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【インサイトナウ編集長対談】シニア世代は本当に元気。民間企業のやることは元気な人を楽しませること/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2022年4月1日 10時15分

【インサイトナウ編集長対談】シニア世代は本当に元気。民間企業のやることは元気な人を楽しませること/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:川口 雅裕様
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

現在の高齢者はとても元気。先入観をまずなくす

猪口 NPO法人「老いの工学研究所」では、どのような活動をされているのですか。

川口 シニア向けサービスの開発やプロジェクトの支援です。立場は相手企業によって違いますが、アドバイザーやファシリテーターの立場で入っています。最近は定年延長で悩んでいる会社が多いので、そのテーマで研修やセミナーも行っています。

そういった仕事をするためには、ベースとして、勉強や研究が必要になります。具体的には、大阪大学神戸大学と一緒にシニア向けの共同研究をしています。簡単に言うと、高齢者の健康や幸福は、どうすれば維持できたり、向上したりするかがテーマです。交流やつながりが高齢者の健康幸福感にどう影響しているかなど、医療とは違う切り口です。

猪口 最近、コミュニティにどれだけ参加しているかで、幸福度や心身の健康が大きく違うとよく言われています。今は一人暮らしの高齢者が増えているのですが、家族との会話がなかったり、出かけるのがおっくうになったりすると、健康や幸福感に影響があるのでしょうか。

川口 ひと言では言えない複雑さがありますね。今から33年前の1989年は、高齢者がいる世帯の45%が三世代同居でした。子どもや孫と一緒に住む人が45%いたわけです。今は9%です。たしかに、高齢者だけで住んでいる世帯が如実に増えているのですが、一方で、高齢者はすごく健康になっています。今の高齢者は格好良い方が多いですよね。実際に、歩くスピードや片足で何秒立てるかといった体力測定をすると、この30年で10歳くらい若返っています。今の75歳は、30年前の65歳ぐらいの体力があるわけです。どんどん孤独になっているのに、なぜ健康になっているのか。面白いですよね。

僕の仮説では、三世代で同居すると、買い物も料理もしてくれるし、何でもしてもらえますよね。ところが今は高齢者だけになっているので、全部自分でやるわけです。だから健康になっているという面もあると思います。それと、三世代同居をしていると、毎日「おじいちゃん」「おばあちゃん」と言われ続けることで、自分はおじいちゃん、おばあちゃんだなと自覚してしまいますが、高齢者だけが住んでいると言われません。それで、年を取ったという自覚を持ちにくいのではないでしょうか。三世代同居が減っているとネガティブに考えられがちですが、実は、生活面でも意識面でも若いままいられて、健康面でも良いのではないかと考えています。幸福や健康は単純に割り切れるものではなく、様々な要素がからみあって生まれています。複雑なものなのです。

猪口 メディアが報道するような高齢者についての情報、あるいは、シニア世代に対する一般的な既成概念もあります。そういったものと、川口さんが企業に行ってコンサルティングをされるときにご提案される視点には、どのような違いがありますか。

川口 違いは明確です。メディアは一般的に、生活費の不足、孤独、病気、そういったことを二つも三つも持っているような、いわゆるかわいそうな老人として、描くことが多いと思います。たしかに、そういう人を何とかしてあげるのは大事なことです。しかし、そういう人は現実として少数派です。毎年発表される高齢者白書の「経済的に暮らし向きはどうですか」という質問では、「全く心配ない」「あまり心配がない」「やや心配だ」という人を合わせると、約95%になります。ですから、お金は持っているのです。さらに、先ほど申し上げたように、10歳くらい若返って健康です。85歳を超えても、要介護2以上の人は23%しかいません。80代前半まではほとんど要介護状態ではないので、元気な人にいかに最期を楽しく過ごしてもらうかが大事です。

ところが、企業の多くがそうした報道を見て、かわいそうな人を助けようという考えになってしまっています。それは国がやることであって、企業でできることではありません。元気な人を楽しませるのが民間企業のやることで、かわいそうな1割を助けるのは国の仕事です。多くの企業の人たちが思い込んでしまっているので、そこを切り替えてもらうのに、かなりの時間がかかります。「ケア」という思考になってしまうのが、企業がシニア向けの新しいビジネスをなかなか作れない理由だと思います。

猪口 最近ではサービス付きのマンションも好調です。サービスは欲しいけど「サ高住」は嫌という元気な方が多くいらっしゃるようです。5年、10年のスパンで見ると、シニアの方々はさらに変わっていくのでしょうか。

川口 変わると思います。健康状態はさらに良くなるでしょう。僕が注目しているのは、団塊の世代が75歳に差し掛かっていることです。団塊の世代の価値観は少し違うと言われていますから、高齢者ゾーンがどのような生活スタイルになるのか注目しています。また、これは団塊の世代に限りませんが、子どもにお金を残す人が減っていくと思います。自分のために使う人が増えてくるのではないでしょうか。今の80歳後半から90歳くらいの人は、質素、倹約が身に付いています。戦後すぐの食べ物がなかったような時代を経験している人たちは、お金を持っていても、贅沢は敵なので使いません。贅沢するのは恥ずかしいと言う方もいます。

ところが、団塊の世代の人たちは、1960年代、70年代の高度成長期に育っていますから、お金を使うことにためらいは少ないはずです。

猪口 これだけシニア層が増えると、企業としてもシニア層を放っておくわけにはいきません。シニア層がマーケットの中心になってきます。企業には、「シニアはあなたが思っているよりもお金を持っているし、元気ですよ」とアドバイスするわけですね。

川口 商品開発においてはそこからブレないようにすることが大事ですが、すぐケアとか、見守りなどの言葉が出てきます。それは違うと思います。シニア世代は本当に元気です。これからさらに高齢化社会になっていくわけですから、この世代に対するアプローチを間違えてはいけません。

企業もソフトランディングのためにサポートすべき

猪口 たしかに、団塊の世代は今までいろいろなブームを作ってきました。住まい、車、キャンプ、レジャー、ほとんどがそうですね。今の団塊の世代は70歳から75歳くらいですが、先ほど元気になったとおっしゃっていた層よりもさらに元気だということですね。

一方、会社を定年で辞めた途端に会う人がいなくなって、孤独になって、老け込む人も相当いるという話を聞きます。コンサルティングをする中で、そういった方々に企業としてどのようなケアをしていくかといったお話はありますか。

川口 今、定年延長は企業にとって大きなテーマです。シニア世代を本当にこのまま雇い続けるのか、延長され続けても困ると考える会社も多いです。その一方で、定年になって、職場も、仕事も、いわゆる肩書きも急になくなって、地域に放り出されて、まったく知り合いもいないし、居場所もない。男性だけですが、そういう人が非常に多いのも確かです。女性は元気です。

ただし、ここにきて、男性が外に出て行くようになったと感じています。昔はセミナーをすると全員女性ということもありましたが、ここ数年、男性が3割、4割と増えています。定年して、新しい居場所を見つけようという気持ちになる男性が増えてきていると実感します。落語家の方に聞いたのですが、高座をすると、いっときは高齢女性ばかりだったのが、最近男性がすごく増えてきたという話でした。やはりそうなのだなと思いました。

とはいえ、ずっと会社人間できた男性社員に、地域社会で暮らすという違うステージにどうやってソフトランディングしてもらうかは未だに重要なテーマです。企業はどうやったら定年退職者に納得してもらえるか、どうやって役割を与えていけばいいかといったことばかり考えています。それをやったとしても一緒です。次から次へとまた定年を迎えるわけですから、そのような悩みに応えるようにしないといけません。

僕も昔は、定年延長は良い仕組みだと思っていました。なぜなら、フルタイムから5年ぐらいかけて働き方を変えていけるからです。いつか地域でフルタイムを過ごさないといけなくなる前に、会社で2日、地域で5日というように、地域を徐々に増やしていく期間にしたらソフトランディングできますよね。それなのに、5年間また同じように働いて、急にハードランディングしろという話になってしまっています。定年延長を、ペースを徐々に変えていく期間にするべきです。本人もそのような期間として位置づけたらいいのにといつも思っています。

猪口 ペースが変わらなければ、単純に給料が下がるだけという制度にすぎませんね。

川口 同じことをやっているのになぜ給料が下がるのかという話になりますよね。このような合理性に欠ける処遇システムがいつまでも続くわけがありません。僕は、理由がないことはやめたほうがいいと思っています。次から次へと60歳、65歳を迎えますから、そういう人たちが働いたり、遊んだり、生涯を上手なバランスで暮らしていけるように企業も考えるべきです。

猪口 今日、一番お聞きしたかったことがあります。今は60歳手前でも、60歳には役職定年になって、65歳まで働いたとしても、そこで定年になります。だんだん地域のほうにいかないといけなくなることが、見えているわけです。そのためにどのような準備と心構えをするべきか、個人の課題として大きいですよね。

川口 個人の問題と会社の問題があると思っています。個人として、現役のときから、地域とは言わないまでも、会社の外と交わったり、会社の外の関係の中で学んだりする。読書でも何でもいいので、24時間、自分の会社のことしか知らないという状態からいかに脱出するかがとても大事です。働き方改革といって、労働時間を削減している会社がありますが、「その削減された時間を何に使っているのですか?」と問いたいですね。その時間で、何か会社とはまったく関係がない活動や交流、学びというものをしてほしいと思います。

そういう意味において、副業も良いと思います。今、スキル的に副業ができるかどうか、自問自答してもらいたいです。年を取ったら副業で頑張ろう、という道だってあるわけです。

猪口 一時、会社と家のほかにサードプレイスを作りましょうとよく言われていましたが、まさにそういうことですね。会社でもない、家でもない場所がたくさんあったほうがいい。

川口 そうです。おそらく本業にも良い影響を与えると思います。ただし、課題もあります。

最近、高齢者を見ていても、会社を見ていても思うことがあります。「会社人間をやめて、自立して生きよう」という論調がありますが、僕は単純すぎると思っています。日本人にそんなことができるのか疑問です。群がって、空気を読みながら、身内の論理で生きてきた民族が、急に自立したことをしてやっていかないといけない。そんなことをしたことがないのに無理ですよね。日本人はどこかで群れるというか、群れなくても、自分の属している共同体がいくつかないとアカンということを直視しないと、地に足の着いた働き方、生き方論にはならないと思います。欧米人のように、会社とフェアな関係で、自分の生き方の中で仕事を位置づけるのは、日本人には無理です。そういう中で、サードプレイスのようなところ、地域に上手に馴染んでいくのは、日本の難しいところなのかもしれません。

自分の強みは何か

川口 日本では、副業を認めない会社も多いですが、そのような会社に対して、僕は、「強みは何ですか」ということを皆さんに問いましょうと言っています。強みがあれば生きていけるし、強みがあれば会社も期待できます。ただ、個人に「強みは何か」と問い続けて強みができるのであれば苦労はしません。会社も、社員の強みづくり、強みの発見を促すべきです。強みがあるのに自覚していない人もけっこういます。会社も、社員が若いうちから、20代では酷だと思うので、30代、40代ぐらいから強みづくりというものをする。社員と会社で協同してやっていけば、定年間際の社員の処遇に困ることも減るだろうし、個人としても定年した後に生きやすくなるのではないかと思います。

猪口 組織にとっても、個人の強みがはっきりしてくると、それが組織の強みにつながるし、仕事でも成果が出やすいですよね。

川口 キャリアデザインという実現しないようなことを求めるより、「強みは何?」と言ったほうがシンプルだし、取り組みやすいと思いますね。上司や人事部は、「3年後、5年後、どうなりたいですか?」と聞きますが、「先に言ってもらえますか」と言いたくなりますね(笑) むしろ、「強みは何?」ということをずっと問い続ける。べつにすぐにできなくてもいいと思うんです。

猪口 あえて3年後、5年後と言うならば、「3年後、5年後にどんな強みを持っていたいか」ということですね。

川口 それでいいと思います。強みですから、やっぱり独特であればあるほどいい。皆がこの資格を持っているからこの資格を取る、そういうものは強みとは言わないと思います。独特であることが大事で、「あなたなりの強みというものを、何年かかけて一緒に開発していこう」ということが、定年を見据えると本当に大事です。

猪口 65歳で仕事を辞めたときにそれが見えていれば、その先も安心していけそうですね。逆に、今まではそこに100%でいけなかったけど、これからは100%でいけるわけですから。

川口 そうです、嫌なことはしなくていいのですから。「弱いことはやりません、無理です」と、はっきり言えばいいですよね。そうすれば、仕事を引退したあとでも、健康で幸福な人生に近づいていくのではないでしょうか。


川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長(https://www.oikohken.or.jp/

一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生。兵庫県神戸市出身。京都大学教育学部卒。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)で、組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報を担当。退社後、2003年より組織人事コンサルタントに転進。2012年より、NPO法人「老いの工学研究所」で高齢社会に関する研究活動を開始。講演や、研修・セミナー講師のほか、コラムニストとして連載・寄稿を行っている。

【著書】

「年寄りは集まって住め ~健康長寿の新・方程式」(幻冬舎)2021年8月25日発売
「だから社員が育たない」(労働調査会)
「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)
「顧客満足はなぜ実現しないのか~みつばちマッチの物語」(JDC出版)
「速習!看護管理者のためのフレームワーク思考 53」(メディカ出版)
「実践!看護フレームワーク思考 BASIC 20」(メディカ出版)
「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)

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