モノが買えない時代ーその3-/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2022年5月11日 16時0分
野町 直弘 / 調達購買コンサルタント
前回、サプライヤ供給力不足への対応策として、大きく4つの対応方法を取り上げました。
一つ目は在庫を持つ(生産枠取り、自社で在庫を持つ、長期発注、先行発注などで在庫を持ってもらう)という方法、二つ目はマルチソース化、マルチファブ化、代替品の採用などの複数ソースの確保、三つ目は「サプライヤから有利に扱ってもらう」関係性づくり、四つ目は、何もしない、というものです。
四つ目の「何もしない」という方法は、ビジネス的には難しいでしょう。そのため、今回は前三者の方法について、ポイントを述べます。
「在庫を持つ」「複数ソースの確保」は直接的な対応方策ですが、ここでのポイントは「全社での調整」です。
一般的に、調達購買部門は他部門と比較すると、社内的な地位はあまり高くなく、製造部門などからは、「製造ラインが止まってしまう。誰が責任とるのだ。」などと言われる立場です。また、開発部門に対しても、複数ソース化や代替品採用においては、認証試験などの手間がかかるために、調達部門が要請しても、中々思い通りに動いてくれない、と言った状況でした。
それに対して、現フェーズの、サプライヤ供給力不足は、本質的、構造的な課題であり、短期間で解決できるような問題ではない、という認識を、全社で共有させると共に、開発部門、製造部門、生産計画部門だけでなく、場合によっては、営業部門や企画部門、生産技術部門や試験部門なども巻き込んで、その対応を進めていく必要があります。
つまり、全社通しての、課題認識共有と、合意形成、方策の協力推進が必須、ということが、最初にあげられる、ポイントです。
二つ目のポイントは、「新規開発段階からの関与」でしょう。新規開発段階での関与というと、コストの作り込み、を目的とした、開発購買を思い浮かべますが、これからは、入手性
の良い材料や部品、サプライヤが持つ標準品などの採用、を行うことで、QCDの特にD(納期)を適正化していく必要がでてきています。
開発購買の仕組みは、通常の企業では、ある程度整備されていますので、それをコストだけでなく、入手性から捉え、なるべくカスタマイズさせないようにする、といった取組みが必要となっているのです。
三つ目のポイントは、「サプライヤ/品目毎の細かなリスク管理」です。今回の「モノが買えない時代」の特色は、様々な要因が絡み合って、それぞれのサプライヤ/品目毎に、様々な理由から、供給力不足が生じている、ことでしょう。コロナによる生産拠点の閉鎖や、ウクライナ危機などの地政学リスクなどは、あるサプライヤは大丈夫ですが、特定のサプライヤには、大きな影響を与えている、などの状況を生んでいます。
従来のBCPやリスクマネジメントは、品目毎の管理、すなわちカテゴリーマネジメントの延長線上で管理を行っていくのが、常套ですが、サプライヤ、地域、品目の3つのファクターで、見ていく必要がある、というのが三つ目のポイントなのです。
最後に、「サプライヤから有利に扱ってもらう関係性づくり」のために、具体的に何を行っていくべきでしょうか。以下に、いくつか事例を紹介していきます。
一点目は、1オン1の関係性づくりです。
多くの企業では、年度当初の方針説明会など、サプライヤとのコミュニケーション機会は、1対nの機会が殆どでしょう。1オン1のコミュニケーションは、短時間のご挨拶などが中心ではないでしょうか。
企業によっては、1オン1のコミュニケーション機会を定期的に実施しています。ある企業は、クォータリービジネスMTGと称して、約150社の主要取引先と、四半期に一回、1オン1でのコミュニケーションを実施しています。ここでは、取引先の特定の課題をフィードバックし、改善につなげてもらうだけでなく、双方向の取組みとして、サプライヤからの課題提起に対して、バイヤー企業側の取組みについても、併せてフォローを行っていきます。
ポイントとしては、「1オン1」で、且つ「双方向」という点です。できれば、最低でも本部長クラスが参加するようなコミュニケーション機会にすべきでしょう。対象社を絞り込んででも、「1オン1」且つ「双方向」の取組みは実施すべきと考えます。
二点目はVoSです。VoSとはVoice of Supplierの略であり、サプライヤの声を聞く活動になります。ここでのポイントは、購買担当者ではなく、第三者の外部コンサルや、企画や管理部門担当者が、ヒアリングを行うことです。これによってサプライヤの本音を聞き出します。主に
ヒアリング内容は、バイヤー企業との間でのサプライチェーン全体での課題や、他社との違い、などです。
私も以前何度もVoSを実施していますが、サプライヤが本音で話しているのか、そうでないのか、を判別するのは容易です。また、他社の取組みで「こういうやり方をしていて、効果的なので、是非取り入れて欲しい」などの有効な意見も、多く聞かれます。
また、ヒアリング先のサプライヤが、ヒアリング元のバイヤー企業をどのように捉えているか、という営業戦略を窺うことができるのも、大きなメリットです。
三点目は、セールスパーソンのモチベーションを高める、というやり方。サプライヤマネジメントというと、会社対会社、の関係性をいかに作っていくか、に着目しがちですが、取引先の営業戦略は、セールスパーソンの思いを集約したものです。
セールスパーソンが、バイヤー企業に何を望んでいるか、を把握し、関係性強化を図っていくことは、「サプライヤに有利に扱ってもらう」関係性づくりにダイレクトに、つながります。セールスパーソンに、有利に扱ってもらうためには、彼らに、そのための論拠を用意しなければなりません。
例えば、取引金額が小さくても、自社の売上シェア(バイヤー企業の発注シェア)が、トップシェアであれば、セールスパーソンは社内を説得する材料を持つことになります。また、バイヤー企業の今後のビジネス展開が自社の方向性に合致していれば、それも会社全体の説得材料
になるでしょう。
それ以外にも、セールスパーソンや担当部門の営業目標を理解し、それをバイヤー企業が協力し、達成させることも、効果的です。バイヤー企業にとって、無理な目標であれば、難しいでしょう。しかし、例えば、競合他社並みの収益率の達成が目標であった場合には、適切な値上げの受容を行うことも考えられます。
このように、サプライヤモチベーションマネジメントは、一層サプライヤの立場にたって、ニーズを把握し、どのような方策を進めればニーズを満たし、モチベーションを高めることができるのか、を考えていくことが必要です。
「モノが買えない時代」におけるサプライヤ供給不足は、このような方策をとっても解決できないかも知れません。しかし、従来の延長で、お願いすればどうにかなる、ことはあり得ないでしょう。バイヤーは、新しい時代に入った前提で今までにない機能、役割を果たすと共に、アンテナを高くし、常に感度を高めていることが求められているのです。
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