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調達購買業務のDXは何故進まないか?ーその3-/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2022年7月6日 10時0分

調達購買業務のDXは何故進まないか?ーその3-/野町 直弘

野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

前回も述べましたが、調達購買業務のDXは大きく分けて、業務プロセスを直接的にデジタル化する、取引系(実行系)のシステムと、調達購買業務を通じて蓄積されたデータを活用して、コスト削減や付加価値の向上を図る、情報系のDXに分けられます。

特に情報系DXが上手くいっておらず、何故なら情報系DXは、情報毎に収集~分析~活用のプロセスを整備することが必須であり、これが上手くいっていないことが、日本企業の調達購買業務のDXが進んでいない、理由の一つと、述べてきました。

それでは、この課題に対して、日本企業は、今後どのように調達購買業務のDXを進めていくべきでしょうか。

情報系DXの情報は、大きく分けて、購入品に関する情報、サプライヤに関する情報、マネジメントに関する情報の三種類に層別されます。この中で、購入品に関する情報のDXを例にして、もう少し考えていきましょう。

先回も触れましたが、購入品に関する情報は、コストやコスト明細、品番、仕様などの属性等の情報です。これらの情報を収集し、コスト妥当性の評価などの分析を行い、コスト査定に活用することで、情報収集~分析~活用のサイクルを回して成果につなげていきます。

バイヤーはサプライヤと価格を決める決定権をもっています。購買経験のある方ならご存知でしょうが、価格決定のためのデータ活用のニーズは、非常に高いです。

価格決定のためのデータ活用とは、何かと比較することになります。私の方法論によりますと、比較対象になり得るものは、10パターン以上上げられるでしょう。しかし、今はその10パターン以上の比較対象を探すのに、たいへん時間がかかっています。

これをもっと効率的に探せる方法があれば、データ活用は進むのです。(コスト交渉の結果、コストが下がるかどうかは、また別問題ですが。)データを探せない理由はいくつか、上げられます。

まずは何を、です。比較対象にするためには、対象品と同じ、もしくは似ているものが、いくらであったのか、わからなければ意味がありません。つまり、何が、を特定できないと、比較するためのデータが得られないのです。

ここで問題になるのは、何が、がきちんと図面や仕様書などで、定義されていれば、良いのですが、モノを買う際には、単品で購入したり、工事や運用全て購入したりしますので、なかなか類似品や同じものを特定し、探し出すことが難しいということです。

一方で、コストの情報も同じことが言えます。最近は、コスト分析という概念が普及してきており、コスト明細を取得しやすい状況になってきましたが、依頼しても、サプライヤからコスト明細を提出してもらえない、という声は、最近でもよくあることです。コスト情報は、明細がなければ、細かい分析ができません。なので、コスト妥当性評価をすることも難しくなります。

このようにコスト(明細)情報の収集、管理、分析も難しいのです。

また、データ分析~活用を一層邪魔しているのは、属性のデータとコストのデータが同じところに保持されていないことでしょう。つまり、分析しようにも違うところ(システム)に情報が保持されているので、データを様々なソースから集めて分析しないと、活用に至らないという問題があります。

それではこららの課題をどのように解決すれば、良いでしょうか。

まずはテクノロジーを上手く活用することです。複数のシステムで蓄積された、ビッグデータをデータレイクに貯めて分析を行うことが、テクノロジーの進化により、あまりコストをかけずに行えるようになってます。また、分析もAIを活用して、様々なシミュレーションを瞬時に行えるようになりました。テクノロジーはスピードと低コストを実現できるのです。

ただ、それはあくまでもデータが各システムに蓄積されていることが前提となります。属性のデータや、コスト明細などが、未だにPDFや紙であったら、そもそもデータを蓄積することが非常に困難です。

そういう場合にも、仕様書やコスト情報は必ずどこかに存在します。まずは、対象物の比較対象になるような過去の購買案件や件名などで、類似品を選択し、その類似品が、一式でもよいので、いくらだったのかが、わかるだけでも、データを活用した交渉が可能となるでしょう。

このように、できるところから、データ活用を進めていく、ことがポイントです。これは、現状のデータについて、収集~分析~活用の視点から、どこまで可能なのか、情報活用の方法を見極めることにもつながります。

コストや手間を無尽蔵にかければ、データ収集~分析~活用は可能です。しかし、それでは効果に見合わないコストがかかってしまいます。

自社で、どのようなデータが、どのような形態で、どこのシステムに蓄積されているのか、これらの現状を把握した上で、先ずは多くを望まずに、何から進めるか、を検討していくべきでしょう。

具体例として、仕様書はPDF、検索できるように、何らかの属性を追加項目として持たせる。コスト明細はエクセルだが、明細があるものと一式見積が混在。仕様書とコスト明細は同じフォルダーに必ず入れておくように運用されており、そのルールは近年は守られている。

このようなケースでは、最低でも、類似案件や類似品を探し、その契約価格を参照することで、対象案件と比較することができます。

これらは購入品についてのDXですが、サプライヤ情報のDX、マネジメント情報のDXも同様であり、今収集できているデータから、何ができるか、これをまずは、検討していくことが重要です。

また、そのために最低限保持しておくべき情報があれば、何らかの方法で収集できるようにしていく、といった進め方をしていくべきでしょう。

このように考えると、DXと言っていますが、従来のナレッジマネジメントと同じ考え方です。リアリティのあるDXを進めないと、データを収集するために、もの凄く手間が、かかったり、データが揃わなかったり、揃っても、分析する上で、クリーニングしないと使えなかったりと、いう状況がおこり、データ分析のために、長い期間かかってしまうといった問題に陥ります。そして、結局は使えないDXになってしまうのです。

最後に、もう一つ調達購買DXで欠かせない視点を述べます。それは、他部門でのデータ活用です。特に、情報系DXの場合、データ活用するのは、従来は調達購買部門だけです。今後は、調達購買部門以外での、例えば上流部門である開発部門や、製品企画、営業部門、また製造部門などにもデータを提供し、開発段階での仕様設定で、そのデータを活用したりとか、製品競争力につながるような製品開発に、活用したりとか、造り易さにつながる購買品の選定などに活用したりなど、できるようになってくるでしょう。

このように、他部門でのデータ活用ができることで、効果が認識されれば、データの収集に対する負荷を、ある程度許容することにつながります。また、データ収集の必要性の認識も高まるでしょう。このような視点が今後の調達購買業務のDXには欠かせないと言えます。

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