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【インサイトナウ編集長鼎談】プロフェッショナルとして、コンセプトペーパー、アクションプラン、オペレーション、すべてが必要(前編)/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2022年7月8日 9時0分

【インサイトナウ編集長鼎談】プロフェッショナルとして、コンセプトペーパー、アクションプラン、オペレーション、すべてが必要(前編)/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:マーケティングコンサルタント金森努様×人材開発コンサルタント富士翔太郎様


猪口 本日は金森さんと富士さんをお招きしての鼎談です。お二人は企業研修を一緒につくったとお聞きしました。

金森 IT企業の人事部にいた富士さんと新しい考え方の人材育成、研修のプログラムを一緒につくってから、10年以上が経ちます。その間に時代は変わりました。例えば、Z世代は3年以内で辞めることが多いといった話がクローズアップされたり、コロナ禍で研修がオンライン化されたり、「ジョブ型雇用」を導入する企業も増えてきました。

今日は、現状の研修における問題点や、どうすればより理想的に人材育成を行うことができるのかも含めて、当時から今までを振り返りながらお話ししたいと思います。

「自分のコピーを100人作ろう」

猪口 金森さんの目から見て、当時から、富士さんの研修アプローチは他とかなり違っていたのですか。

金森 研修を行うと、研修そのものが目的化することが多く見られますが、富士さんは具体的な人材育成像がはっきりしていて、そのためにはどのような研修が必要で、どのように組み立てるかという設計図をしっかりお持ちでした。富士さんのすごいところは設計図と実行プランで、それを動かすときにはどこに注意しないといけないのか、動かさないと何が起こるかまで緻密に想定していたことです。

猪口 富士さんがそのような観点を得るまで、どのようなプロセスがあったのですか。

富士 研修をやり始める前の仕事で、なかなか売れない毎月数百円のネットサービスを、かなり苦労して100万契約以上獲得することに成功しました。毎月億を超えるビジネスになったのです。これだけでかい仕事をしたのだから、少しは会社の売上に大きなインパクトを与えただろうと自信満々に全社の売上を見てみると、なんとその差は数百倍でした。全社の売上に比較したら私の売上など誤差の範囲です。サラリーマン生活をかけて、最も全身全霊をかけた仕事が誤差で一瞬にして消えてしまうちっぽけなレベルかと思うと、すごく寂しくなりました。

そこで、どうすれば全社の売上にインパクトを与えられるかをしばらく考えました。しかし私1人でやれることはもう限界です。実際これ以上はとても無理だったと思います。しかしどうしても100倍の売上は必要なのです。それならば単純計算で私が100人いれば良いということです。よく体が2つあればなーって思いますよね。そこで閃いたのです。私にとりわけ高いスキルがあるわけではないので、この程度のスキルであれば100人ぐらいすぐに育てられるに違いない。コピーを100人作ろう。どうすればいい?そうか!「やるべきことは人材育成なんだ」と叫んでしまいました。

このように、私が人材育成を始めたきっかけはかなり成果(売上や利益)に拠っています。私の研修計画は、風が吹けば桶屋が儲かるというように、最後に必ず売上などの成果になるストーリーを作ることです。「最終的に経営にインパクトを与えるような、利益貢献できる人材が育つ」ことが、私の研修の1つ目の条件です。

2つ目は「研修を嫌いな人までも楽しみにする」ことです。そもそも私は研修が大嫌いでした。知らない人たち同士が朝から集まって、グループで1日一緒に過ごすのがものすごく苦手です。ですから、研修を企画するときこの2つは譲れません。

そして3つ目が、「重要なのはマーケティング」ということです。私は、すべてのビジネスにはマーケティングが必要だと入社した時から考えています。その影響で当時は、RFM分析など、きちんと分析をしようというスタンスで、LTVやCRMといった考え方が色濃く企画の中に入っていました。この3つが、私の人材育成の中での研修の組み立て方の土台になっています。

猪口 分析というのは効果検証のことですか。

富士 それだけではありません。課題分析、ターゲット分析から始まり、ギャップ分析等数多くの分析を組み合わせる必要があります。中でも効果検証は最も困難な分析と言えます。通常、研修の評価は受講生のアンケートが最重要となっています。ところがほとんどが商品アンケートのような、まるで研修を売るための満足度調査になってしまい、解りやすかったか?時間は適当だったか?といった、商品評価・評論を求めてしまいます。研修の効果はわかったかどうかといった感想よりも客観的に身についたかどうか(定着)だと思っています。そういう意味では本音の記述式のフリーアンサーは別として、そのほかはあまり信頼しにくいと思っています。ですから、私はアンケート以外にも1カ月くらい経ってこっそり見に行き、受講生の上司や同僚に受講生のその後の変化を聞いたり、リアルにサンプリング情報を集めることにしています。やがて徐々に研修の効果があれば、「研修以降、人が変わったようです」とこちらから聞きにいかなくても上司からメールなどのメッセージが来るようになります。本人の感謝のメールも大事ですが、周りの人たちが研修効果を実感するのが最もハイレベルの効果ですね。効果検証のゴールは、売上や利益貢献ですが、そのプロセスで組織やチームに対してどんな効果があったか、どれだけ活躍できているかについて、周辺の同僚や上司から定性情報を得るのが一番リアルです。また、先ほどの本人の満足度という点では受講後のアンケートを裏付けるような、研修の良い「評判」が噂となって聞こえてきますが、この情報の多さで満足度を肌で感じることができます。これは私がコールセンターと連携して業務をしていた時に、オペレーターの方がたくさんのコールをこなすという量的な貢献だけで見られるのではなく、お客さまからくる感謝の手紙やメールといった届いたメッセージを壁に貼ってホスピタリティ面の質的貢献を見える化していることにヒントを得て指標とすることにしたものです。

金森 今改めてお話を聞いて、富士さんの研修イズムに、自分が相当影響を受けていることに気がつきました。当時は、独立して講師業を始めてから5年ぐらい経っていた頃で、それなりに研修をこなせるようになっていましたが、自分しかできない研修とは何だろうと、金森流研修というものを模索していた時期でもありました。

私は、マーケティング部の人にマーケティング研修を行うことは多くありません。少数の専門職であるマーケティング部に教えるよりも、営業部などの人数の多い部署や、全社対象などの方が波及効果が高いからです。

また、私の研修のタイトルには「分かる」「身につく」「業務に活かせる」といったサブタイトルをつけることが多いのですが、「業務に活かせる」というのも「最終的に成果に結びつく(お金になる)」という富士さんのお考えと一緒です。使いこなすこと、業務として実を結ぶことにこだわっています。

研修のアンケートについては、講師はそれで評価されるので気にはしますが、注目するのは受講者がフリーアンサーをどれくらい書いているかと、フリーアンサーの中身です。そこにこそ、「本音」が現れていると思っているので。

猪口 富士さんが新しく研修を組み立てようとしたとき、あまたある研修会社、研修講師の中から、どのような基準で選別したのですか。

富士 順序でいうと、講師選びは後の段階で、重要なのはコンセプトメイクですから、まずコンセプトペーパーをつくりました。

実はショックなことに、異動が決まり大手を振って人事部に行ったものの、研修ラインナップはすべて前年度に決まっていたのです(所謂階層別研修は前年度踏襲がほとんどでした)。唯一残っていた仕事が4年目研修です。これこそ私が0から作るオリジナル研修第1作目の仕事になったのです。

早速コンセプトメイクのためのマーケティングを開始します。客観的な情報を集めながら、前年度の受講者やこれから受ける4年目社員を集めてヒアリングしたり、他の会社が4年目で何をしているか知るため、何社も訪問してヒアリングをしたり、その年の前半はヒアリング三昧でした。とにかく関連情報を集めて、課題を洗い出し、分析して、理想とのギャップを明らかにして対策として、OJTで組織育成や職場でやってもらうべきこと、自己学習してもらうこと、そして会社として直接サポートするための手段として、研修コンセプトを考えました。その一方で、世の中で離職問題が流行り始めていたので、社会情勢を把握するためにセミナーに参加したりいろいろな本や雑誌を片っ端から読みました。企画する人材育成や人材開発部門の人は研修する時間の10倍以上の時間をかけて自らが勉強しなければならないのです(これは教師や大学教授も同じですね)。

離職対策というと、「引き留める」と考える人が多いのに少し驚きました。私は自立型思考で考えたかったので、辞めたくなくなるような魅力ある会社にするほうが大事と考えていました。そのためには、「対象層となる若手に会社が何を期待しているのかきちんと伝えないといけません」。期待されていなければ辞めてしまいます。そこで、使われる人ではなく自立型思考で行動できる次世代のリーダー像を考えさせるプログラムをメインにしました。後に「ネクストリーダー研修」(略称ネクリ)という名前を付けることになります。

コンセプトとしては、苦労して3つの柱に絞り込みました。「リーダーシップ」「視野の拡大」「顧客志向」です。個人的に、会社にはこの3つが絶対に必要だと思いました。これらは若手には早いのでもっと基礎的な鍛錬をすべきだという意見が多かったのを記憶しています。特にリーダーという言葉を若手に使うのを嫌う人が意外と当時は多かったのです。私は合言葉のように「早期育成」といって説得して回りました(早め早めに育てないと経営層になるのに間に合わないというシミュレーションもしました)。この3本柱の1つ「顧客志向」のところが金森さん登場に繋がるわけですが、当時はマーケティングではなくCS的なものでした。視野の拡大というのは、社員にシステムエンジニアが多かったので、技術志向やクラフトマンシップ的な価値観が強く、お客様の背景や社会常識からずれてしまわないように、「縦に視点を上げて横に視野を広げ見える視界を最大化する」という意味合いを込めています。もっというと自分の興味の範囲や価値観に縛られている自分に気づいてほしい。そして所謂「大所高所」「鳥瞰・俯瞰」に立つとも言えますね。

このように、まずはヒアリング等の情報集めに3ヶ月ぐらいかかり、コンセプトペーパーで課題やギャップを明確にして我々人事部がやるべき育成手段として「こんな感じの研修がいいのではないか」というところまできて、それからやっと「この研修ができる講師は誰だろう」となったわけです。

猪口 そこで講師選びとなるわけですね。

富士 講師選びには個人的なルールができていました。例えば課長研修を任されたら、「課長」というキーワードで出版物、書籍を10冊以上読みます。若手向けの研修であれば若手向けの本を10〜20冊くらい読むと、その中でこれだという本が1〜2冊見つかります。人気があるかどうかより、ターゲットの課題に合っていることが基準です。マッチングした本の著者にすぐ会いに行き議論します。出版しているということは、考えていることが整理され世の中に提起されているということで最低基準をクリアしていると見ることもできます。次に、その人が実際に研修をやっているところを見に行きます。本がマッチしていて、話がマッチングしていて、実際の研修が非常に良かったという、この3点がそろわなければ講師に選びません。さらに可能な限り自分自身が受講することも大切です。

金森 すごく正しいプロセスです。僕は「顧客のことは顧客に聞け」と常々言ってきています。通り一遍のネット調査など、安くて早い定量的な調査に偏りがちですが、昨今、心あるマーケッターは、顧客へのデプスインタビュー(対象者とインタビュアーが1対1の面談式で実施する、定性調査の手法の1つ)で、本音や意識下の潜在ニーズなどまで定性情報をしっかり集めています。そのとき大事なのが論点設定、ないしは課題設定をしっかりすることです。ここが曖昧だと何のためにやっているかわからず、結局形だけになってしまいます。富士さんはそこをしっかりされているのはすごいことです。

猪口 富士さんが100人いて数千億円の仕事をつくるというところから、ブレていないですよね。

富士 せめて凡人の私以上には活躍してほしい。そのためには何をしたらいいか、と思って始めました。

私が入社時から抱いている仕事のコンセプトの1つが「クレームゼロ」です。クレームを減らすのではなく、ゼロにする。研修もクレームをゼロにしたい。もっと言えばストレスをゼロにしたいと思いました。クレームとは「時期が悪い、会場が寒い、休憩が短い、周知が遅い」といったものです。アンケートだけでなくヒアリングの中で他の研修に対して出たものも含めています。

着任した年の前半は、ヒアリングをしながら、研修の視察をしました。そこで、受付に人が並んでいるのを見て、これはあり得ない、待ち時間ゼロにしようと思いました。まずは入り口で記名済みの名札を渡すことで出欠とる方式で、かなり改善しましたが、その後、運よく社員が通ると出席が自動的にカウントできるシステムを導入できました。

また、見ていて一番気になったのは、研修中にお客様から電話かかってきて、そのまま出て行く受講生がいたことです。周りの受講生の集中力を落とす危険もあります。少しでも研修に集中した状態で参加できるようにしたいので、夢中になるカリキュラムはもちろんのこと、「研修に集中したいから、その日は電話に出れないから、回さないでほしい」と職場に言ってから研修に来るような仕掛けをつくろうと思いました。そのことを念頭に置いて環境やシナリオを検討し直した結果、約3年ほどでしょうか。それからはキチンと電源も切り電話に出るために退室する人は皆無となりました。

直接、「やらないでください」「やめてください」とするのは、研修のつくり方として最も間違っていると考え避けるようにしています。よくある例ですがコンプライアンスの研修とかで最初に違反した場合の罰則や処分について話すことがありますが、「怒られるからやめなさい」というのは、育児でもそうですが、自ら考えるという自立型思考にも合わないですし、本質的な理解を奪う危険性があり研修では避けたい方法です。「こうするのが正しいから、正しいことをやりましょう」と言うのがコンプライアンスであって、「これをやったら捕まるからやめようね」と言ってしまうと正しいことをやる(判断する)という価値観やマインドが身につきません。新入社員研修でも、「社会人としてこんなことをしてはいけない」と最初に脅かすことが多く、研修はいまだに最初に脅かす設計です。これらは怒られないように仕事するといったネガティブな思考として企業や組織の文化にも影響するので注意が必要です。そうではなく、「話を聞いているうちに夢中になって、フロー状態に入って、気が付いたら研修が終わっていて、楽しく身についた」としたいのです。

猪口 不安や煽りから入るのは、研修の1つのスタイルとして確立されていますよね。そこで気が付いてほしくてやっているのでしょうけど、今おっしゃったように逆効果ですね。

アドオンせずに現在の仕組みの中で付加する

富士 日本のビジネスパーソンの多くは「手を動かしていないと仕事してるように見えない」という意識があって、効果面よりもやったという事実が重要になってしまいがちです。その結果どうしても施策では作業をアドオンしてしまいます。以前、全社員にES調査を行ったのですが、全体的に精神面やモチベーションの点数が低く惨憺たる結果が出ました。そこでコミュニケーションと健康増進施策として運動会をやることになったのです。すでに仕事と生活でいっぱいなのに、そこに運動会がアドオンされてしまう。当時、日本企業ではバーベキューや社内旅行が復活し始めていて、運動会も増えていました。ところが、蓋を開いてみたら出席率は高くない。運動会は土日でしたが、今の若者はONOFF切り替えますし、土日には仕事からは離れたいのです。多くは人事部関係と運動好きが来ているくらいで、全社というには少し無理がありました。私自身折角の休みがなくなるので辛かったです。以来何かをアドオンする施策はやらないようにと思いました。

そこで研修というコミュニケーションチャンスを偶然の産物にとどめてしまうのではなく、この機会を本当に「人的ネットワーク・社内人脈」構築の場として確実に効果を得られるよう工夫することとしました。お金と時間を使ってアドオンするのではなく研修のやり方を少し工夫してみるのです。これで私の研修スタイルが出来上がって行きました。まず1ヶ月前にはグループワークのチーム編成を決めて、先に簡単な事前課題をチームに出して、メールやネット上で交流してもらいます。忙しい中なので事前課題は深い議論するほどのものではなく、楽しくスムーズにできるものです。課長研修であれば、自己紹介をしながら、自分が過去に出会った理想的あるいは良い課長を何名か出し合い、それらをもとに数日後にチームで理想の課長を一言で簡単にまとめて提出してもらいます。簡単ですが、昔話は非常に盛り上がるものです。1カ月間交流していると、(今ならWEBミーティングですが当時はメールやSNSだったので)顔は知らないけどかなり馴染みになり、会うのも楽しみになります。また遅れて迷惑をかけないようにしようと心がけるので研修当日皆さんかなり早目に来てもらえます(私たち的には準備する時間がなくて正直迷惑なぐらいでした)。びっくりしたのは本当に遅刻がゼロになったことです。それまではSE担当には徹夜で仕事してそのまま来る人が普通にいました(仕事優先で研修なんて忘れてるレベル)が、調整してくるようになったということです。

猪口 行きたくないどころか、むしろ行きたいと思わせる雰囲気になるわけですね。

富士 そういうことです。いままでの知らない人同士が集まる気まずい雰囲気もなくなり、朝からすっかり盛り上がっていますから、研修でアイスブレイクもありません。すでにアイスブレイクできていて、むしろ勝手に話が進んでいたりします。またとにかくこういう取り組みをやり続けることで、つぎの研修時に来る人は、すでに受けた受講生からのアドバイスが語り継がれ、それが当たり前になっていくのです。なので研修を受けた人だけでなく周りにも波及し、指数関数的に事前に学習を盛り上げてくれる人や提出物をまとめてくれる人、朝早く集まろうと声がけする人が増えてきて、積極的にコミュニケーションが促進され、人脈が形成されて企業文化が変わっていくのも肌で感じることができました。

ただし、1つ1つの研修でこうしたことを丁寧にやるには人事部側にとてつもないエネルギーが必要です。このエネルギーを確保するには、半端ない使命感や相当の覚悟が必要です。こういった仕掛けの話だけを聞いて、じゃあやろうとしても簡単にはいかないのです。コンセプトペーパーがあって、アクションプランがあって、実際のオペレーションがある。この3つが全部揃わなければなりません。

金森 当時、自分のスタイルを模索していたので、事前にコミュニケーションをさせておく富士さんのやり方を見て、これだなと思いました。事前にチームを作って、メーリングリストを立ててもらい、皆がチームでやり取りしている中に講師も入ります。事前に関係性をつくっておくと、本番がすごくやりやすくなります。このやり方は、特に今の時代にこそ重要だと思っています。オンライン研修でブレイクアウトセッションをすると、皆に距離感があって思い切って議論ができず、進みがとても悪いものです。それをなくすため、事前に皆の関係性をつくっておくことが抜群の効果を発揮するのです。昔ながらのメーリングリストを使うのがおすすめですが、SLACKやTeamsの機能を使ってもいいですし、今はツールもいろいろあります。

富士 メーリングリストはすごく効果がありました。研修事務局として我々も加わります。メーリングリストの中身をオブザーブすることで、それぞれの研修回のメンバーの個性などの違いを把握します。例えばおとなしい、元気よすぎ、真面目といった個性を把握して、研修当日、講師に「このメンバーは静かなので、積極的に絡んでインタラクティブにやってください」「うるさいので、少し場をコントロールしてください」など、当日の進行の打合せのネタをメーリングリストのやりとりから出しています。おかげでスベらなくなり、見事にはまります。

人事部にくる前の仕事が、一人ひとりにカスタマイズしたWEBサイトを提供するという、One to One WEBシステムの仕事でした。「同じ研修でも開催回ごとに毎回メンバーが違う」ということに着目できたのは、もしかしたらそうした経験が生きているのかもしれません。

加えて、仕組みに意味を加えると、さらに強固になります。実際、幅広い年齢層が対象になる新任係長(リーダー)研修は、若手が仲の良い「採用同期」で集まって派閥のようになってしまう傾向があります。リーダーとなる者が小さくまとまってしまっては、会社の良い風土になりませんし、研修自体がいい感じに回らなくなってしまうことがあります。これを壊すためにこれら新任任用の研修では任用同期として新たな人脈として育てていきたいと考え「研修同期」という呼び名をつくりました。例えば「係長1年生」であれば、年は違っても同期で、「今日から君たちはこの同期を大切にしよう」というように持っていきます。狙ってやったわけではありませんがとても効果があり、その後、この言葉が会社を変えるくらいのインパクトに変わりました。今までは研修で一緒になったぐらいでは人脈としては、なかなか続かなかったのですが、メーリングリストや研修同期など、つながる仕組みを入れ込んだことで、組織を超えた情報交換が活発化し、事業部間連携が活発になるなど会社が目に見えて変わっていくことになります。

猪口 金森さんは、本質を突いている富士さんの研修と、いわゆる人事がこなしてやっているような研修のギャップには、何があると感じますか。

金森 やはり本気度でしょうね。研修を行うことが目的化していたり、単なる年中行事になっていたりするケースも散見されます。そういうときにこそ、私はより効果を挙げる方法を提案するようにしています。事前事後のコミュニケーションやフォローアップは必ず提案しますし、複数日に分かれる研修もよく提案しています。複数日だとインターバル期間ができるので、そこで一回、受講者が検討した課題を「中間レビュー」で叩きまくって一から考え直させることができます。マーケティングは流れで考えていきますが、ここで、流れで考えたものを壊して、もう一回流れをつくり直すと、学びがかなり深まるのです。

要するに、どこまで手間をかけるかです。「業務に活かせる」という僕のコンセプトや、「定着させることにどれだけこだわるか」に拠ると思います。そういう意味でいうと、オンラインの時代になってきてやりやすくなっています。例えば、中間レビューをするにしても、リアルだったら地方の人もいたりして集めるのも大変でしたが、オンラインであれば簡単です。受講者同士のインターバル期間中の検討も、今は会社のTeamsやZOOMなどのツールを使ったりしてグループメンバーとも簡単にできますが、昔だったら大変でした。

富士 研修では、最後は自分の目で見て研修の効果を確認しますが、アンケートの結果もまとめなければいけません。アンケートは作り方が大事です。受講生に今回学んだことをどう生かすか、これからどうやっていくかを書いてもらうのが1つ目です。指示書のようなアンケートですが、改めて念を押すことで、学んだことを振り返るので、それでも満足度は毎回90%を越えます。2つ目は講師所感で、シビアに書いてもらうようにしています。一般には講師所感と受講生アンケートだけのことが多いですが、私の研修では研修事務局スタッフとしての我々の所感があって、この3つ目が大事です。スタッフは最も研修の狙いを理解していますし、最も受講生と身近なコミュニケーションをとっています。そしてたくさんの質問を聞いていて、細かな情報がわかるからです。もちろん事務局スタッフは毎回反省会を行って、改善に結びつけていきます。だから研修をやればやるほど良くなっていくのです。

猪口 スタッフのスキルアップにも繋がりますね。

富士 研修は最終的に内製化されましたが、講師だけは外部の方に戻しました。講師以外の部分については、われわれ研修企画実施の自称プロフェッショナル軍団が研修をつくり出しています。うちの研修チームは、クレーム(ストレス)ゼロをめざし、毎回前回を超えるために努力していたので、相当レベルが高くなりました。例えば研修会場選びでは、さまざまなチェック項目がありますが、特徴的なのはトイレやエレベーターの利用可能数を把握します。例えば予備のトイレも合わせてチェックして、何秒かかるか計算して休憩時間をシミュレーションします。研修がどれだけ良くなるか、スタッフの中で競い合っているところもあります。私も細かくチェックしますので「富士に負けるな」と、競い合うようにしています。結果的に最初にお話しした、100人育てるという話に近づいてきているわけですね。私がいなくてもうまく回るのは、おそらく私の人材育成への取組みマインドを継承し、育ててくれているスタッフのメンバーのおかげです。受講生と一緒にスタッフみんなも成長できていたこと、そして実際優秀だったということに他なりません。こうして世代を超えて継続し続けていくことで、ようやく人が育つ組織や会社になっていくのだと思います。

後編はこちら⇒【インサイトナウ編集長鼎談】人材育成はマーケティングだ(後編)

富士 翔大郎
主にIT系企業の人材開発コンサルタントを担当。コンシューマ向けの販売からECサイト構築、法人営業まで幅広い分野で営業職を経験。その後、デジタル技術の黎明期から変革期にITエンジニアを約10年経験。同時に人材育成にも携わり、現在に至る。法学部卒ながら教員免許を3種取得。

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