企業の方が「例外」となったニューノーマル。センセーショナルなニュースで「コロナで就活氷河期再来!」などと脅すニュースを見て不安になった学生から、日本や世界の経済は破綻するのかと聞かれることがありますが、それはマスコミの煽りに過ぎません。
確かに旅行、飲食、小売サービスなど、コロナの大打撃を受ける産業が厳しい環境にあるのは間違いないでしょう。一方、オンラインミーティングのデファクトスタンダードともなったZOOM社は、対前年比売上300%を超える超絶決算をはじき出しました。
コロナワクチンのキープレイヤー、ファイザー社の決算速報では、2021年の売上が260億ドル、予想を70%以上超える見通しとのこと。コロナの影響下の産業においても、当然光と影の両方があります。
2.リモートワークが新たなハラスメント要因に
そのズーム。オンライン会議が定着し、自宅から会議アクセスする社員で「ハラスメントを受けた」という声が上がるようになりました。こんな例があります。
①一日に何度も進捗報告を求められ、作業監視がきつい
②会議中はもちろん、会議以外の時間も就業中はカメラをオンするよう命令される
③自宅、自室の背景について何か言われる
④会議参加時の私服について何か言われる
⑤リモート飲み会に誘われる
⑥自宅の他の部屋を見せるよう言われる
社員からは、リアル職務では起こらなかった、正にリモートワークが原因で発生した不快な事象をリモハラと訴える声があります。これらはハラスメントなのでしょうか。
3.パワハラ?指導?上司の悩み
結論から言います。ハラスメント防止とその対応をさまざまな職場で訴えてきた立場からすれば、リモートもリアルも「ハラスメント」かどうかで判断されます。パワハラ防止法で厳しい規制ができた一方、セクハラと違ってパワハラは、被害を訴える者が「単に不快に感じた」だけでは成立しません。
パワハラ3要件*を満たすものがパワハラとされます。(*パワハラ3要件:①優越的な関係を背景に行われる②業務の適正な範囲を超えている③身体的/精神的な苦痛を与えたり、就業環境を害すること)
要するに業務上必要な指導や命令はパワハラではないのです。指導先で「何かあればすぐハラスメントと言われるのが恐くて部下指導もできない」という声をよく聞くのですが、私はこうした定義を用いて指導や命令がハラスメントではないことを説明します。業務上の指導や命令はハラスメントではないからです。
4.リモハラの境界線
上記「2.」の事象もこの業務性の視点で明確に区分できます。
①と②
頻繁な作業進捗監視が「必要な」業務なら適正ですが、それは生産ラインのように、ミスがあれば危険も生じるなどの必要性がある場合です。リモートワークの事務仕事において、四六時中監視が必要な合理性は通常考えられません。単に上司がヒマでやることがないのか、業務成果を判断する管理能力が無いかのどちらかの可能性が高いでしょう。社長に常時カメラONでなければならない合理的理由を説明できるでしょうか。
③と④
業務上の指示はハラスメントではありません。では私室や私服は業務とどう関係するのでしょうか。インテリアやアパレルなどの業務で、私室や私服のセンスが業務上欠かせないなどあるのであれば合理性があるかも知れませんが、ちょっと現実的にあり得ない気がします。業務上の必要性がないものであれば、ハラスメントになる可能性がきわめて高いでしょう。
⑤と⑥
まあどう見ても単なるセクハラ以外にないでしょう。業務上の必要性があるとは考えられないし、そもそも業務時間外の飲食強要は完全にハラスメントになります。
5.ハラスメント問題の責任は誰?
考えてみれば、いずれもリアルな職場であればここまで注目されないか、そもそもそんな行為がなかったものが、リモートという新たな環境であぶり出されたと言えるでしょう。
ただ、上司・管理者のほとんどの方は、上記のようなハラスメントの認識を持たずに行為に及んでいるはずです。ちょっとした会話のきっかけ、冗談、軽口の一環という程度ということです。
私が本格的に顧問先で聞き取りしたケースで、ハラスメントの意図があったことを認めた人は一人もいません。
ハラスメント対応は道徳が目的ではなく、企業組織のリスク管理です。
「そんな意図はなかった」が通じないため、数々のハラスメント問題が起こっています。ハラスメント対策は絶対に、職場現場では解決できません。経営者、経営管理部門の責任であり、専権事項なのです。
特に社長は一義的にハラスメント問題の責任を負い、発生すればその被害を直接受ける立場であることをぜひ自覚していただきたいと思います。
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