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【インサイトナウ編集長対談】自分の成し遂げたいことのために、思う存分、既存の枠をぶち破る発想をしてほしい/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2022年2月1日 9時0分

【インサイトナウ編集長対談】自分の成し遂げたいことのために、思う存分、既存の枠をぶち破る発想をしてほしい/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:村山 昇様
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「働く」意識は、本質的なところでは大きく変わっていない

猪口 村山さんは、「「働くこと・仕事の本質をつかむ哲学的なアプローチ」を志向されていますが、現在、若い世代(特に30歳代)において、働く意義の変化を感じますか?

村山 人が抱く「働く意義」には、お金のため、自己成長のため、家族のため、社会貢献のため、社会を変えるため、人と出会うため、他者に認められるため、暇をつぶすため、生きた証を残すためなどいろいろあります。

私は企業の従業員や公務員を対象にキャリア開発研修を行っています。その研修プログラムの中で、働く意義(研修中では「働く理由」としています)について答える箇所があり、働く理由が複数ある中で1番目にくるものを聞くのですが、おおよそ、お金を働く理由の1番目にあげる人は50%。お金以外のもの(成長のためとか人と出会うためなど)をあげる人が50%です。もちろん会社によって、受講者の年齢によって多少の違いはありますが、トータルには半々です。この比率は私がこの研修事業を始めた約20年前とあまり変わっていません。

猪口 大きな視点で見れば、それほど変わっていないということですね。

村山 そうした観点から言えば、働く意義に大きな変化はないと思っています。お金を稼ぐために働くという意義は誰しもベースのところで強くありますが、働くことはお金以外のところにあると感じる部分も依然多いということではないでしょうか。もちろん私が研修で関わる人たちは主に大企業の従業員や公務員ですから、これをもって就労者全体がこうだとは言えません。ただ、変化という側面からは、ここ最近で働く意義が大きく変わっているようには思えません。

ただし、社会貢献を目的とした起業やクラウドファンディングの世界は、むしろ若い人たちが主導している様子です。そういったデジタルな支援環境・ツールが多様に出てきたことで、20代、30代の人たちのお金以外の働く意義が促進される可能性が広がっていると私はみています。

猪口 コロナ禍は、働くスタイルを変え、「働く」ということの意識もかなり変わったと言われますが、どのようにお感じになりますか?

村山 コロナによって大きく変わったのは、「働く」という営み全体に対する意識というより、「業務をどう処理するか」という作業感覚ではないでしょうか。つまり、「あ、商談ってけっこう直接訪問でなくともオンラインで済ませられるものなんだな」とか、「今まで1つのリアルな場所に集まって長時間会議やっていたのは何だったんだ」という感覚なのだと思います。

猪口 なるほど。確かに、「どこで働くか」という問題が、労務管理やミーティングツールが一気に普及し、「自宅で十分働ける」という感覚を多くの人が持ったでしょうね。

村山 コロナは、アナログ的な作業でぐずぐずとしていた日本の職場の状況を一気にデジタル的作業に置き換える効果があったように思います。そして人びとが「けっこうデジタルいけるね」という実感を持った。そんな外形的な変化に伴う感覚の変化が一番大きかったのではないでしょうか。

しかしながら、職場での経営者、管理者、一般社員の間でやりとりされる会話は、依然「どう目標数値を達成していくか」「どう生産性を上げるか」に終始していて、結局多くの人から出てくる言葉は「やれやれ、給料をもらうのはやっぱりタイヘンなんだな~」ということに落ち着いてきます。「働くこと」について、深い意識層のところで何か大きく変わったようには思いません。

ただごく一部には、コロナ禍を環境問題や人類文明の問題という次元でとらえ、一人一人の人間の足下の労働のしかたから変えていかねばならないと考える人もいると思います。国連が提唱している「SDGs(持続可能な開発目標)」がブームのようになっていますが、こうした深い次元からコロナを考え、働く意識を考える人が増えれば、SDGsは本格的な運動になってくるのではないでしょうか。

「働く」ことにおいて、何が最上位の目的であるかを考える

猪口 「働く」意識に入るかどうかは別として、出世意欲が減った、昇進したくない人が増えたという話も聞くようになりましたが、どのようにお感じになりますか?

村山 そのとおりだと思います。ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーは、約100年も前の著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中で、当時の新大陸アメリカでは、ビジネスがスポーツ化していると指摘しています。この流れは今日まで強化され続け、いままさに、事業や仕事というのは利益という得点を追求する熾烈なゲームスポーツになっています。

ゲームスポーツは競争を強います。競争原理は適度であればよいはたらきをしますが、それが過大になり、常態化すると、悪いはたらきも出てきます。いま、多くの人、特に若い世代がそうした競争に疲れてきているというか、しらけているのではないでしょうか。

個々人が仕事というゲームで心身を酷使してがんばってみても、結局それは組織と経営者の利益として吸い取られてしまう、あるいはマネーの量を多く持った者がより多くのマネーを得るという構図が透けて見えてしまっているからではないでしょうか。だから、仕事はほどほどに抑え、プライベート優先でという意識にもなる。それが出世や昇進意欲の減退につながっているように思います。

しかし、いつの時代も若い人はエネルギーに満ちています。自分の没頭できることにはエネルギーを燃やします。「ヲタク」と呼ばれる人たちもその1つでしょう。ただ、「カイシャ」という組織の中で、そのエネルギーのやり場をどこに向けるかがわからないというだけではないでしょうか。

猪口 ビジネスのスポーツ化というは、100年前から指摘されているんですね。しかもプレイヤーが利益を得るならまだしも、オーナーや組織だけが利益を上げる構造であることに気が付けば、プレイヤーのなかで、多少ポジションが上がっても意味を感じないのも無理はなさそうです。

一方、村山さんがそうであったように、大きな組織から抜け出し、自らの力でビジネスを切り拓こうと考える若者もいます。

村山 ITベンチャー系の会社で、経営者が夢を語り、組織構造をフラットにし、個々の社員に権限委譲してやりがいを持たせているところは、若い人が躍動していますね。そういう現場で嬉々として働いている人は、組織内の出世のためとか、昇進目的で働くわけではありません。単に仕事が楽しいからです。自分たちの仕事のアウトプットが人から「いいね!」と言ってもらえ、メディアで話題になったり、人びとのライフスタイルを変えていったりすることになれば、勝手に元気に働き出します。多くの会社がそういう事業現場にしていく必要があるように思います。

猪口 ところが、多くの会社では、自由な働き方を支援する動きも見せながらも、利益を上げるために生産性の向上の号令をかけているのが実態だという意見もあります。これから働き手としてどう考えればいいのでしょうか?

生産性を上げるというのは永続的なテーマですから、いまに始まったことではありません。また、働き方の選択肢が増えていくというのも時代の必然の流れです。ですから、コロナ禍でそういう流れが強まっているのだなと、働き手は淡々と受け止めればいいだけではないでしょうか。

いま日本の多くの会社経営で起こっている残念な問題は、最上位の目的が何であるかが語られることなく、付け焼き刃的に「生産を上げる」「働き方を多様化させる」が目的化していることです。本来、生産性や働き方は手段としてあるもので、最も大事なことは、事業や仕事を通じて、何を成し遂げていくか、自分がどんな人生を送るかです。

私が行っている研修では、その大いなる目的を見つけることに重きを置いています。大いなる目的を抱いた働き手は、生産性や働き方の問題について悠然と構えることができると思います。結局、生産性や働き方で大騒ぎしている経営者や働き手は、何が最上位の目的であるかを考えることから逃げている人ではないでしょうか。

猪口 大きな「目的」のなさが、「働きかた」を単なる手段としているということでしょうか。日本の組織のなかでは、上司を含めた先輩諸氏をロールモデルとするケースが多いと思いますが、もっといろいろな経験を積むことも必要そうです。

村山 私はたまたま日米2カ国の大学院課程を経験しました。いずれも社会人になってから私費で入学しました。米国の大学院はデザインスクールでしたが、そこに入学してくる学生のほとんどは、会社勤めをいったん休止し、自分で貯めたお金で学び直しをする人が多数でした。在学中、学生たちは将来自分のデザインファームを立ち上げる夢をいろいろに語ります。そして実際、卒業後にそうする学生が多い。

ところが、私が日本で入った経営学修士課程(MBA)の大学院は、企業派遣(会社が費用負担して社員を入学させる)で来ている人も多く、当然、彼らは派遣元の企業に戻ることになります。卒業後のことが話題になっても、「どこの部署に配属されるかな。あそこだったらイヤだな」くらいの構えです。MBAを取得した後の職業上の夢などもあまり語られません。また、企業派遣の学生はたいてい自分のことを「名前@所属会社名」で呼称します。学生間の会話中もついつい「うちの会社では……」と主語が会社になったりします。企業派遣でなく自腹でMBA課程に来る人もいますが、やはり卒業後の就職となると、会社勤めが選択肢のようで、以前いた会社より年収アップ、企業ブランドアップの就職をしたいとなります。つまり、概して日本人はいまだ自己のアイデンティティのベースを所属企業に置きがちで、一職業人としての「個」の意識が弱いままであると私は感じます。

猪口 確かに、会社を辞めたあとでも、「○○の会社にいた○○です」という人はいますし、会社というのが、その人のアイデンティティのベースになっている人は多いと思います。ただし、そこは順番で、自分のアイデンティティを明確にしたうえで、組織で働くのか、あるいは別の選択肢を選ぶのかを考えなくてはいけないですね。

思う存分、既存の枠をぶち破る発想をしてほしい

村山 日本の働き手は全体として「雇われる生き方」に偏向しすぎています。意地悪な言い方をすれば、多くの人が何か「雇われたい病」にかかっているのではないかと思うくらいです。「雇われない生き方」、すなわち独立してみずからの事業を始め、自分で自分を雇うというキャリア選択肢がそもそも頭の中にない人が多いように思います。

仕事柄、いろいろな人のキャリア相談を受けますが、「どこかもっといい条件の会社はないかな」「いまと同じ待遇で雇ってくれる会社があればいいのに」「この業績だと、会社は定年まで雇ってくれそうにないかも」……などのように、会社に雇用されることが暗黙のうちに絶対条件になっています。私が「独立自営も選択肢のひとつでは」ときくと、「いやー、とんでもない(無理、無理)」と自分の中でその選択肢を一蹴して終わりという人がほとんどです。

猪口 いま、独立するという生き方(働き方)を選択しようとする人へ、アドバイスをお願いします。

村山 私は、独立してベンチャー会社を起こしたり、個人事業主として自分なりに事業を始めたりする人が日本で増えてくることを期待しています。それが日本の経済を面白く、強くする要因になりうると考えるからです。

是非、枠にとらわれない仕事をしていただきたいと思います。会社員という雇われの身でいると、どうしても組織が要求する枠の範囲内で収まるよう考え、行動します。独立する人は晴れてその囲いがなくなり、上司の顔色をうかがったり、根回しをしたり、予定調和で事を済ませたりする必要がなくなるわけですから、思う存分、既存の枠をぶち破る発想をしてほしいと思います。

私も41歳で会社員をやめ独立しました。会社という安全地帯から飛び出てリスクを負い、個として屹立していく覚悟ができてはじめてみえてくる次元の発想があります。ときに全くの空振りに終わることもありますし、大損が出ることもあります。ですが、そうした会社員の無難志向の発想からは絶対に出てこないアイデアや行動が、世の中のそこかしこで試されることがこの国のビジネスを強く面白くしていきます。これからのビジネス世界において、独立した個々がさまざまに結びつき合い、大企業がなしえない製品やサービスが次々と生み出される時代が到来することを願っています。


村山 昇

人財教育コンサルタント・概念工作家

【ビジネスホームページ】
https://www.careerportrait.biz/

【ウェブ講義】
『働くこと原論』~「観」を耕せ・「強い個」になれ
http://careerscape.lekumo.biz/genron/top.html

ビジネスパーソンのための新しい思考リテラシー『コンセプチュアル思考の教室』
http://www.conceptualthink.com/

【著作】

・『スキルペディア』(ディスカヴァー・トゥエンティワン・2020年)

・『働き方の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン・2018年)

・『キレの思考・コクの思考』(東洋経済新報社・2012年)

・『プロセスにこそ価値がある』(メディアファクトリー新書・2012年)

・『個と組織を強くする部課長の対話力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン・2010年)

・『ぶれない「自分の仕事観」をつくるキーワード80』(クロスメディア・パブリッシング・2009年)

・『いい仕事ができる人の考え方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン・2009年)

など

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