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美大生って何者?~その2 美大キャリア教育で「普通」を教える/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2021年12月21日 12時56分

美大生って何者?~その2 美大キャリア教育で「普通」を教える/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

・ポートフォリオから抜け出した美大生キャリア指導
私がキャリア教育で重視しているのは「お金の儲け方」です。夢を実現する方法はキャリア教育ではなく、まず一人で生活できる社会的自立がキャリア教育の最大の目的だと考えるからです。芸術だけでなく理系大学院の基礎研究、文学・人文学など、お金儲けと直結しなそうに見える学問であっても、学問は金儲けのためにあるのではありません。大学や院で身に付けるのは単なる知識ではなく能力とスキルなのです。

美大生へのキャリア指導と言えば、それはポートフォリオ指導を指すことが多いといえます。金融資産運用メニューや外資系マネージャーが持ってる書類ばさみでもなく、「作品集」と理解していただくのが良いかと思います。

習作がどんどん変化し、向上し、その表現力や視点が磨かれる過程が、作品を時系列で綴ったポートフォリオには詰まっています。ゆえに美大のキャリア指導=ポートフォリオ指導と呼べるほど定着したものです。私もクリエイターとしての能力を見る上で、最も大切なものであることに一切異論はありません。

ただし!
ポートフォリオだけがキャリア指導かといえば、それは違います。つまりクリエイターとしての能力評価には有効でも、先稿で述べたように、美大生のキャリア・就職先進路はクリエイティブワークだけに限らないからです。秋田美大は私のような美術の素人にキャリア科目を任せてくれただけでなく、何と美術学部3年生全員に履歴書演習を課す指導をさせてくれました。これは美大として画期的な教育だと確信しています。

・履歴書指導の意味
一般大学でもエントリーシートの書き方程度はキャリアセミナーなどで外部講師が説明するでしょう。しかし正規のキャリア科目ですので、必修授業を通じて美大生が全員履歴書を書くような講座はないのではないでしょうか。私はその際、履歴書書式もきっちりJIS様式準拠である大学履歴書を指示しました。

学歴などの情報だけでなく、ES的な記入項目もあるからです。「自己紹介書」として得意科目や課外活動、趣味特技なども記載してもらいます。アルバイト面接程度での履歴書は書いたことがあっても、こうした本格的履歴書を書いたことがある学生は、一般大学でもまずいません。美大生たちは苦戦しつつも課題を提出してくれました。

当然のことながら、履歴書は単なる就活の道具ではなく、法的にも意味を持つ有印私文書です。これはあくまで演習ですが、そうした重要な書類であり、勝手な書式変更や文字以外の表現は禁止であることなど細かいルールを、人事の専門コンサルタントとして説明しました。

単に文字を埋めれば良いのではなく、履歴書という書類を通じて自分を売り込むという、ある意味美大生が苦手とする文章コミュニケーションであることも説明しました。

恐らく私の想像を超える苦労があったと実感しています。しかしそれだけに、この苦労を3年次に体験しておくのはきわめて意味があると考えます。「すごく書くのはたいへん」であることを実体験しておくのと、就活本番の時初めて経験して、あせりから挫折しかねないほどの苦労をするのであれば、絶対に早い内に慣れておくのが有利だからです。

四苦八苦して書いたであろう履歴書をすべて読み、例えば学歴の書き方が間違っている個所、学校名を「二寺小学校卒」のように省略したり、「秋田市立」を抜かしたりを修正するよう指摘。さらには意図はわかっても、自分の売り込みになっていないような自己紹介欄を修正したりと、とんでもない手間はかかりましたが、非常に意味のあるフィードバックができたと自負しています。これを私一人で行ったことは、統一した価値判断が出来、学生の皆さんにもブレなく説明ができたと思います。

・確実に広がった選択肢
キャリア教育にベストはありません。長年取り組んできた理系大学院生向けキャリア教育において、私は最も経験と知見を持っていると自負しています。(持ってるだけですが)
「美大生にはポートフォリオ」が重要なことも重々理解し、それを否定する気は一切ありません。

ただ秋田美大のように、卒業生のほとんどは「会社員」になるのです。その半分は普通の会社員であって、デザイナーやAD(アートディレクター)などのクリエイティブ職ではありません。普通の会社員になるんだったら美大に行く意味が無い、のでしょうか?????

東北大や東工大といったトップ大学院の修士/博士を修了して、製造部門や営業部門で働くOBOGは山ほどいます。理系トップ大学院修了者全員が研究者・研究職に就くことはありません。理系トップであれ、美大であれ、「普通の会社」に「普通の職務」で入社するのがマジョリティなのです。もちろんそれは負け組でもなんでもなく、理系出身社長の多くは研究所ではなく製造部門出身であり、理系で営業までできれば会社を背負う基幹業務を2つとも押えることになります。

発想力や表現力に加え、ヨゴレも気にせず制作を実践できる美大生。現場仕事もIT(イラストレータ)対応までやります。(男女ともけっこうな力持ちもいる)

・美大生を採用するには
普通の会社に適応するため、ES(エントリーシート)が書けなければキャリアにはなりません。芸術と社会をつなぎ、美術教育で身に付けた表現力を発揮する「場」を得ることこそ、美大キャリア教育の成果だと考えます。

人材不足に悩む企業の皆さん、新卒が採れないと悩む人事の方。
ぜひ美大生を検討してみて下さい。クリエイティブ職に限定せず、偏りのない視点で美大生を見ていただければと思います。
実は履歴書演習以外にも「3年生全員個人面談」というハードルも課したのですが、この顛末についてはまたいつか!

手を動かして仕事をする能力、発想力、表現力、現場仕事からIT対応まである程度できる、高いポテンシャルを持つ人材と出会えることでしょう。

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