1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

スーパー高校生の才能を活かせなかったキャリア教育の悲劇/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2022年9月20日 7時44分

スーパー高校生の才能を活かせなかったキャリア教育の悲劇/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

・高2で千葉大に入学
全国初の飛び級入学で、高校2年で千葉大に入学したこの方は、ご自身が物理と数学には飛び抜けた能力を持ちながら、社会や国語が赤点レベルだったと回述しています。千葉大の制度は正にこんな学生のためにあるともいえます。八方丸く何でもできるオールラウンダーではなく、飛び抜けた才能とそれ以外という、極端に激しい能力差を抱えた者に最適な制度だといえます。

実際に学部での勉強に打ち込み、そのまま大学院修士課程まで進み、ある財団法人の研究職に就職したと言うことでした。ところが、初任給の手取りは15万ほど。非常勤講師などアルバイトもしたものの生活は苦しく、30才を過ぎて、きっぱりと研究の道をあきらめ、元々持っていた大型免許を生かしてトレーラーの運転手になったということです。

ご本人は大学の研究者に代表されるアカデミックポジションが上位、トラック運転手が下位ということでは全くなく、家族を養って人並みの生活を送れる現在のキャリアに納得しているということでした。

・真のキャリア教育・指導が機能できたら
私はこの方は実にスマートな頭脳と感覚をお持ちであり、現在のキャリアについてもご自分なりの納得感を得ていると感じます。一方で、真のキャリア教育が機能できていたら、日本という国にとって、一人の優秀なアカデミア人材を得られたかも知れないという残念さもあります。

私は長年大学や大学院でキャリア教育を行ってきました。残念ながら大学院生のキャリアの現実については、世間一般においてほぼ何も知られていません。それだけに専門的なキャリア指導・支援ができたなら、こうしたキャリア選択において、もっとその選択肢を広げられた可能性があります。

ご本人の意思とは別に、もし研究をキャリアにしたいと考えたのであれば、修士課程修了での財団法人就職はキャリアの可能性をきわめて狭めてしまう「危険な選択」の可能性があります。そのことを指導できるのが真のキャリア教育です。物理学の研究であれば、絶対に博士後期課程に進学すべきだし、学位をもって活動すれば、きわめて難関と言われるアカデミックポジションを得る可能性も高まります。

どうやって博士後期課程に進学するのか、学振が取れそうか、様々な学内外の資金の可能性など情報収集と検証によって、キャリア実現は可能になるのです。

・世に知られていない大学院生キャリア
ネット記事などでも日本有数の国立大学で博士号まで取得した人が、バイトすらままならない非正規な立場に置かれる、「超高学歴ワーキングプア」ネタがたびたび取り上げられます。また大学院生のキャリア状況を全く知らない人から「博士課程に進んだら人生詰む」とアドバイスを受けたという話も多くの博士後期学生から聞いています。

私は15年の大学院生のキャリア支援を通じて、何百社もの博士受け入れ企業を開拓してきました。国立上位校博士後期課程を修了し、民間企業にキャリアを得る学生を今も多数指導しています。15年前と違い今は、博士というだけで門前払いするような大手製造業はまずありません。

むしろ上場や大手メーカーの方が博士採用の可能性は高いので、学生の企業選択も修士や学部とは視点を変えることを指導しています。一方で民間就職以上に厳しく、狭き門であるアカデミアの進路についても、単に博士号があるから程度で進めるキャリアではないことを教えています。むしろ支援してきた学生でアカデミックポジションに進んだ博士学生は、民間企業でも堂々と通用するようなコンピテンシーの高い者が中心と感じます。

国立上位校の理系であれば学部生の9割以上が修士に進学します。バリバリの基礎研究をしていても民間企業に就職する院生は、修士はもちろん博士でも普通にいます。研究テーマだけで採否を決める企業はまずありません。高いインテリジェンスと、研究で培った課題発見・設定能力をちゃんとアピールできれば実際に採用されています。企業のメガネに叶わず採用されないのは、文系学部生であっても全く同じ状況です。

・正確なキャリアの情報を得るには
人文学系博士のニーズがないことは事実です。しかしそれは進学前から十二分にわかることであり、それでもあえて博士進学をした以上、「こんなはずではなかった」と後悔することがないような覚悟を決めさせることがキャリア指導の責任でしょう。

大学院生キャリアについては、必ず専門家の意見を聞いて下さい。何十年も前の話や、想像だけのアドバイスは著しく正確さを欠き、自分の人生を決める上で避けなければなりません。今、国立上位校には必ず博士人材キャリアの専門部署があります。

上位校の学部生や修士ですら就職に苦しむ学生がいるように、リスクをゼロにすることはできません。しかし意欲があり、能力を持つ人材であれば、上手にリスクコントロールをしながらキャリアを築く道は、むしろ今豊富に用意されているといえるでしょう。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください