日本で本当にECは拡大しているのか? EC化率が8%台でとどまる/INSIGHT NOW! 編集部
INSIGHT NOW! / 2022年10月3日 8時59分
INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社
経済産業省は、「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」を実施し、日本の電子商取引市場の実態を取りまとめた。
調査によれば、令和3年の日本国内のB2C-EC市場規模は、20.7兆円(前年19.3兆円)と、前年比7.35%増だったという。世界各国との比較でいけば、日本のEC市場規模は中国、アメリカ、イギリスに続いて4位となっている。この発表を受け、日本においてもECが非常に成長しているという論調が目立つ。
しかし、果たしてそうなのか。EC化率(全ての商取引金額に対する、電子商取引市場規模の割合)はわずか8.78%で、前年より0.7ポイントの上昇にとどまっている。つまり、ECの市場規模では世界4位だが、世界各国に比べればEC化率の伸び率は低く、ECの市場規模でも今後は世界においてもシェアは少なくなっていくのではないか。
なぜ日本のEC化率は伸びないか
これだけECの隆盛が言われるなかにおいても、EC化率が1割にも届いていないのはなぜだろうか。アメリカでも13%台で推移していると言われ、日本はどう考えてもEC化率が低いままだと言わざるを得ない。
個人消費の伸び悩みに対してECの伸びは顕著であり高い成長率だと評価する向きもあるが、世界でも類を見ない充実した物流網やデジタル端末の普及率、約85%と言われるクレジットカードの保有率(18歳以上)、そしてきめ細かいサービスのノウハウを考えれば、世界各国の中でもEC化率が低くなることはなさそうに見える。
実際に、商品アイテムごとに見れば、「書籍、映像・音楽ソフト」(46.20%)、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(38.13%)、「生活雑貨、家具、インテリア」(28.25%)となっており、アイテムによっては高いEC化率が実現している。この事実を考えれば、2割程度のEC化率となっていてもおかしくない気もする。
中国やアメリカと違い、国土が狭い分、すぐに買い物に行けるという理由はかつてから言われたが、コロナ禍で家から出るなと言われたにもかかわらず、さほどのEC化率の増加を見せなかったことを考えれば、それも違うのではないかと思える。日本人固有の「きれい好き」「清潔」の価値観を低いEC化率の理由に挙げる人もいる。確かに、徐々に増加しているとはいえ食品関連のEC化率が低いことを考えると、自分の口に入れるものに関しては自分の目で見てからでないと買わないという日本人の価値観の側面はあるかもしれない。ただ、インスタント食品やレトルト食品に対する意識調査を見ると、日本人全体として「食への意識」が諸外国と大きく違うとも思えない。
ユーザー側、企業側からの要因
さまざまな理由が考えられると思うが、ユーザー側、企業側、商習慣の観点から見てみよう。
まず、ユーザー側からしてみれば、特に都市部において、買い物に出かけることに不自由がないことがひとつ挙げられるだろう。都市部においては歩けばすぐにコンビニがあるような状況であり、配達の日時指定がある程度できるとはいえ、欲しいと思ったときに手に入る利便性は捨てがたい。こうした物販流通網の整備があればECの必要性もそれほどでもないかもしれない。
とはいえ、もっとも大きいのは、実質賃金が増えないなかでの消費意欲の低迷ということだろう。通販(EC)ということは、物流コストがどうしてもオンされるものであり、少しでも節約しようと思えば、自分で買いにいくしかない。好きな飲食店には並ぶことも辞さない日本人の特性を考えれば、少しでも余裕が生まれれば、いつどこでECのブームが起こってもおかしくはない。
ECを提供する企業側から見れば、相変わらず大きいのは、経営陣のECビジネスに対する理解の甘さではないか。これも昔から言われていることだが、ECを甘く考えすぎている。「ホームページさえ作れば良い」「適度なプロモーションさえ行っていれば良い」「担当は数名で十分、受発注管理や配送管理、物流など既存のシステムで十分」「Amazon、楽天などのプラットフォームに出店すれば良い」などの認識だろう。それで新たなビジネスが成長するはずがないというのは誰でも思うことなのだが、企業側のECに対する投資金額や人材開発・採用の面を見ると、疑わしくなってくる。
そして、もっとも大きな問題は崩すことの難しい商習慣だろう。「メーカー(商社)~問屋~小売店」が強固に結束する商流を壊してまでECを本格的に行っていくことは相当難しいのではないか。実際、高いEC化率を達成している商材の背景には、日本の商習慣の壁に関係なく展開できる外資資本の企業の存在が大きい。さらに、企業内での雇用の問題もある。ECに本格的に進出しようと思えば、新たな人材の採用と商流の変革による余剰人員の解雇がどうしても不可避となる。これも現在の日本の企業ではほぼ不可能な話だ。
このままでは、B2Cにおける日本のECが大きく飛躍することはおそらく難しいだろう。この流れを変えるには、ECとは、これまでの商習慣とはまったく別のビジネスモデルであることを十分に理解し、自分の会社にとってECはどうあるべきかをいち早く戦略としてつくりあげていくことが必要となる。EC化率の上昇が日本の経済成長に寄与するのは間違いのないことであり、これからの経営者の大きな課題だ。
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