経済衰退期の経営戦略/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2022年6月11日 8時1分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
世界的な少子化だ。取り合うべきイスそのものからして減っていく衰退期。不確実、などという生やさしいものではない。確実に経済は縮小する。だから、成長期のこれまでとは根本から常識を切り替えないと自滅してしまう。
まず徹底して初期投資を減らすこと。これまでは、新規事業である以上、宣伝もかねてとにかくインパクトのある画期的なイメージを、ということで、将来の成長を見込んで、最初から身の丈を越える大きな投資を行い、まずは市場プレゼンスの確立を狙うのが常識だった。だが、もはや成長は無い。身の丈を越える大きな投資では、絶対に回収の見込みが立たない。それどころか、人口減の加速で、むしろ投資回収は遅延するリスクの方が大きい。それゆえ、たとえその後の経営が順調にいっても、この初期投資の重さで自滅してしまう。
つぎに固定費を減らすこと。これまでは、その後の成長の規模効果で、固定費は分散して希釈され、むしろ軽減されていった。しかし、衰退期は逆だ。販売数は確実に減少していく。こうなると、単価当たりで固定費が変動費を食い潰していく。おまけに、光熱費その他のコストからして、社会的規模効果が失われ、今後は幾何級数的に値上がりしていくことが予測される。それなら、最初からランニングコストを抑えておくことに重点が置かれなければならない。
そして人的依存を下げること。これまでは、成功企業は、人を増やし、下へどんどん権限委譲して大きくなっていくものだった。だが、今後は、たとえ事業に成功しても、増やすべき人がいない。むりに増やせば質が下がり、彼らのやらかすトラブルが企業全体にとって致命傷になりかねない。これは、アウトソーシングにしても同じ。委託先からして人材不足になるから、いつ人的ショートを起こして業務不履行に陥るかわからない。だから、自分たちだけの少数精鋭でもゴーイングコンサーンを維持できるような、もしくは、単発で短期で完全解消できるようなビジネスモデルでなければならない。
さて、現実を見れば、社会インフラ、つまり、行政や不動産、金融、保険、流通などは、永遠の経済成長を前提にした高コスト体質だ。もはやあきらかに衰退期なのがわかっていても、過去の超長期投資を回収するために、かんたんに値下げすることができない。しかし、だからといって連中の言い値に応じていたら、新規事業の自分たちまで連中の過去のツケの弁済につきあわされることになる。この意味で、できるだけこれらと関わらないような事業の立ち上げ方法を模索しないといけない。
逆に言えば、これらの古くさい成長期負債産業に関わりたくない、今後はもう縁を切りたい事業者ニーズが大きく存在している。そして、それは消費者側でも同じ。多くの人や業者が関われば関わるほど、サービス向上どころか、もはやいっちょかみで他人事に口を挟むことにしか自分の居場所の無い、小うるさい中間搾取の余剰連中との人間的、組織的な調整コストが爆発的に大きくなって、やたらめんどうくさい。仕事がはかどらない。だから、できるだけ人と関わらないワンストップの直接発注は、コストダウンであるだけでなく、精神的、時間的な負担も軽減される。
もはや規模効果は期待できない。それどころか、拡大は、質の低下、リスクの増大にしかならない。そもそもこの百年の、労働者としても、消費者としても、そして、経営者としても、だれにでも開かれていた大衆大量生産消費市場社会の方が文明論として異常だったのだ。今後は、たがいに特定の相手としか関わらないエクスクルーシブなビジネスへ回帰するのが当然だろう。この意味で、もはや規模よりも信用と実績と先見性=低リスク体質こそが、衰退期の事業戦略の要となる。
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