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戦時対応ができないリーダー  リモート推進を対面で直訴してしまう菅首相世代/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2021年8月26日 11時45分

戦時対応ができないリーダー  リモート推進を対面で直訴してしまう菅首相世代/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

ワクチン接種が進んではいるものの、いまだ収まる気配のないコロナ蔓延に対して政府がテレワークを推奨しても、「国民の緩み」「自粛慣れ」により、いつのまにかラッシュ通勤も元に戻っているようです。国民の緩み?緩んでるのはIOCレセプションやら政治資金パーティやってる、政治家でしょ。

それはともかく、菅首相は国民一人一人への訴えではなく、企業の大本である財界・経済同友会と日商に自ら乗り込み、代表幹事や会頭に直談判でリモートワーク推進を訴えました。リモートワークは個人が趣味で行うものではなく、あくまで勤務先企業の指揮命令下で行うものですから、国民へ呼びかけるのは完全な間違いです。ゆえに今回、財界=経営層への呼びかけたのは、数少ないまともな働きかけといえます。

しかしなぜ菅首相はリモートによるオンライン会談ではなく直談判で乗り込んだのでしょうか?

・「リモートじゃわからない、通じない」モノ
高田馬場駅近くにあるスーパーは、店員さん自ら威勢の良いかけ声をかけ、今朝入荷の魚や野菜、本日の目玉商品をマイクでガンガン煽ってくれます。インカムではなくハンドマイクで店内を歩きながら来店客に声をかけ、店全体の勢いが生まれるようです。お客様への声かけはそのスーパーのモットーとのことで、ホームページでもSpritとして紹介されています。

コロナでダメージを一身に負う飲食店。ある居酒屋は昼から定食や弁当を始め、値頃でおいしいと評判です。店内に入れば威勢のよいかけ声で「いらっしゃいませ!」と店員さんが迎え、帰りは「ありがとうございます!」と再び大声で送り出してくれます。

勤務先の大学の印刷を請け負っている会社。コロナ前から印刷不況ということで、わざわざ営業部長さん自らアポなし訪問でご挨拶に回っています。

一方、ある100円ショップはコロナ蔓延と同時に接客の声かけをやめ、レジにいち早く防御シールドも張り出しました。しかし「一部のお客さんからの苦情」があったということで、挨拶も最低限行うことになったようです。
お客様への声かけ促進スーパーのそばには外資系スーパーがあり、その店は最低限の人員で常に運営されていることから、セルフレジは当然、そもそも声をかける店員さんがまず見当たりません。
飲食店も、不織布マスクではなくウレタンマスクや、ひどい店は防御効果無しといわれるマウスシールドで未だに接客し、大声で「いらっしゃいませ!」をやっています。

財界に直談判に及んだ首相はじめ、今自らアポなし訪問してしまう営業部長のように、世の中には旧来の価値観、旧来のコミュニケーションでないと満足できない人が一定量いるのです。そうした人たちは、時機を得た感染症対策として声かけの中止やリモートワーク促進することを、頭では理解出来ても、体が感覚的に受け入れられていないのだろうと想像します。

結果として「お客様の声」として、感染症対策がサービス低下というクレームになり、クレーム対応を戦略的に行うことができない経営体制下では、「大きい声」に従ってしまうことになるのです。大きい声は単に目立つだけで、真のお客様の声では絶対にありません。しかし旧来の価値観から抜け出せない経営者が意思決定すると、大きい声こそお客様の声だという間違った判断をしてしまうのです。

・なぜ旧来の価値観が跋扈するのか
感染症対策に本気で取り組むのであれば、大声接客も、リモート会議ではなく直談判や対面も、わざわざノーアポで顧客回りも全部ダメです。科学的にあり得ない選択肢ですが、首相自らが直談判という選択肢を選ぶほどにこうした非科学的な旧来の価値観を持った人が意思決定者であり、それに基づく間違った行動が跋扈しているのです。

全てが後手後手としくじる日本のコロナ対応は、旧来の価値観に拘泥するデシジョンメーカー(意思決定者)が差配しているからです。

それは「相手と直接会わなきゃ真意や誠意が伝わらない」という価値観を捨てることができない人たちです。
個人の信条はどんなものであれ憲法で保証されますが、今は戦時なんです。
平時ではなく、戦時での危機管理が必要な非常事態だということをどこまで認識しているのでしょうか。

何もない平時であれば、個人の価値観は自由です。
日本において戦争体験を持っている人は恐らく私の親世代、70代後半から80代以上の方でしょう。72才の菅首相は昭和23年生まれ。首相含め70代前半までの経営者の方々のほとんどは実際の戦争体験者ではありません。
もちろん終戦後の厳しい社会を生き抜かれたことはさぞたいへんだったとは思います。しかし本当の戦時を経験していない人たちが、現在の日本のデシジョンメーカーであるがゆえ、コロナという戦時対応が必要な非常事態への適応が出来ていないのだと思います。

・リモートワークができない会社を見切るべき理由
「コロナ前」価値観からの脱皮ができない会社だからです。小売業やサービス業など、リモートワークができない業種はあります。しかし普通のオフィスワークであるにも関わらず、「リモートでは仕事にならない」と経営者自らが考えているのであれば、その会社は環境対応が出来ない会社だと見るべきでしょう。リモートワークができるにもかかわらず、本格的な取り組みをしないのならそれは対応できていることになりません。

社長や経営者はリモート促進しようとしても、中間管理職がそれを阻止する例もあります。そうであるならその組織はガバナンスが出来ていないことを示しています。いわば血管が詰まって組織が壊死してしまう状態です。台風時に出社を強要する上司も、コロナ下でも歓送迎会をやってしまう官僚も、同じメンタリティといえます。

つまりコロナへの対応を見れば、環境変化への対応ができる組織なのか、自然に淘汰されてしまう組織なのかどうかが見えてくるのです。
菅首相自らがズーム会議を設定できる必要は一切ありません。
当然秘書官に命じて、こんな時機だから率先垂範して、対面交渉ではなくリモート会議で財界と交渉できる人だったら、こんな現状や横浜市長選のようなことにはなっていなかったと思います。

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