高齢者が病院に行きすぎてしまう理由/川口 雅裕
INSIGHT NOW! / 2022年11月7日 11時18分
川口 雅裕 / NPO法人・老いの工学研究所 理事長
内閣府は1980年から5年に一度、「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を実施しています。2020年に発表された調査から、高齢者の健康と医療に関する日本の状況について概観してみたいと思います。(調査対象は60歳以上で、老人介護施設などへの入所者は除かれています)
まず、健康状況については表のようになっています。
「健康である」「あまり健康とはいえないが、病気ではない」を合わせると、日本は男性が91.2%、女性が92.2%となっています。アメリカ、ドイツ、スウェーデンもあまり差がなく、各国とも高齢の人たちの約9割が、病気ではない健康な状態であることが分かります。
なお、80歳以上に限って見てみても同様に、日本は88.4%、その他3つの国でも85%超と高い数値になっており、少なくとも調査対象になった国では、身体的健康という意味では高いレベルにあるといえるでしょう。
●日本の高齢者は「病院に行く回数」が多い
一方、医療サービスの利用状況についてはかなりの差があります。ざっくりといえば、月に1回以上、病院や診療所に行く人の割合は、日本が6割、アメリカは2割、ドイツが3割、スウェーデンは1割ということになります。
その分、他の国よりも日本の高齢者が健康だというなら分かりますが、健康状態は各国でそう変わりません。ということは、高齢者の健康と、医療サービスはそんなに関係がないのではないかと思えてきます。病院の数や行く回数を減らしたら健康が損なわれるかというと、他の国を見ればそうとは言えません。
このことは、北海道夕張市の事例が分かりやすいでしょう。財政破綻した夕張市では、ベッド数が171床あった市立病院が19床の市立診療所に縮小され、医療サービスが“崩壊”とも言えそうな事態になりましたが、がん、心臓病、肺炎で亡くなる人が減り、1人当たりの年間医療費も80万円から70万円へと減ったといいます。
もちろん、医療サービスが減っただけでなく、そのような事態に対応した医師たちの工夫があったわけですが、いずれにしても、病院や診療所などがたくさんあることや、そこに頻繁に通えること自体が、健康にとって重要というわけではないということです。
以前から、「診療所が高齢者の集いの場のようになっている」「高齢者は病院に通い過ぎ」などの批判はありました。諸外国のデータと比較すれば、まさにそうだということになりそうですが、果たして、医療サービスを使い過ぎる高齢者を批判すべきなのでしょうか。筆者は、制度面や医療提供側の姿勢にも問題がかなりあるように感じます。
●病院に行く回数が増える理由
まず、欧米の「家庭医」「主治医」制度のような仕組みがないこと。患者は、まずは必ず自分が選んだ「家庭医」で受診し、病院や専門医には家庭医の紹介がなければ診てもらえないような仕組みです。
日本では、基本的に誰でもどの病院、診療所でも受診が可能です。目が悪くなれば眼科へ、腹が痛ければ内科へ…と、状況に応じて患者自身が考えて受診します。そうすると、風邪のような軽い症状で病院の外来に行くような人が増える、いわゆる“はしご受診”といわれる1人で何カ所もの病院を使っているケースが出る、患者のことをよく知らない医師が診るので診察・治療に無駄が生じる、といったことが起こります。
また、日本の病院、診療所は民間が多いため、売り上げ・利益が必要で、患者という顧客を継続・開拓し続けなければなりません。治療して治ったら終わりではなく、たとえそれが加齢現象で、治るようなものではなくても、「病気」として診察したり、診療報酬が多く発生するような処置をし続けたりする医療機関も存在します。治っていて、何ともなくても「また来週、来てください」と言われれば、行かざるを得ないでしょう。
高血圧の基準を「収縮時140mmHg」と変更することによって、「高血圧症」の人を多く生み出したのが典型的ですが、民間の医療機関が、患者という顧客を生み出し続けなければならない以上、そのマーケティングや営業行為に乗せられている、病院通いの高齢者が減ることはないはずです。
諸外国に比べて突出して多い、日本の高齢者の病院通いはこうしてみると、日本の医療制度に関する構造問題、すなわち改革の遅れに根本的な原因があるのだろうと思います。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
【若手医師のキャリア満足度と開業志向】約9割の医師が収入の増加や地域医療への関心が「開業」を視野にいれている結果に
PR TIMES / 2024年11月21日 11時0分
-
半年ぶりに行った整形外科で「初診料」を請求された! 2回目以降は「再診料」じゃないの? 初診料が請求されるケースを解説
ファイナンシャルフィールド / 2024年11月1日 5時0分
-
小児科を標榜しているのに「小児科専門医」がいない…現役医師が受診前の確認を強く勧める病院サイトの項目
プレジデントオンライン / 2024年10月30日 18時15分
-
【高齢者の医療機関状況】約7割が複数の病院を受診していることが判明!年々大変だと感じる傾向が明らかに
PR TIMES / 2024年10月28日 14時45分
-
「とりあえず薬を」という横柄な医師が"秒"で黙る…医師・和田秀樹が伝授「診察時に出すと効果的なアイテム」
プレジデントオンライン / 2024年10月28日 10時15分
ランキング
-
1とんでもない通帳残高に妻、絶句。家族のために生きてきた65歳元会社員が老後破産まっしぐら…遅くに授かった「ひとり娘」溺愛の果て
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月21日 8時45分
-
2紅白「旧ジャニ出演なし」に騒ぐ人の"大きな誤解" 出演しない理由についての報道の多くがピント外れ
東洋経済オンライン / 2024年11月22日 13時30分
-
3ブラック工場勤務なのに総資産1億円! 大台を達成した30代に教えてもらった7つの“節約テク”
週刊女性PRIME / 2024年11月22日 9時0分
-
4ファミマの「発熱・保温インナー」はヒートテックより優秀? コンビニマニアが比較してみた
Fav-Log by ITmedia / 2024年11月21日 19時55分
-
5「合コンも仕事のつもりだった」20代で“年収1,000万”稼ぐ彼氏の苦しすぎる浮気の言い訳に唖然
日刊SPA! / 2024年11月21日 15時51分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください