モノが買えない時代-その2-/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2022年4月27日 10時0分
野町 直弘 / 調達購買コンサルタント
前回の記事に続き、今回は「モノが買えない時代」の課題の、サプライヤ供給力不足について考察を述べます。今回は、この課題に対する対応について、いくつかのアイディアを説明していきましょう。
サプライヤ供給力不足に対する対応としては、大きく4つの対応方法があります。
一つ目は、在庫を持つことです。当たり前な話ですが、サプライヤの供給力不足に対して、在庫を持つことは、効果があります。しかし、在庫を持つと言っても、いくつかの方法があげられるでしょう。
まずは、生産の枠取りです。生産の枠取りは、あくまでも、実発注ではなく、サプライヤの生産計画に優先的に、自社の調達分を折り込んでもらう方法になります。例えば、中長期の自社の生産計画情報を、サプライヤと、事前に共有することで、生産枠を確保してもらうことなので、実発注ではありません。
ですから、買取の保証はしない前提です。あくまでも実発注は、JITで行い、内示という形で生産計画情報をプッシュ型で提示する形態になります。
この事例は、圧倒的にバイヤー企業が、力関係で優位に立っているような、自動車業界などでは、よく見られるケースです。このケースでは、在庫を持つ、という意味では、サプライヤにサプライヤ責任で(将来の)在庫を持ってもらう、こととなります。
在庫を持つ、次の方法は、長期発注、先行発注などのやり方です。多くの企業では、従来は先ほど述べたような、枠取りの方法で対応していたものの、サプライヤの供給力不足が顕在化することで、長期発注、先行発注をせざるを得ないようになってきています。
手元に、各企業の、サプライヤ供給力不足への対応についての、ヒアリング情報がありますが、多くの企業で、半年から、最長で3年という、長期発注(先行発注)をしている、実態になっているようです。
長期発注(先行発注)は、バイヤー企業が、買取保証をしますが、(将来の)在庫をサプライヤに保持してもらう形態となります。この方法を実施するためには、将来の在庫を、サプライヤに保持してもらうので、自社で在庫を持つ必要はありません。しかし、サプライヤに対しては、買取保証を行うため、生産の枠取りに比べると、サプライヤは在庫リスクを回避でき、対応がしやすいでしょう。
在庫を持つ、もう一つの方法は、自社で在庫を持つ方法です。これは自社の生産計画を元に、所要量を算出し、必要に応じて、安全在庫や戦略在庫を持つ前提で、調達計画を作成し、発注を行う方法になります。
この方法であれば、サプライヤは、バイヤー企業の調達計画に基づく、実発注に対して供給を行うため、サプライヤの在庫リスクはありません。当初の。安全在庫や戦略在庫を持つための、発注にサプライヤが対応できれば、供給対応はそれほど、難しくないでしょう。もちろん、バイヤー企業には在庫リスクが、発生しますし、今までJITで対応している企業にとってみると、考え方を転換する必要があります。
これらの、3つの方法の中で、対象となる品目/サプライヤ毎に、対応方法を検討し、自社にとって有利となる対応方法を進めていくことが重要です。
在庫を持つ方法で、重要なポイントは「意思を持った調達計画」の作成でしょう。従来、多くの企業で、調達計画とは、単に生産計画を所要量展開(MRP)し、在庫数と発注残などを調整した上で、自動発注することしか、考えられていませんでした。
「意思を持った調達計画」とは、このような従来型調達計画では、対応できないような、供給力不足の原材料、資材に対して、納品リードタイムを通常よりも長く設定する、安全在庫や戦略在庫を見込んで、調達計画を作成するなど、の対応が求められるのです。
二つ目の方法は、マルチソース化やマルチファブ化、代替品の採用などの、所謂マルチ化になります。
マルチファブ化というのは、サプライヤは変わらないものの、同一サプライヤの国内と海外の2工場で生産対応してもらう、といった方法です。
東日本大震災などの、事案をきっかけに、一時期BCPの観点で、マルチ化を進めていきましょう、という動きがありました。当時はマルチソース、マルチファブ化を推進しようという方向でしたが、コストとトレードオフになってしまう、などの理由から、一部の事業や製品向けの原材料や資材以外は、あまり進まなかったのが実態です。
一方で、前回述べたような、金のなる木事業/製品向けの、原材料や資材については、グローバルでマルチソース化を進める必要があります。そのためには、継続的に、グローバルで供給可能なサプライヤの開拓が必要です。
マルチソース化、マルチファブ化、代替品の採用などのマルチ化は、4Mの変更を伴うため、開発部門や品証部門などの認証や、そのための試験などが必要になります。
これが、ネックとなり、マルチ化が中々進まないケースが多いです。そのため、これらの対応については、開発段階で、サプライヤの供給力の観点から、調達先の検討や、マルチソース化の検討を、進めておく必要があるでしょう。
三つ目の方法は、1つ目の在庫を持つ、2つ目のマルチ化と並行して行う必要がありますが、「サプライヤから有利に扱ってもらう」ための関係性づくりが上げられます。
昨今、サプライヤマネジメントの概念に基づき、サプライヤとの関係性構築や情報共有、課題の共有や、双方向でのソリューション検討~実施~フォローなどを進める取組みを、多くの企業ではじめているようです。
「モノが買えない時代」には、従来のサプライヤマネジメントをにとどまらず、自社に優先的に供給をしてもらえるような、関係性づくりが必要になるでしょう。私は、これをサプライヤモチベーションマネジメントと呼んでいます。
サプライヤモチベーションマネジメントは、従来のサプライヤマネジメントを、一層深堀した施策の展開が、求められるでしょう。サプライヤモチベーションマネジメントの、具体的な手法と、ポイントについては次回に述べていきます。
四つ目の方法は、「何もしない」という方法です。もちろん、この場合には、販売機会を喪失しることがあります。ただ、先回、述べたような某自動車メーカーの場合は、(何もしていないとは言いませんが)販売機会を喪失しても、爆発的な製品力があるため、お客さんが待ってくれる、という状況になっているようです。
このように、製品に圧倒的な競争力があれば、このような方法を、意図的に取るという、やり方もないわけではない、のでしょう。しかし、通常、特にB2Bのビジネスなどでは、このような販売機会を喪失するような、施策は得策ではない、ため、1~3の対応方法を取らざるを得ない状況となります。
次回は1~3の対応方法を取る上で、ポイントとなる点や、特に三つ目の方法である、サプライヤモチベーションマネジメントの具体的な手法について、私の考えを述べていきましょう。
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