意外にも2020年度のEC取引はマイナス!?/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2021年8月18日 9時35分
猪口 真 / 株式会社パトス
経済産業省が発表した「令和2年度 電子商取引に関する市場調査」によれば、令和2年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、19.3兆円(前年19.4兆円、前年比0.43%減)と、なんとマイナスを記録してしまった。
コロナ禍で、「ECが大幅拡大」「巣ごもり需要が活性化」「ECで物流が疲弊」など、世はEC一色のような騒がれ方をしたものだが、ふたをあけてみると、拡大どころかマイナスとなっていた。
ただし、これにはカラクリがあり、物販系ECは順調に伸びたのだが、サービス系のECが大きく減少したことが、この結果を招いてしまったようだ。
サービス系の落ち込みが激しい
物販系は、2019年の10兆515億円から2020年は12兆2333億円(21.71%増)、サービス系は2019年の7兆1672億円から2020年は4兆5832億円(36.05%減)、デジタル系分野は、2019年の2兆1422億円から2020年は2兆4614億円(14.9%増)となった。
これまでのECのなかで、いかに「サービス関連」が大きなウエートを占めていたのかがよくわかる。ここでいうサービス系とは、旅行サービス、飲食サービス、チケット販売、金融サービス、理美容サービス、 フードデリバリーサービス、その他 (医療、保険、住居関連、教育等)のことだが、2019年度は、物販が約10兆円に対してサービス系は約7兆円と、モノを買う行為と変わらずに、旅行や印象の予約、決済をネット上で行うことが当たり前の社会となっていたことがうかがえる。
ところがこのコロナ禍で、県またぎの移動ができず、ほとんどのイベント(観光イベント、エンターテイメント系イベントすべて)が中止となり、サービス系分野で最も市場規模の大きい旅行サービスが約6 割減、飲食サービスは約18%の減少、チケット販売も6割以上の落ち込みとなった。金融サービスは約13%の増加、理美容サービスはほぼ前年とイーブンだった。
印象でいえば、飲食業はなんとか踏ん張った印象だ。マスコミでも飲食店をなんとかしろ、飲食店を救えの大号令だったので、相当の落ち込みかと思ったが、意外に売り上げはあった感じだ。これに協力金が加われば、ひょっとしたらプラスではないのか。なんとも言えない結果だ。困っている人はほかにもたくさんいる。あるいは、ECを取り入れることができているかいないかで、業績はかなり変わるということか。
また、今年度からフードデリバリーサービスの枠が新たに登場した。市場規模で3,487 億円と急成長した市場となった。データ上では、飲食とフードデリバリーサービスは分かれているので、合算すれば、飲食業のEC売上は、かなりの伸びとなっている。
ということは、相当EC化が進んだのだろうとも推測できるのだが、EC 化率はというと、物販系で前年より1.32ポイント上昇したものの、全体でいえば8.08%と、1割もない。大半の人は、モノはお店に買いに行くのだ。
(サービス系に関しては、EC化率はあえて算出していない)
これまで物販のEC取引はおおよそ10%ずつ伸びてきたので、単純計算すれば、約1兆円分程度が今回のコロナ禍で伸びた計算になるのだろうが、ウーバーイーツや出前館などの新たなサービスが登場したのだから、それぐらいはいくだろう。
品目別でEC化率を見ると、「書籍、映像・音楽ソフト」が42.97%、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」が37.45%、「生活雑貨、家具、インテリア」が26.03%となっており、これらの商材はかなりEC化が進んでいるようだ。
商品の性質を考えれば、「書籍、映像・音楽ソフト」に関しては、いまだに半数もいかないのが不思議なぐらいだし、仕様の明解さを考えれば、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」もECが半数を超えるのも近いだろう。
デジタル商品は14.9%の伸び
また、巣ごもり需要で、デジタル系は相当伸びただろうと推測したが、こちらも14.9%の伸びと、爆発的なというほどのことでもない。もっとも大きな「オンラインゲーム」系は1兆4957億円と大きいが、7.5%の伸びにとどまっている。「在宅になって1日中ゲームやったり、映画見たりしていた」という意見も大多数のように聞こえていたが、これも「なんとか効果」というものなのだろうか、これまでも大好きだった人が、1日1時間程度プレイ時間が伸びた感じとしか言いようのない数字だ。
確かに、有料動画配信は33.1%の伸び、電子出版は36.18%の伸びだが、そもそも3000~4000億程度の市場しかないため、全体に与える影響はさほど大きくない。有料音楽配信は、783億円だ。
旅行やイベントをやめて、巣ごもり需要が増えたという人も多いが、実態は全然カバーできていない。
注目のCtoC市場
メルカリを筆頭に、完全にECチャネルの一つとして定着した感のある個人間EC(CtoC-EC)は、どの程度の伸びなのだろうか。
令和2年のCtoC-ECの市場規模は1兆9,586億円(前年比12.5%増)と推計された。もちろんコロナ禍の影響はあるだろうが、昨今のSDGs的な、リサイクル、リユースの価値観が広がっていることもひとつの要因かもしれない。
ただし、個人的には、著作権や肖像権、商標権など、オリジナルの価値をゆがめてしまうような商取引も見受けられ、そのあたりの法整備を行わないと、健全な経済取引が失われてしまう可能性すらあると感じている。
EC化、IT化が叫ばれて久しいが、この調査結果を見る限り、日本のEC化の進展は、恐ろしく遅い。この点だけ考えれば、コロナがなかったら、全然伸びていなかっただろう。
国もデジタル化、DXを進めているらしいが、本質的な「賢い買い物体験」をどうしたら、ユーザーに与えることができるのか、まじめに考えないと、絵空事のDXを叫んでも、何も解決しないことだけは明らかだ。
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