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【インサイトナウ編集長対談】 怖いものはない。好きなことを正直に発信したい/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2022年3月16日 8時0分

【インサイトナウ編集長対談】 怖いものはない。好きなことを正直に発信したい/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:神原サリー様
家電ライフスタイルプロデューサー

商品は誰のため?

猪口神原サリーさんは、家電製品の専門家として有名になられていますが、本来は、企業や店舗に対して商品開発やマーケティングのアドバイスをされていますね。

神原 ほとんどの人が、私のことを家電の専門家だと思われているかもしれませんね。実は、企業の商品開発やマーケティングのお手伝いが本業なのです。

例えば、ユーザー向けの発表会を行わず、プレスリリースも出さずに、常に商談会ベースでものを売る会社の場合、いつも「BtoB」の観点から見ているということになります。商品を作るときにはお客様目線だと思っていたはずなのに、結局はバイヤーが売りやすいものを作ることになってしまいます。バイヤーから「それでは売りにくい」と言われると、作りたかったものが作れなくなるという話も聞きます。それはもったいないですよね。

それなら、広告費を使わずに、記者などにきちんと伝えて記事にしてもらったほうがいいわけです。本当のファンを増やすために、「最初は小規模でもいいから発表会をした方がいいですよ」とアドバイスしたり、私がプレスリリースを書くこともあります。バイヤーに伝えるための視点でプレスリリースを作ると、少しずれてしまうことがあるからです。

バイヤーの一番近くにいる営業が会社で強いのは仕方ないことです。だけど、その前には商品企画や開発の人たちが一生懸命頑張って作っています。本当のユーザーを向いて、「お客様はこんなものが欲しいだろうな」「こういうものがあったら暮らしが変わるだろうな」と思って作ったものが、ねじ曲げられて伝わり、「なんだ、売れないじゃないか」と言われてしまう。このねじれを避けたいのです。だから私はその間に立って、伝えるお手伝いをしています。社内で営業に対して「なんとかお願いします」ではなく、もっと自信を持って「この商品はこんなに良い」ということを言い切れるようにならないといけません。20人規模の会社から100人規模の会社、もっと大手であっても、この構造はどこも一緒です。

猪口「顧客視点」とは、どの企業も言う言葉ですが、本当の顧客に向けたメッセージ、プレゼンテーションになっていないということですね。どのような経緯で家電のお仕事をするようになったのですか。

神原 40歳のときに新聞社を辞めてフリーランスになりました。今の40歳は若いと思いますが、当時は、「40歳にもなって一女性が」とか、「主婦が」とか、「フリーだなんて何の仕事をするの?」などと言われてしまうような時代でした。でも、根拠のない自信があって、きっと大丈夫という気持ちでやってきて、5〜6年目ぐらいに法人にしました。新聞社時代から、家電業界に興味があり、何かお手伝いをしたいと思っていました。それが「顧客視点マーケティング」だったのです。顧客視点マーケティングを仕事としてやっていこうと模索している中で、何かに導かれるようにして家電にたどり着きました。おそらくその視点が一番足りなかったのが家電業界だったからだと思います。

私が家電にどんどん引き寄せられるようになった当時、家電量販店はまだ倉庫のようでした。今は女性もお年寄りも行きやすく、ショールーミングという言葉があるぐらい、ちょっと見てみたくなるような良いお店がたくさんあります。

それで、家電量販店に女性やお年寄りが少しでも来てもらうためにはどうしたらいいかと考えるようになり、家電製品の商品開発、マーケティングについてじっくり研究していくと、「家で料理をしない人が何で電子レンジを作るの?」「商品開発の人は本当に家で掃除をしているの?」という疑問がわいてきました。さらに、商品の本当に良いところを伝えられていませんでした。それで、当時始まった日経トレンディネットで、家電分野で署名記事を書き始めました。

猪口 今でこそ「エクスペリエンス」を提供する、ものではなく「こと」と言われたりしますが、まさにその先鞭をつけられましたね。

神原 家電業界には、黒物と言われるAV機器、テレビやオーディオ機器には専門のジャーナリストがいて、企業の商品開発のお手伝いをしている人も多いのですが、白物は生活の道具ということなのか、あえてお金を払って意見がほしいという風土がありませんでした。私が白物系のライターとしては珍しいタイプだと思われていたのは、白物は毎日使うものなのに感性ベースで見ていたからかもしれません。例えば、あまり好きではない掃除も、この掃除機を使えば楽しくなれる。当時そういう感覚はあまりありませんでした。どれだけゴミを吸うかとか、短時間でどうとかではなく、さわり心地だったり、ワクワクの要素に目を向けてみたのです。特に日本のメーカーは、とにかく他社に負けないようにしたいという思いがあって、横しか見ないようなところがあります。他社に負けないものを作るのではなく、私たちが使うときに、楽しさや「こうだったらいいのにな」を解決してくれることが大切なのではないかと、取材しながら思っていました。家電量販店の店頭でも、各社ごとに機能が○×で表示されていると、目くらましをされているような気がします。

決意表明として、会社を立ち上げる

猪口 サリーさんの現在のお姿を見て、女性としても、社会人としての働き方にしても、多くの方々のロールモデルとして存在されていると思います。独立して働くという選択をされたのは、どのような経緯だったのですか。

神原 私は、34歳のときに、週3回の時間給のアルバイトで新聞社に入りました。1年後には契約社員としてフルタイムで働くことになりました。

組織では、同じフルタイムでも契約社員と正社員の待遇は違いました。40歳になろうというとき、当時の編集長に「次の異動があったら、神ちゃん編集長をやって」と言われたのです。責任ばかりが増えてしまいますし、それに、いわゆる管理職よりも私は現場が好きです。誰かに会って、取材をして、いろいろな話を聞いて、いろいろなことを得たり、取材中に思うことがあれば「こっちをもっと訴えたほうがいい」と言う。私は昔からお節介なので、ピンと来たらそれを黙っていられません。言った後で「あれよかったです」と言ってもらったり、そういったちょっとしたことが楽しかった。もしかしたら、編集長になれば、立場は変わらず契約社員のままでも待遇は少し良くなったかもしれません。でも、ずっと引きこもって何かをするのは全然面白いことじゃなかった。だったら自分でやろうと思いました。

猪口 契約社員でそのような働き方をされている女性もたくさんいらっしゃいます。辞めても自分でやろうというサリーさんの今のお話は、共感される方も多いと思います。

神原 独立して最初のころは、前と同じようには稼げませんでした。でも、何かひとつやると、そこで何かしらの新しい出会いが生まれます。例えば、制作会社や代理店の人と会うと、その人たちからの紹介でまた新しい出会いが生まれます。そこで頑張ってワクワクしながら楽しくやっていると、不思議と「じゃあこれもやってもらえないかな」と繋がっていったのです。何か仕事があったらくださいと頼んだことは全然ないのですが、次々と仕事がくるのが楽しかったです。

猪口 フリーライターとして独立をされたわけですが、その後、株式会社を設立されました。やはりフリーという立場では、やりづらいこともあったのでしょうか。

神原 フリーライターとして毎日ハッピーに仕事をしていたとはいえ、今後の人生、やりがいやさらにその上を考えると、企業の中に入ってお手伝いをするような人になりたいと思いました。「ご意見ありがとうございました」と感謝はされるけど、仕事にならないことが多かったのです。これをビジネスとして成り立たせるにはどうしたらいいのだろうかと、楽しいけれどももがきました。その一段目が会社組織の立ち上げです。たった一人でも株式会社神原サリー事務所というかたちで自分の事務所にしたことで、まずは決意表明をしました。

猪口 その決意がターニングポイントだったのですね。スキルや能力も必要ですが、そうした決意と行動は欠かせません。しかしそれは、会社にいる頃とはまったく違う楽しさを得ることになりますよね。

神原 私は、いつも楽しそうだと皆によく言われるんです。やっぱりハッピーに見える人と一緒に仕事をしたいですから、意識していたわけではありませんが、そこは大事だったのかもしれません。

「深める」から「広げる」へ

猪口 僕もそうなのですが、サリーさんのようなお仕事をしていると、同じお客様に対して同じアウトプットをしていると当然飽きられてしまうので、常に新しいアウトプットをしていく必要があります。自分のアウトプットを高めていくための勉強はどのようにされているのですか。

神原 ありがたいことに、私は企業のお手伝いをする傍らで、同時に取材をする立場でもあります。書き手であり、発信する場があり、多くの知る機会にも恵まれています。最初は白物家電でしたが、美容家電もやり、健康家電もやり、「マツコの知らない世界」に出た後には、いわゆるマッサージ系のほぐし家電という言葉も作りました。今は家電だけに留まりません。最初は「家電コンシェルジュ」だったのが、「家電プラスライフスタイルプロデューサー」になり、今年に入ってからは「家電ライフスタイルプロデューサー」にしました。「ライフスタイルプロデューサー」をプラスした理由は、家電を単体としてではなく、住まいやインテリアにも興味、関心を持って、暮らしの中でどのように使うかを考えたかったからです。製品を一個ずつ細かくレビューしたり、何かと比較したりということは、私はもうやりません。

アウトプットのためのインプットをするために、自分の興味や関心を広げています。取材をして記事に書いたり、どこかで話したりする立場として、以前は「深めていった」のを、今度は「広げて」います。今、家電だけでなく他業界やベンチャー企業から、困ったら私に話してみようというところにようやく来ることができたと思います。

猪口 自分の思いをきちんと発信し続けていくことでたどり着いたのですね。

神原 そこはずっと変わりません。「ここに勝機がある」と思ったことは一度もありません。つまり、やりたいことがこれなのです。書く仕事だけであればフリーランスのライターでやっていけばいいものを、会社を興して決意表明をして、そこまでしてやりたかったのが「顧客視点マーケティング」です。これを仕事にするにはどうしたらいいかと考えて、自分でひとつ決めたのが「有名になる」ことです。有名になって、テレビに出た、本を出した、あそこで見たあの人が話を聞いてくれるとなれば、偉い人の見方も変わってきます。結局のところ、なるべく偉い人に私がどういう人なのかを知ってもらわない限り、本当の意味でのお手伝いをさせてもらえないなと思いました。この人なら知っていると思ってもらえるように、有名になろうと思ったのです。だからこの10年、積極的にテレビやラジオに出演してきました。

猪口 そして、ついにYouTuberとしてデビューされました。

神原 YouTubeは、2021年のクリスマスイブに来年の抱負を考えていて思いつき、まずはやってみようと思って1月4日からすぐに準備を始めて、広尾にある自分のアトリエで撮り始めました。連載しているコラムのアップは金曜日が多いので、それに合わせて、これから金曜日の夜8時に毎週アップしていく予定です。
私はもともとオスカープロモーションに所属していたのですが、マネージャーさんが辞めることになり、一緒に来ませんかと声をかけていただいて、今はアスリート・マーケティングという事務所と業務委託契約を結んでいます。YouTubeのことを報告すると、「お手伝いするよ」と言っていただきました。自分で録るし、編集作業も自分でやるのですが、もう少し見栄えよくするために専任のスタッフが最終的な編集をしてくれています。コロナ禍で、イベント等ができなくなってYouTubeを始める人が増えました。私なんかが今さらという感じはしましたが、もう遅いとか思っているより、思ったら今やることが大事だと思っています。

猪口 どのようなコンテンツを配信されていく予定ですか?

神原 どうしていこうか悩むところなのですが、もう怖いものなしというか、自分が皆に教えてあげたいこと、好きなことを正直に発信したいと思っています。「○○の選び方」というように大上段に構えて、徹底して入念な準備をしてから発信するのではなく、もっと気軽にやりたいですね。私の思いを込めて、とにかく語りたい。皆が案外思いつかないことを私は思いつくので、私の視点で発信して、「そういうものがあったら便利だな」「やってみようかな」「それ使ってみたい」と思っていただけたらいいですね。さらに、それがメーカーの応援にもなればいいなと思っています。

私は言いたいことを正直に言いたい。ましてや、私は長年に渡って取材を重ねているので、自分のチャンネルがあれば、普段は言えないようなことでも言うことができます。もちろん言ってはいけないことは言いませんが、皆が面白がってくれて、「へえー」となってくれればいいなと思っています。

猪口 そういう意味では、今までなかったぐらい、本当に好きなことを発信できるところができたぞという感覚ですね。

神原 そうなんです。だから今、毎日がワクワクという感じです。

猪口 これからのご活躍、ますます楽しみです。


神原サリー(かみはら さりー)

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、家電ライフスタイルプロデューサーとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、東京・広尾の「家電アトリエ」をベースにテレビやラジオ、雑誌やウェブなどさまざまなメディアで情報発信。家電を「感動ベース」で語れる担い手として、その独自の視点にメーカーの開発者やマーケティング担当者のファンも多い。商品企画、コンサルティング等の仕事にも積極的に携わっている。

LEEweb『神原サリーの愛しの家電語り』連載執筆、CCCメディアハウス発行「Pen」にて『白モノ家電コンシェルジュ』連載執筆、朝日新聞土曜版be「そばに置きたい」連載執筆、家電Watch「神原サリーの家電HOT TOPICS」連載執筆、日経産業新聞「目利きが斬る」家電分野で連載執筆ほか多数の媒体の企画・監修を担当。オスカープロモーションを経て、2020年1月よりアスリート・マーケティングに所属


神原サリーの家電アトリエchannel
https://www.youtube.com/channel/UCq2Fs-f5-40MM6Zpe4C5oOg


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