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【インサイトナウ編集長対談】「ライター+理系+マーケティング+文系に噛み砕く」で、オンリーワンの存在に/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2022年5月11日 8時0分

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INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:竹林篤実様
コミュニケーション研究所 代表

広告会社を経てライティングの世界へ

猪口 竹林さんは、理系ライター集団「チーム・パスカル」を立ち上げ、理系ライティングのトップランナーとしてご活躍されています。京都大学哲学科のご出身と伺いました。僕らの時代だと、大企業や国家公務員へと進むような道もあったと思います。理系ライティングの道に進んだのはどのような経緯だったのでしょうか。

竹林 実は、就職活動はうまくいきませんでした。一浪一留しているので条件としてもよくないし、そもそも「文学部って何やねん」という時代でした。就活を真面目に取り組んだわけでもなく、入ったのは京都の印刷会社です。たまたま面接に行き、社長に「君、ホンマにうちに来てくれるんやな」と言われて、「はい」と言って就職を決めたのですから、どれだけ不真面目だったか(笑)。

結局、最初に入った会社を4年で辞めて、京都のデザイン事務所でコピーライターのようなことを4年ほどやった後、大阪の広告代理店に移りました。ところが、半年経たずにその会社がバブル崩壊で倒産してしまい、たまたま一緒だったデザイナーと何か一緒にやろうという話になり、個人事務所を興しました。そうすると嫌でも仕事を取りに行かなければなりません。それで、教育関係の仕事をしている京大の先輩から仕事をいただいて、取材の仕事をするようになりました。

猪口 そこからインタビューの極意をつかまれていくわけですね。

竹林 インタビューや取材の仕方についていろいろな本を読むと、「取材では自己主張してはいけない」「聞き手に徹しなくてはいけない」などのコツがわかってきました。その中の一冊に、「取材が終わった後に、相手から『今日は思わぬことを話してしまいました』という一言を引き出せると最高だ」と書いてあったのです。そう言ってもらうためにはどうしたらいいか。それには、相手を熟知している必要があります。だからといって、相手のことをいろいろ調べて、それを最初から出して「もう知っていますよ」というのでは、相手は何も面白くないわけです。人というのは話したい生きもので、聞いてほしいのです。だからこちらがうまく聞ければ、気持ちよく話してくれる。では、うまく聞くためにはどうしたらいいのか。単純なことですが、最初の挨拶や礼儀正しい作法の大事さに、30歳を過ぎてやっと気がつきました。

そこからは取材をして原稿を作る仕事が中心です。その頃付き合いのあった広告代理店の販促やプロモーションの企画を作るお手伝いもしてきましたが、そこでも、お客さんのところに行って話を聞く姿勢を重視していました。代理店の思いで勝手に企画を作るのではなく、ユーザーがどう考えているのかが大事です。BtoCとBtoBで話のポイントが全然違うという実態も、その時によくわかりました。

猪口 竹林さんは、理系ライターと言いながら、マーケティングの観点があるのが特徴です。「理系の書き手になるためにはマーケティングの勉強が必要」という発想が生まれたのは、広告会社でのプランニングの経験があったからでしょうか。

竹林 あるプロダクションで聞いた話ですが、極端な話、BtoBのオウンドメディアはアクセス数1でもいい、逆に、アクセス数をたくさん集めても意味がない。大事なのは、ピンポイントで刺さる記事をどれだけ作れるかであり、Googleのアルゴリズムで上位表示されるように組み立てを考える意識です。ピンポイントというのは、どのようなお客さんが何に困っているのかを、正確に突くわけです。まわりを見るとライターと理系を繋ぐ、理系とマーケティングを繋ぐ人ががいないと気づきました。

理系ライティングでは、まず理系の内容をわかっていなければなりません。サイエンスライターはたくさんいますが、マーケティングの視点があまりないようです。しかも理系の人たちがわかる伝え方、解説書を書くような伝え方はできても、理系ではない一般の読み手には、それではわからない。そこが盲点だと思ったのです。

猪口 そこをつなぐのが、理系ライター集団「チーム・パスカル」ですね。「チーム・パスカル」はどのように結成されたのですか。

竹林 「チーム・パスカル」は2011年に出立ち上げました。私の最初の本を出してくれた編集者と、その編集者が関わって本を出した人が京都にいて、3人で何かできないだろうかというのがスタートでした。

その頃、私は理系の研究者を数多く取材していました。ある大学広報の支援サイトでは、日本にいる10万人の教授、準教授のうち、約2万人を目標に取材して記事を載せています。そのコンセプトは高校1年生に読ませたい記事です。つまり文理選択をする前に、単に数学ができる/できないではなく、理系にはこんなに面白い研究している先生がいる実態を知ってほしい、世界をできるだけ広げてほしいという狙いで立ち上げられたサイトです。ところが、取材の半分は理系の先生なのに、ライターは文系出身なので、理系文系のミスマッチが起きてしまう。インタビュアーの知識があまりに不足しているために、先生の機嫌を損ねたりするわけです。それで、私が専属で取材するように頼まれて、理系の500〜600人分を担当させてもらって、理系ライティングの経験を積みました。

さらに、京都には、村田製作所、京セラ、島津製作所、ロームなど、BtoBメーカーがたくさんあります。そこにチャンスがあると考え、理系ライター集団「チーム・パスカル」を組んで、サイトを立ち上げました。ライターで理系は10人に1人ですが、なおかつマーケティングがわかるとなると1万人に1人、さらに理系の内容を文系に噛み砕いて説明できれば10万人に1人になると思いました。

「STP」を明確にし、顧客との信頼関係を築く

猪口 竹林さんお一人で大学案内を作成したとお聞きしました。

竹林 ある大学に取材で行ったのをきっかけに、最初は学科紹介のパンフレット作りに声を掛けていただきました。編集は東京の編集プロダクションが担当し、その下にライターで入るかたちで参加しました。翌年には、元請けでパンフレットをまるまる一冊やりませんかというお話をいただきました。私は個人ライターですから、作業量を考えて返事に詰まっていると、「うちの大学について、一番よくわかってくれているのは竹林さんですから」と言っていただき、ありがたく引き受けることになりました。

すると、来年は大学案内本体をやりませんかという話が来たのです。さすがに一人では無理だと思って断ったものの、2年後にまた電話がかかってきて、コンペだけでもぜひ参加してほしいと依頼されて、参加しようと決心しました。そのコンペで一番効いたのがおそらく、インサイトナウのビジョナリーでもある金森さんが紹介する「STP」です。大学のポジショニング、学生はどのような学生なのか、その学生に何をしてあげるのかを示しました。今まで作っていなかったツールをさらに2種類提案して、これで仮に受験者が1000人増えたら1千万円入るのでペイするとプレゼンし、受注しました。

猪口 「うちの大学のことを一番知っているのは竹林さんだから」という信頼の大前提が何よりも、竹林さんの仕事っぷりを表しているようです。「今日は思わぬことを話してしまいました」という話もありましたが、どうしたらコミュニケーションの中で信頼関係を築けるでしょうか。

竹林 取材を受けてくれた時点で、相手はフラットというよりなんとなく好意を持ってくれているわけです。「話しましょう」という気持ちになってくれているので、その「話しましょう」をいかに誠実に聞くか。「今日は思わぬ内容まで話してしまいました」というのは、話しを聞いている端々で「それってこういう意味ですか」というツッコミを自分なりにできるかどうかがポイントなのかもしれません。

相手のバックグラウンドに関する知識については、下調べだけでなく、経験も当然あると思います。長い間やっていると、いろいろな人のいろいろな話を聞きます。忘れていることのほうが多いのですが、たまに、「ああ、誰かそんな話をしていたな。今聞いた内容と合うな」というようなケースがある。これは、特に研究者の取材にはとても役立ちます。

猪口 編集やライティングの仕事は、広告代理店が受けて、編集プロダクションが受けて、外注が受けてと、いくつも段階を経ることがあります。僕の場合、間に人が入れば入るほど仕事がうまくいかないことが多々あります。お金の面もそうですが、仕事がうまくいかないのです。コミュニケーションが頓挫してしまって、意図が伝わらない。そういったことはありませんか。

竹林 代理店経由の仕事もありますが、どちらかというと任せてもらって、クライアントと直で話をするかたちが多いですね。代理店の方が出てきてディレクションするようなスタイルはまずないと思います。

猪口 特にライティングの作業で間に入ると、意図も狙いもわからなくなったりします。僕の話で恐縮ですが、代理店から頼まれるコンペがずっと苦手でした。その先のお客さんのことを何も知らずに、良い提案はできないと思うからです。竹林さんが先ほど話されたように、STPを考えない限りうまくいかないと思うのですが。

竹林 そうですよね。でも、「STPって何ですか?」と質問されるケースも多いですよ。

猪口 ウェブメディアが中心になってそういうことを言わなくなりましたね。バリュー・プロポジションという言葉もあまり使われなくなりましたが、先日、金森さんと対談したときには、やはり基本が大事だとおっしゃっていました。

竹林 本当にそうだと思います。特にBtoBの場合、経営層は投資対効果でしか判断しません。費用対効果、あるいは価値と対価のバランスと言ってもいいと思いますが、そこを相手に納得させられるかどうかです。納得させるというのは単に言葉だけの話ではなくて、バックボーンとして、市場や顧客についてわかっていないと言えないですよね。

相手の貴重な時間を無駄にしない。正確なコミュニケーションのためにも文章を的確に書く

猪口 コロナ禍でリアルでの対面営業がしづらくなりました。実際に今、特にセールスの場面でコミュニケーションの変化を感じますか。

竹林 メーカー等のセールスのあり方を横から見て、さらに非対面が進んでいて、効率性重視にシフトしていると感じます。今まで商談に行っていたのがどれだけ無駄だったか、そこに皆が気づいた。もちろん対面でないとだめな局面もありますが、今まで対面でないとだめだと思っていたところをオンライン化した結果、いかに業務効率が上がったか、という話はあちらこちらで聞きます。

猪口 いわゆる営業というのはコミュニケーションを主として成り立たせていく職種ですが、今後、営業の人たちはそこをどう考えていけばいいと思いますか。

竹林 私の場合、取材をさせていただいたキーエンスさんのスタイルが原点です。キーエンスはいわゆる「営業」をしません。「お客さんのところに行くときには、お客さんの大切な時間を奪うという事実をまず自覚せよ」と営業に言うそうです。時間を奪ってまで、お客さんに対してあなたは何を提供するのかが問われるのです。当然、自社の説明などはまったく必要ありません。今、そのお客さんの業界で何が起こっているのか。どんな問題で誰が困っているのか。どういう手法で解決されたのか。お客さんに役に立つ情報をどれだけ調べた上で行けるかです。キーエンスで週に3日以上営業に出てはいけないと言われるのは、そのための準備を2日間するからです。

また、キーエンスの営業はたいてい生産ラインに入れてもらえるそうです。生産ラインというのは、普通なら部外者は入室を許されない、企業秘密の塊みたいなところです。そこで営業が何をするかというと、ひたすら見るそうです。お客さんの生産ラインで行われている作業を見て、ここにどんなセンサーがあれば人がいらなくなるかといった理想の状況を徹底的に考える。決して何かを売ろうとしたりはしない。

今、ソリューションプロバイダとよく言いますが、結局そこが営業の仕事なわけです。そのためには何が問題なのかを見抜く力、バックヤードの知識が必要です。当然、お客さんから何で困っているかはなかなか言ってもらえませんし、言ってもらっているようではだめなのです。お客さんがすでに問題意識として認識している内容は、ほかでも言っているはずですから。お客さんが気づいていない問題点を見つけて解決してこそ値打ちがある。

猪口 竹林さんは、自分で納得して、取材をして引き出して書くというスタンスが一貫しています。今まで40年近く働いてきて、働き方のポリシーのようなものはありますか。

竹林 働き方のポリシーというほどたいそうなものではありませんが、フリーという言葉の意味はよく考えます。フリーは自由であり、無料である。自由の裏側には無料があるわけです。どういう意味かというと、断る自由はある、でも断ると仕事がない。パスカルのメンバーにもいろいろな考え方がありますし、一概には言えませんが、私は取材がダブらない限りは仕事を受けます。おそらく仕事を断ることに対する恐怖心みたいなものがあるのでしょうね。もう一つポリシーがあるとすると、このクライアントと仕事していいだろうかと、最初によく考えます。「受けない」という選択もしました。それも選べる自由です。

猪口 ライター稼業を目指す若手の方に、何かアドバイスはありますか。

竹林 医学部の先生から教わった教訓が、「読む人に役立つよう考えろ」です。読んだ人が、それを読んだ結果として何を得られるのかを考える。そうすると言葉の使い方が変わるはずです。例えば、「道を蛇が横切っていた」と書くのではなく、どんな蛇がどういうふうに動いていたのかというところまで書けば、読んだ人が何かを得ます。それは、単純な形容詞を使うな、という教えだったりもします。お医者さんは時間効率にシビアです。患者さんの命と向き合っていることを考えると、時間は無駄にできない。時間を無駄にしないためには、正確にコミュニケーションしなければいけない。正確にコミュニケーションするということは、話すときにはできるだけ早く話し、文章は的確に書くということです。

猪口 そうやって研ぎ澄ましていくのですね。今日は大変勉強になりました。

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