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一時的大盤振舞いの財源には資産課税強化と国の資産売却を充てよ/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2021年10月28日 7時7分

一時的大盤振舞いの財源には資産課税強化と国の資産売却を充てよ/日沖 博道

日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

選挙の季節になると毎度のことではあるが、「我が党が政権を取ればこんなに皆さんにとってメリットがありますよ」という甘いばかりの選挙公約を各党・各候補が声高に叫んでいる。「高校までの教育の無償化」や「出産にかかる費用を無償化」など今回になってようやく強調されている項目もあれば、(コロナ対策に名を借りた)経済対策・中小企業対策といった相変わらずの項目もオンパレードである。

確かにコロナ禍で大打撃を受けた業界の人々、そのしわ寄せを一挙に受けている経済的・社会的弱者の人々の生活を守るだけの精一杯の支援を、今は緊急避難的にすべきである。(トップたる富裕層からのトリクルダウンではなく)むしろボトム層への支援をしっかりすること、およびミドル層を分厚くすることが、社会としての健全性・持続性を保つことにつながると同時に、巡り巡って総体としての景気対策にもなるというのは実は経済理論からも合理的だ。

その意味で、与野党揃って分配政策の重視を掲げていることは、ようやく政治がまともな方向感覚を取り戻しつつあることとして喜ばしい限りである。

だが一方で、今まで以上のバラマキを掲げる政党ばかりであることも事実だ。例えば国民への一律現金給付や所得税減税や消費税の減税を多くの政党が競うように高々と掲げている。コロナ禍で苦しんでいる家庭に対しては適切だが、大した痛手を被っている訳でもない世帯にまで再度現金を配ったりするほど、納税者は寛大ではないし、我が国の財政には余裕は無い(というか、先進国といわれる中では圧倒的に悲惨な財政難にある)ことを彼らは認識しているのだろうか。

しかしながら彼らの選挙公約を見る限り、国の財政状況を踏まえた上で、こうした「大盤振る舞い」を裏打ちする財源の問題を真剣に考えている、もしくは国民に真面目に説明しようとしている責任ある政治家がほぼいないことも、嘆かわしい現実である。

与党は財源についてはほとんど口をつぐんでいる。結局彼ら(といっても幹部以外は気にすることすらしていないかも知れないが)は「行けるところまで国債発行(つまり借金)で行けばいいじゃないか、幸いにして金利暴騰の予兆はなさそうだし」としか考えていないのではないか。そうした態度がいつしか市場の不信感を買い、国債市場が暴落して金利が暴騰して手をつけられないほど債務が膨れ上がる事態になるリスクをどれほど真剣に心配しているのか、逆に心配になってしまう。

岸田首相は総裁選を戦う一時期、金融所得課税を増税することを財源オプションの一つとして掲げたが、金融界を含む経済界全般からの反発で「将来のテーマの一つだ」と引っ込めざるを得なくなった経緯がある。その顛末自体が腰砕け的で少々情けない気もするが、そもそも「金融取引をするのは金持ちだからもっと税金をふんだくればいい」といった庶民の妬み心理に依って動いては、国家百年の大計を誤りかねない。

ほかの取引や所得と違って、金融取引は純粋なマイナス収益と常に隣り合わせであり、リスクが大きい。そのリスクを負いながら得た収益に対し、他の取引と同様な感覚で税を課すことをするのは、経済社会的にみてもアンフェアであるし、国際的には非常識である。実務的にいえば国際的な競争視点からも愚策である。なぜなら日本がそうした増税をすると、外国人投資家は日本市場を避け、日本の投資家は海外市場に逃げ、総取引量が減ってしまうので、税収は却って減ってしまう。そして日本の金融市場は細ってしまうので、経済活動の縮小または動脈硬化を起こしかねない。

話を戻そう。野党の大半もまたこの総選挙にあたり、与党と同様に財源を無視するか、あるいは非現実的な策を提示している。「消費税の時限的な減税」や「消費税撤廃」といった具合に、ますます高齢者が増える日本の社会保障活動の基礎をなす税を減らしてまで有権者の目先のご機嫌を取ろうとしている。その結果、将来世代に大きなしわ寄せが行くことなど我関せずとでも言いたいのだろうか。

共産党にいたっては相変わらず「大企業への優遇措置を止める」という公約を掲げるが、まったく現実的ではない。そもそも日本の税制で優遇されているのは中小企業である(だからこそ窮地に陥ったJTBなどが面子をかなぐり捨てて、減資して中小企業扱いされようとしている)。そして大企業と富裕層は絶対数が圧倒的に少なく、彼らからの所得税を倍額しても財源としてはまったく足らない。それにそもそもへたに大企業や富裕層に対する実効性のある増税措置を矢継ぎ早に打った日には、彼らは今以上に真剣に租税回避に躍起になってしまい、キャピタルフライトが加速することは火を見るより明らかだ。それこそ税収増どころか減収になる可能性がかなり高い。

こうした現実性・実効性のない公約を見る限り、矢野財務事務次官が嘆く通り、与野党とも無責任極まりないとしか言いようがないのだ。

では他にどんな策が「一時的大盤振舞い」を支える財源となり得るのか。その必須条件としては、1)本質的に、社会的非公正さを抑制し、大半の国民がフェアだと納得できる、2)中長期的に見た時、将来の財政健全化を妨げず、むしろ国家財政に対する信頼をつなぎ留め得る、3)短期的に見た時、景気に対しネガティブでなく、中立的かむしろポジティブな作用方向に働く、という3点ではないか。そうすると有効な策が2つほど考えられる。

財源策の一つ目は、保有不動産資産に対する課税を(一時的にでも)強めることである。取引に対する税ではなく、保有に対する税を強化することがポイントである。

不動産資産の保有は圧倒的に高齢者に偏っており、しかも本人の努力とはまったく関係なしに価格が跳ね上がった過去の経緯のお陰で、大きな資産になっているケースが大半だ。しかしそれが若い世代にとっては新たな取得の高いハードルとなっていると同時に、社会的な富の偏在を生んでいる。社会的不公正の最たるものの一つだ。

高額所得者に対する所得税増税は時折話題になるが、どういう訳か(多分、支持者に多い高齢者に遠慮して)日本では不動産資産課税の強化は与野党ともほとんど口にしない。しかし社会の危機に直面しながら所得税も消費税も動かしようがない今、有力な財源として不動産課税を(一時的にでも)強化するのはとてもリーズナブルだと思えるが如何だろうか。もしこれが日本経済と財政(ひいては社会)の将来的な安心感につながるのであれば、恒常的な財政策に格上げすればよい。

反対論は目に見えている。一つには「土地しか資産のない高齢者が可哀そうじゃないか」という泣き落としである。もし本当に生活に困窮しているならそれはそれで支援すべきで、論点ずらし以外の何物でもない。もし生活に困っていて高額の資産を保有しているのなら、是非ともそれを売却して余生の生活費に充てていただきたい。つまりは、流動化する資産も持たず、同様もしくはそれ以上に生活に困窮しながら頑張っている若い人たちを支援するための財源として(不動産資産課税の強化が)相応しくない理由には到底ならないではないか。

もう一つの反対論は、不動産の保有を増税すると取引が抑制されて景気対策上マイナスになりかねないというものだ。しかしこれは経済を知らない人の弁である(または知っていながらの詭弁である)。実際の景気に対する作用方向は逆にポジティブだ。

保有に対し増税されることで、十分な利用がされていない不動産を手放す動きが出てくるのは間違いなく、それは不動産取引の活発化をもたらす。しかも保有税が増額されるので取引価格が急騰する恐れが相対的に少なく、継続的な取引連鎖を生みやすい。つまり日本経済を適度に刺激しやすいのだ。もちろん、かなりの税収増に直結し得るので財政不安の解消にも有効だ。つまり一石二鳥なのだ。しかも不動産なので税率を上げても国外に逃げる恐れはない。

財源策の二つ目は、国の保有資産の売却だ。こちらもなぜか与野党とも滅多に話題に載せないが、一時的な「大盤振舞い」の財源としては、先述の「不動産資産への課税強化」以上に相応しい。

なぜなら、1)いくら巨額であっても一時的な財源であることが明らかなので、常に税収という人の懐で仕事をする官僚・政治家といえどもその使い道に無駄を生じさせたくないという心理・力が働く、2)国がいわば「身を切る」格好なので、財政再建への執念を見せる姿勢をこれ以上なく説得力ある形で訴求できる、つまり将来世代や金融市場に対し「日本国は放漫財政を続ける気はない」というメッセージをこれ以上ない説得力を持って伝えることができるのだ。

さらに言えば、先に挙げた「不動産資産への課税強化」策が万一でももたらしかねない「不動産取引市場の過剰な煽り」効果を抑制する「冷やし玉」(供給増の一助)にもなる。つまり2つの方策は整合的かつ組合せとして良好なのだ。

当然ながら、「売ってしまえばそれっきりで、何度もできる策じゃないぞ」というのはその通り。だからこそ、今回示す大盤振舞いは一時的だぞという自覚を政府も国民も求められ、その財源から生み出される国家予算を大切に使う覚悟を決められるはずだ。この国家の「身を切る」やり方であればこそ、国債での穴埋めという「政治家の罪悪感も国民の危機感も生まない方策」に比べ、ずっと国家の将来のためになると小生は思うのだが、皆さんはどう考えるだろうか。

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