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デジタル時代にSTPは古いのか?・「リーン・スタートアップ」の本質/金森 努

INSIGHT NOW! / 2022年2月19日 15時49分

デジタル時代にSTPは古いのか?・「リーン・スタートアップ」の本質/金森 努

金森 努 / 有限会社金森マーケティング事務所

●「完璧を目指すよりまず終わらせろ」

「完璧を目指すよりまず終わらせろ(Done is better than perfect)」。

これは、Facebook社(現Meta)の壁に描かれているという言葉だ。

Facebook社(当時)がIPO(株式公開)した際に、創業者のマーク・ザッカーバーグ氏が投資家へ向けたの手紙で明らかにしたものである。

最初から完璧を目指して開発するのではなく「設計→開発→テスト→改善」のサイクルを短期間で繰り返し、素早くFacebookをより良くていくという意味が込められたものだ。

「設計→開発→テスト→改善」というのは、取り立てて目新しい話ではなく、古くから言われている「PDCA=Plan→Do→Check→Action」と同義であると言っていい。

しかし、この言葉がマーク・ザッカーバーグ氏の名言として取り上げられることが多いのは、昨今のデジタル時代に入ってから、シリコンバレーでスタートアップ企業から大企業まで多くが採用していると言われている「リーン・スタートアップ」という開発手法が、まさにこの「完璧を目指すよりまず終わらせろ」というスタイルのマネジメント手法であるからだ。

●リーン・スタートアップとは?

簡単に言えば、「コスト(手間や時間を含む)をかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり上げ、上市(もしくはWeb上へ場合によっては無料でアップ)し、顧客の反応を的確に取得し、より満足度が高まるできる製品・サービスにブラッシュアップをする開発を繰り返していくしていくマネジメント手法」のことだ。

リーン・スタートアップは米国の起業家、エリック・リース氏が、コミュニケーションサイトの運営ベンチャーを起業した経験から提唱したものである。

Leanは形容詞で「(筋肉質で)細い, やせた, 引き締まった」という意味が辞書にはある。転じて「無駄を省いた開発手法」を意味するようになった。

先にザッカーバーグ氏の言葉で「設計→開発→テスト→改善」という工程を上げたが、リーン・スタートアップの正確な工程は「①構築→➁計測→③学習→④再構築」とされている。

以下、その内容を簡単に紹介する。

①構築=アイディアや仮設を元に新しい製品・サービスの企画を立案し、なるべくコストと時間をかけずに完璧でなくともよいので形にして、MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる実用最小限の製品を開発し、顧客に試してもらう。

➁計測=試作品(MPV)に対して顧客候補(特に初期はアーリーアダプター層=高感度層:○項にて詳説)からどのような反応が得られるかを観察・計測する。

③学習=観察・計測の結果をもとに、MVPを改善していく。特に前記初期高感度層(アーリーアダプター)の反応が思わしくない場合、最初に立てた仮説そのものを見直して方向性を変更し、製品・サービスの改良をしていく。

④再構築=うまくいかない場合はできるだけ早い段階で構築からやり直す。そうして「顧客と、その顧客にとっての価値」を見極められるようになるまで、市場の反応を観察・計測しながら「①構築→➁計測→③学習→④再構築」を繰り返していく。

●STPはもう古い?

「リーン・スタートアップの時代」になったので、ガチガチにターゲットや、そのターゲットが感じる価値・魅力を固めてから製品開発を行う「STP理論」はもう古いという論調をしばしば耳にするようになった。

しかし、それは「リーン・スタートアップ」も「STP理論」も、どちらの本質も理解していない妄言であると言えよう。

そもそも、マーケティングの実務上の最大のポイントは、10・11項で述べた「戻って考え直す」である。

また、「マーケティングは流れで読み解く」であるが、その「全体像」の心臓部はSTPであると述べた。そこはリーン・スタートアップにおける「①構築」段階でも考える部分であるはずだ。

当てずっぽうに顧客とそれに対する価値の仮説を立て、ざっくりサービスを開発し、例えばWeb上にアップしたとしても、「誰が・どんな価値や魅力」を感じて来訪し、使って見てくれるというのか。それでは観察。計測もできない。

また、観察・計測の結果、「反応のよかった顧客候補」が、どんな人々なのかという結論を出すには、何らかの共通項を見いだす視点がいる。それのは「セグメンテーション」の正しい認識、「セグメンテーションはニーズで括る」を知っていなければ、「反応のよいのは20代女性!」などという結論を出してしまう。

「いやいや、最近はAIが判断してくれるから」という意見もあるだろう。確かに、数多くの反応があり、膨大なデータから共通項を見つける「作業」はやってくれるだろう。しかし、AIに初期のインプット、「学習」させるのは誰か。

そもそも、リーン・スタートアップの「「設計→開発→テスト→改善」というサイクルは、「①戦略立案(STP)→➁製品(少量生産の試作品)開発→③グループインタビューでの評価収集、あるいはテスト販売データ収集→④結果分析と検証結果から「戻って考え直す」・・・と、リーン・スタートアップなどという言葉が登場する前から、マーケティングの現場では粛々と行なわれてきたことである。

●確かに変わった「スピード感」

その上で、何が変わったかと言えば、やはり「スピード」である。ITの技術、Webの進化から、STPの検討から、市場への展開、反応の計測、「戻って考え直す」までが非常に短時間で可能となったのは事実であり、結果分析にAIも用いたツールを使えば、より高精度で分析も可能となる。

「満を持して、一気に展開」などという馬鹿げたことをせず、着実に、本来の「戻って考え直す!」を超高速回転で、何度も繰り返して成功に導くことも可能である。

故に、旧タイプのマーケターも、自分たちがやってきたことは、昨今では「リーン・スタートアップ

という名前でITの力でより「ビジネスのスピードと成功確率を高めることができるようになっているのだ」という認識を持って、使える部分は使った方がいい。

一方、特に昨今のスタートアップ企業やWeb系のマーケターなどは、「古い」と切って捨てずに、STPの本来の意味と手法も理解した上で、「リーン・スタートアップ」に取り組むべきであることは間違いない。

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