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【ビジョナリー対談】お客様自身が自分のニーズを分からない時代。「探索型」のスタイルが必要となる/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2022年10月18日 8時0分

【ビジョナリー対談】お客様自身が自分のニーズを分からない時代。「探索型」のスタイルが必要となる/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

神原サリー様(家電ライフスタイルプロデューサー)
松井 拓己様(サービスサイエンティスト・松井サービスコンサルティング 代表)

今日は神原サリーさんのアトリエに、松井さんがお邪魔させていただきました。楽しくお話しできればと思います。サリーさん、いま「これは!」という商品はありますか。

神原  私の今の最大のテーマはポータブル電源です。ポータブルソーラーパネルを組み合わせて、ベランダで発電する「電気のちょこっと貯金」を楽しみながら、もしもの時の備えというより日常のために使っています。スマートフォンの充電をしたり、このアトリエにある調理家電で使ったりしています。日常で使うことで節電になりますし、自分で電気をつくるのはすごく楽しいですよ。

松井  ポータブル電源は僕も持っています。キャンプが好きなので、キャンプ場にポータブル電源を持って行きますが、日常では使っていません。

神原  使わないとだめです! ありとあらゆるものが賄えるので楽しくなりますよ。今日は天気が良いからとちょっと充電したり、太陽が役立つと思うと嬉しいです。でも、楽しくなるのは女性が多いようですね。男性はアウトドアで使うものと考えるようで、バッテリーの残量が数%増えたからって喜ばないみたい(笑)。節電がどうとか、つけっぱなしにしたらだめだと言うより、自分でつくった電気を使うことを学べば、必然的に無駄に使いたくないと思いますよね。私、小学校を回って説明したいぐらいです。

松井  屋根にソーラーパネルが付いているのではなく、自分で出して発電するというひと手間もすごくいいですね。

松井さん、サリーさんの商品レビューをご覧になって、いかがでしたか。

松井  サリーさんはサービス的なお仕事をされていると感じました。メーカーは製造業としての都合を押し付けるようなPRはしますが、「こういうふうに使うと暮らしがもっと素敵になりますよ」といった使い方のところはほとんど言いません。人によって使い方、価値の引き出し方は変わります。サリーさんはそこに寄り添っていて、それが実にサービス的な感じがするのです。

神原  メーカーが気にするべきは、本当はお客さんのはずです。それなのに、頭の中の80%が横の競合メーカーのことなので、使う側に伝わらないし、魅力的に映らないし、ワクワクしないのです。まさに、サービスのお話だと思います。

松井  サービスの定義を知らない人が多いのですが、実はきちんとした定義があります。サービスとは、サリーさんがおっしゃっていることそのままで、「誰にとって」ということに尽きます。定義を言うと、例えば掃除機であれば、掃除機が発揮する機能の中で、お客さんの事前期待に合っているものだけがサービスです。事前期待とは、お客さんが元々持っている期待のことを言います。裏を返すと、いくらすごい機能があっても、そこに期待をしていないお客さんにとっては、それは価値のあるサービスではありません。誰にとっての機能なのか、誰にとってのナンバーワンなのか、どのような事前期待がお客さんにとってのサービスなのかをきちんと設定する必要があります。それがないから、サービス提供者が良かれと思って一生懸命やっているのにお客さんは全然喜んでいないということが、日本中でたくさん起きているのだと思います。

提供側は、スペックやコストというわかりやすいことは競いますよね。

松井  サービスで言うと、価値の評価は「成果に対する評価」と「プロセスに対する評価」に分けられます。成果とは、家電で言うと、バッテリーのもちや吸引力などの性能で、結果として得られる性能の評価です。プロセスとは、「電気のちょこっと貯金」のような使い方や、自走するから楽だとか、収納するとき一回上に上げなければいけないから手間がかかるからイマイチだ、といったことです。

この二つに分けたとき、家電だけでなく日本中の企業では、成果の評価を高める努力はすでにしています。他社にはない機能を開発しよう、スペック、コスパで勝負をしようといった努力です。しかし、プロセス側で価値を発揮できるような開発はほとんどしていません。していてもアピールできていなかったり、お客さんに伝わっていなかったり、お客さんがそのプロセスで価値を引き出せるようになっていません。メーカーとして、家電を買った後きちんと使えるようになるところまではフォローしますが、お客さんにとっては使えるようになってからが本番なのに、「そこからはお客さんが頑張って上手に使ってね」となってしまっているのです。

サリーさんは、そこからの先の「もっとこういうふうに使ったらどうですか」「あなただったら、このご家族だったら、こんな使い方のほうが面白いんじゃないですか」ということを引き出して、紹介しているのだと思います。これは、本当はメーカーがやらなければいけないでしょう。

神原  メーカーがプロセスの評価をしてないわけではないのですが、まずは機能(成果)を言ってから、使い勝手(プロセス)を言っている。私は家電の仕事をやり始めたときから、成果だけでなく、プロセスこそが知りたいと思っていました。それなら買いたいと思う人、ましてや女性なら、日々困っているときにそれをやってくれたら嬉しいと思う人がいるはずです。例えば掃除機であれば、そこまでの吸引力より、ゴミが捨てやすいほうが助かる人もいるでしょう。ある程度のことさえやってくれれば、今まで嫌だと思っていたことを解決してくれたほうがどれだけ助かるか。これは、私が家電の世界に入ってから繰り返し伝え続けていることです。メーカーの人たちは無自覚で、良いところに気づいていません。その良いところを引き出して、「この商品の良いところは、本当はここじゃないですか? それを言いましょうよ」と伝えるのが私の仕事です。

松井  僕は元々メーカーで商品開発をしていたので、開発のプロセス、進め方にも問題があると思っています。開発には、量産をして店頭に並べるまでの手前にいくつかのゲートがあります。デザインレビューと呼ばれる、そうした関門をクリアするためには、やはり性能や機能が問われます。あとはコスト、損益分岐点です。開発者は機能やコストのプランニングシートは一生懸命書くのですが、サービスのプランニングシートは存在すらしません。つまり、「お客さんにどのように使ってもらって、どんな暮らしを実現してほしいのか」というところが設計できていない。サービスのコンセプトはあっても、設計に落とし込めていない。そのため、極端に言うと、スペックもコストも他社と同じで金太郎飴になってしまう。使い方やプロセスの評価が一番の価値であって、他社との差がつく領域になっているのに、そこがプランされていないのでけっきょく性能を押すしかない。性能という観点でしか商品開発の企画ができていないメーカーは、けっこう多いのではないかと思います。

神原  私がずっと言い続けているのもけっきょくそこです。

どうしても日本では、サービスは無料だという意識が抜けません。

松井  企業に装置を導入して、保守やメンテナンスをするというサービスがあります。トラブルがあったら駆けつけて修理をする、あるいはトラブルがないように日々の運用やメンテナンスを引き受けるといったアフターサービスです。そこで普段仕事をしていても、「早くしろ」とか「なんで壊れたんだ!」と、叱られることはあっても褒められることはあまりないそうです。そうすると現場が疲弊して、仕事が楽しくなくなっていく。自分たちの仕事を通して褒められ、お客さんの役に立っているという実感が得られるような事業スタイルに変えていかないと、このままでは誰もやりたくない事業になってしまいます。

家事も似ていると思うのです。毎日きれいに掃除ができていることが当たり前、料理も時間通りに出てくるのが当たり前になっていて、それがうまくいかないと、家族から不満を言われてしまう。これは家事だけなく、幅広くサービスという観点で見ると、いろいろな業界で起きていることです。それをどう楽しい仕事にするのか、価値を実感できる仕事にするのか。毎日積み重なって、平穏無事に過ごしていることがすごく良いことなのだと、どう実感できるかがとても大事だと思うのです。

神原  家事はやれて当たり前で、感謝されない。だからこそ、例えばワンオペ育児のような言葉もあって、みんな「私だけが」という思いがある。意識を変えていこうとするものの、本当にできているかといったらまだまだです。モチベーションが上がるようなサービス設計にするためには、具体的にはどのようなことをするのですか。

松井  一つは可視化です。知らないうちに装置がメンテナンスされ、トラブルが解消されていつも通り動く状態は、何も説明されないと当たり前になってしまいます。しかし、危険の余地があって、今週ここをこういうふうにメンテナンスしたので、こんな重大なトラブルを回避しておきましたと言われたら、「ナイス!」という話になります。

おそらく家事も一緒で、よく「名もなき家事」と言われたりしますよね。例えば子どもを風呂に入れるなら、服を脱がせて、それを洗濯機に入れて、出した後に体を拭いて、オイルを塗ってやってということが男性はわからないので、子どもを洗って出したら、もう風呂に入れた気分になって、やってやったぞという感じになる。その前後のプロセスが可視化されれば、全然できていないことがわかって、いつもやってくれてありがとうという気持ちになります。そのようにサービスは目に見えないので、まずは見えるかたちにします。

あとは、価値がわかるように伝えることが大事です。例えばバッテリーがどれだけ強化されたかも大事ですが、「こういうふうに使ったらもっといいのに」といったことはまさにサービスの情報です。目に見えないサービスの情報が、可視化されてお客さんに伝わっていない。バッテリーであれば、バッテリーが持っている100の魅力のうち、多くのユーザーは30ぐらいしか使ってくれていない。残りの70の使い方がわかれば、もしかしたら家事はもっと面白くなったり、もっと褒められたり、もっとみんなでできるかもしれないという可能性が見えてくるのではないでしょうか。ですから、まずは可視化をする、見えるかたちにすることだと僕は思っています。

神原  たしかにそうですね。どこまで家事に置き換えられるかはわかりませんが、可視化は大事ですね。

松井  もう一つは、やはりサービスは体験してみないとわかりません。疑似体験でもいいので、体験型で価値を実感するのもいいと思います。例えば、丸投げのメンテナンスだと当たり前になってしまうので、ユーザーに「こういうメンテナンスを普段やっておくとより良いですよ」と一部をセルフサービス化して、自分でやれる状況をつくってあげるのです。少しやってみることでプロの仕事の価値がわかるようになります。「これってけっこう大変だな」「あの時間であの作業ができるのはすごい」とわかるようになるので、体験型で価値を伝えることも家電と繋がるのではないでしょうか。

家電量販店の店頭には商品が並べられていますが、これは成果重視型のアピールで、スペックと価格を比較するという少し古いやり方です。むしろスペースをぐっと広げて、商品数を絞ってでも体験型にする。ぜひ触ってください、自由に使ってください、持ち帰って使って後で返してもいいですよといったかたちで、体験型の店舗を増やしていかないと、プロセス型の価値はなかなか伝わらないと思います。

楽器店では、楽器が並べられているところに「触らないでください」と注意書きがあります。高額なので、勝手に弾いて壊してしまう心配があるのかもしれませんが、旗艦店ぐらいは「ぜひ触ってください」に変えないと意味がありません。見るだけならカタログで済むことです。

少しでも体験してみると、奥さんに家事を任せっぱなしだった旦那さんもいかに大変かわかりますから、「いつもありがとう」の一言が出るかもしれません。

神原  家事で言うと、どれだけ感謝の言葉を口にできるかが、一番スムーズにいくポイントだと思います。そこに流れをつくるようなことができるといいですよね。今は家電量販店もショールーミング化して、体験してもらう場があります。掃除機でもドライヤーでも、今は充電してあったり、コードが電源に繋がったりして、いつでも使えるように変わってきています。

昔は私も売り場提案の仕事をしていましたが、やはり売り場よりもメーカー側の発信だと思うのです。今はSNSがあるので、流通を抜いてメーカーが買ってくれたお客さんに、直接ワクワクする使い方や新しいレシピを発信することができます。メーカーは、買ってくれた人が情報を発信してくれるといいと思っているようですが、それではあまりにもお客さん頼みです。その前に、買った人を幸せにするような情報をつねに出していく。途中で買って終わりではなく、その先を、メーカーがまさにサービスとしてやっていかなければならないと思うのです。

メーカーの役割も、大きく変わってきているのですね

松井  サービスでは「価値共創」という言葉を大事にしています。ものづくりは、メーカーが価値をつくって届けるので提供型になります。サービスの場合は、お客さんごとに期待が違うので、お客さんとコミュニケーションを取りながら、価値をお客さんと提供者が一緒につくらないとできません。例えば理美容店では、スタイリストが格好いいと思うからと、お客さんに何も聞かずに勝手に坊主にしてしまったらクレームものです。お客さんの好きな髪型を、「今日はどういたしましょうか」と話しながら仕上げていくわけです。このように、サービスの価値をお客さんと一緒につくるのが価値共創の考え方です。

お客さん頼みのやり方は共創にはならず、メーカーが売っておしまいです。価値共創は、お客さんが価値を生み出すところを、サービス提供者がサービスとして設計し、サポートしていくことが必要です。それが評価に繋がり、評価が高いとまた次の期待が生まれます。次の事前期待をつくることがすごく重要なのです。サービスの観点で見ると、多くの企業でそこがアンコントローラブルで、「お客さん勝手にやっておいて」になってしまっています。そこをきちんとサービス事業として設計ができるかどうか、自分たちがマネジメントできるかたちでお客さんと一緒に進んでいけるかどうかが非常に重要です。サリーさんが言う「抜けている間をきちんと設計」しないといけないし、まさにそこが大きな伸びしろだと思っています。

神原  メーカーのお客さん頼みのやり方は、それだけ魅力的な商品だという自信があって、それこそが共創だと思っているのかもしれません。魅力的な商品だという自負を持っているわけですから、発想を変えれば、絶対に共創できるはずですよね。

松井  そう思います。サービスを考えるときのスタンスの変化というものがあります。昔、物が足らなかった時代は、お客さんの指示通りにつくっているだけで十分でした。これを「受身型」と言います。物が溢れてくると、今度はちょっと良いものが欲しくなります。ニーズが多様化してきた時代は「提案型」です。多様なニーズにどんどん提案をぶつけていきます。

では最近はどうなのかというと、良いものが溢れているので、お客さん自身が何を欲しいかわからなくなってきています。お客さん自身が自分のニーズがわからない中では、提案型のスタイルはあまり上手くいきません。欲しいものがわかっていないお客さんに、「お客さんならこれですよ」と言ってもフィットしないですよね。そこで、「探索型」のスタイルが必要になります。探索型は、「お客さん自身がニーズを探し出すところからご一緒しますよ」と、提案というより探索をします。このスタンスでご一緒できるかどうかが、おそらく抜けている間を埋めるプロセスになるのではないでしょうか。

「こんな使い方はどうですか」「使ってみてどうでしたか」といったコミュニケーションを含めて、一緒に探索をする。このプロセスにどう提供先側が関わっていけるかであって、そこに取り組まないと間が埋まらないのではないでしょうか。サリーさんはまさにこの探索型の情報発信や取り組みをされていると思って、それで、さきほどサービス的だとお話ししました。

神原  一瞬で見抜かれたのがすごいです。「探索」するというコンセプトはまさに私の仕事だと思います。私の仕事をわかりやすく解説いただいて、ありがとうございました。(笑)
これからもメーカーとユーザーの間を少しでも埋めていきたいと思います。

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