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これがDXと呼べるか不明だが、出版業界は新たなフェーズに入ったようだ/猪口 真

INSIGHT NOW! / 2021年8月27日 19時11分

これがDXと呼べるか不明だが、出版業界は新たなフェーズに入ったようだ/猪口 真

猪口 真 / 株式会社パトス

コロナ禍で電子化が進んだ?

全国出版協会・出版科学研究所の調査データによれば、2020年度の紙と電子、両方あわせた推定販売額が、1兆6168億円となんと前年費4.8%増となったようだ。

コロナ禍で書籍が好調だとは言われていた。ステイホーム期間が続き、自宅で読書というライフスタイルを選択する人が増えたからだと言われ、街の書店も、久しぶりに売り上げ○○%アップなどという明るい声が出ていた。

ただし、全体で見れば、紙の書籍は、そうでもなかった。結果、下げ幅は減少したものの、マイナスだ。

同調査データによれば、2020年の紙の出版物の販売額は同1.0%減の1兆2237億円(書籍が0.9%減の6661億円、雑誌が1.1%減の5576億円)。2019年(4.3%減)と比べれば下げ幅が縮小したと言えるものの、『鬼滅の刃』に代表されるコミックスが24%増なので、まともな書籍の売り上げたるやさんたんたる結果だ。加えてアマゾンなどの通販の伸びを考えれば、書店ビジネスは相変わらず厳しいと考えざるを得ない。

上記のデータを見ても、マスコミなどでは、巣ごもり(在宅勤務)となったために、ビジネス書などで進んで学習する機会が増え、書籍の販売が好調だと言われていたが、ほんとにそうかはかなり疑わしい。

そもそも、ビジネス書は必要にかられて買ったり読んだりすることのほうが多いだろう。少なくとも私の場合は、ビジネス書のたぐいは自分で勉強するだけの場合もなくはないが、ビジネス書ということは仕事で使うということであり、企画書の作成に活用したり、打ち合わせ時の資料に使ったりするものだ。また、一時的に貸したり、借りたりするために、紙の書籍を購入するという側面もある。

なので、コロナ禍で、自分への投資として書籍を購入するという人は、よほどの意識の持ち主に違いない。

一方、電子書籍は順調に推移しているようだ。2019年に比べて、28.0%増の3931億円だったという。ただ、2019年も23.9%増だったことを思えば、タイトルの増加や端末の普及を考えると、順当といえば順当だ。全体のなかの電子出版の割合は、2019年の19.9%から24.3%となっており、5人に一人から4人に一人になった感覚か。

電子書籍は、個人的に読むものだろう。まさに巣ごもりには最適のアイテムだ。貸し借りもしなくていいし、何を読んでいるのか人の目を気にする必要もない。

その証拠に、電子コミックが31.9%増の3420億円、電子書籍は14.9%増の401億円にとどまっている。

「honto」の調べによれば、50~60代による購買が2019年の前年比約117%から2020年は125%と伸びているというから、電子コミックスは、全世代に広まっている。

大手がけん引!

こうした変化をけん引しているのは、間違いなく大手出版社だ。

講談社は、2019年12月~2020年11月の売り上げ約1449億円のうち、紙の雑誌と書籍が約635億円で前年比で1・2%減、電子書籍は約532億円で19・4%増加。すでにイーブンのウエートだ。

もちろん、内訳はマンガがメインだと思えるが、ビジネスとしてはいい感じだ。

KADOKAWAは、2021年第4四半期、電子書籍・電子雑誌で、四半期ベースで過去最高の売上高を更新したという。新規事業にも積極的で、映像事業やゲーム事業との相乗効果も出て、順調にビジネスを伸ばしている。

かつて、「出版社はどうなる?」と心配されたものだが、「紙」を中心としたかつての雰囲気はまったくなく、商材そのもののデジタル化、まさにDXが進んだトップクラスの業界とも言えそうだ。

「読み聞かせ」が大幅に増えた?絵本が好調

紙の出版で頑張っている領域が絵本だ。小さな子どもと共に過ごす時間が増え、読み聞かせの時間が増えたのと、かねてからの読み聞かせの普及が本格化したのだろう。

読み聞かせには、電子よりも紙の書籍のほうが使い勝手がいい。紙書籍の存在意義はこういうところにあるのかもしれない。

ただ、この読み聞かせにも問題はある。「YouTube」など動画サイトへの違法「読み聞かせ動画」だ。出版社の許諾を受けたものとは思えないものが大半であり、出版社、著作者にとっては死活問題だ。

また、著名人による書籍紹介の動画も、著作権的にはぎりぎりだろう。出版側も宣伝になるということで黙認状態(むしろ歓迎か?)だが、人のコンテンツを使って、自分でユーチューバーとして稼いでいるわけだから、これは明らかに著作権を支払うべきビジネスモデルのはずだ。

出版は、アニメや映画、舞台をはじめ、さまざまなエンターテイメントのかたちへ発展する、源流をなすものと言っても過言ではなく、それだけに電子化や動画化への展開は、やり方によっては、大きな利益になることもあれば、逆のパターンもある、難しいかじ取りが必要なビジネスだ。

しかし、これだけコミック系しか売れないとなると、コンテンツの元になる「文字本」の行方はどうなるのか。実際にも、いまの書籍は、読解力の低下が根底にあるのかどうかはわからないが、売れる書籍は、これでもかというぐらい「やさしく」書かれているものばかりだ。

文字による深い読解があるからこその、「わかりやすく動画で解説」や「だれでもわかるマンが版」的なものが生まれると思うのだが、この考え自体がもはや「昭和」の遺物なのだろうか。

コミュニケーションツールとしての言語の変化は変えようがないのか。

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