【インサイトナウ編集長対談】今の組織で結果にこだわることでスキルを上げ、外でもチャレンジする。 だめなら戻ってきてまた頑張れば良い/INSIGHT NOW! 編集部
INSIGHT NOW! / 2022年11月24日 12時0分
INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社
お相手:株式会社エデュテイメントプラネット 代表取締役 柳田 善弘 様
eラーニングのコンテンツに注力
猪口 新卒での入社から起業され現在に至るまで、ずっと教育関連のお仕事をされていますが、柳田さんは元々教育をやりたいという思いがあったのですか。
柳田 元々は出版や文字のメディアに興味があったのですが、最初に内定をもらったのが縁だろうとベネッセに入社しました。ベネッセでコンテンツや教育に関わり、転職後にeラーニングに関わりました。2003年に研修企画と教材開発の会社「エデュテイメントプラネット」として独立してから、eラーニングのコンテンツをつくることをメインにしながら、体験学習に価値を感じていたので研修で使うビジネスゲームも開発してきました。
当時はeラーニングのはしりで、当社は受注開発がメインでしたが、市場としては海外からのローカライズの教材も多かったですね。
猪口 会社勤めをするにしても独立するにしても、30代、40代の人たちにとって、今は大変な時代です。そこで、いろいろな働き方があると知っていただきたいと思っています。柳田さんの28歳での独立は早いですし、思い切りましたね。
柳田 就職するときから、もっと言うと大学を選ぶときから、マネジメント側に回ろうと考えていました。大学で経営系の学部を進んだのも、当時は、理系で頑張っても組織に使われるだけだと思っていたからです。実際には経営系でもエンジニア系でも、そもそも学部で学べることは限定的ですし、社会に出てからでもどちらも学べるので、今となっては完全に間違った考え方でしたが、当時は何も分かっていない学生でしたので。
独立と言っても、最初は一人会社でしたが最後まで個人事務所でいるイメージはなく、いずれ組織を構える想定でした。ですから、ビジネスの突破力という意味で言うと、「柳田さんのところの会社ね」といった感じで、個人の顔と名前で出していったほうがいいのですが、なるべく会社の名前で指名してもらうように、私自身はなるべく引っ込んでいました。働き方という意味で言うと、ピンではなく、小さいながらチームでやっていくのもありだと思っています。
猪口 独立された当時のビジネスはどのようなものだったのですか。
柳田 当時はeラーニングのコンテンツだけを受注開発していました。その後、コンテンツを動かすためのLMS(Learning Management System:学習管理システム)をつくりました。教材制作機能もあるのでLMSだけで提供することもありますが、だいたいは独自開発のパッケージ版のコンテンツもあわせて提供しています。
猪口 ここ十数年、eラーニングでLMSを提供するところが爆発的に増えました。日本にはなかなかデファクトスタンダードがないような状況で、コンテンツもいろいろなところがマーケットプレイス的なものを出していてさまざまです。その中で、柳田さんはどのように戦略を絞っていったのでしょうか。
柳田 eラーニング業界でもコンテンツが強い会社、システムが強い会社、サービスが強い会社、営業が強い会社などいろいろあって、我々はコンテンツを強みにしています。
研修終了後、エンドユーザーである受講者の声を教育ご担当者が集めて、上司に報告します。そこを大事にして、教材そのものに力を入れました。ただ、受講者に「良かった」と思っていただけても、思うだけだと伝わらないので、文字にしてもらって、その言葉をレポートに残して、「この施策は良かったのだ」と認識していただくことが大事です。そうすると、振り返りの場に上司の方が来てくれたり、他の領域の教育ご担当者に紹介してもらったりすることもありました。
こんなことを言ったらうちの営業に叱られますが、当社では教材自体も優秀な営業担当だと考えています。
「他に転用できるもの」を開発方針に
猪口 会社として自分たちの商品をつくっていこうと活動し始めたのはいつ頃ですか。
柳田 会社を設立して5〜6年経ってからです。当時、ある会社からハラスメント防止の教材をつくりたいと呼ばれました。パワハラという言葉をつくった岡田康子さんに監修をしていただいたのですが、岡田さんに「これは他の会社でも絶対にニーズがあるから、一般化して一緒に提供していきましょう」と言われたのが大きな転機となりました。それまで受注開発でやってきたのが、パッケージ商品をつくるようにシフトしていったのです。
この「ファーストユーザーを確保してパッケージサービスをつくる」という開発スタイルは今も続いています。最初の受注開発できちんと状況を説明して、お金をいただいてバージョン1をつくり、ファーストユーザーとして使ってもらって、他の会社にも販売します。当然、バージョン1の価格は受注開発するよりも安価に提供していますので、「それで安くなるのであればウェルカムだ」と最初のお客様にも言っていただけています。
猪口 面白いビジネスモデルですね。僕らの仕事では、一回つくったものを他に転用できることはまずないのでユニークですし、手堅いとも言えますね。
柳田 「他に転用できるもの」が開発方針です。転用できないものは、金額はよくても横展開できないので、長い目で見てそういう案件はなるべく受けないようにしています。
猪口 柳田さんは、エデュテインメントという、ゲーム性、エンターテインメント性を持たせる形式に取り組んでいらっしゃいました。
柳田 楽しくないことは続きません。教材の1ページ目を開くまでは運用側の努力ですが、1ページ開いた後に最後までいくかどうか、さらに終わった後にアンケートにどう答えるかも教材の責任が大きいと思っています。そのためには面白みも大切な要素の1つです。
とはいえ本質的には受講者がやりたいと思えること、前向きに取り組めることが大事です。具体的には理論ばかり語るのではなく、ビジネスシーンに置き換えてみる。やってはいけないことは並べやすいですが、それだけだと現場の人が動けなくなってしまうので、「これではなく、こうしましょうよ」という感じで伝える。
そうすると、「もっとこういうことが学びたい」とアンケートに書いてくれることもあります。そういった現場の声を会社側がいったん受け止めて、何らかのリアクションをするところまでデザインしていくと、単に教材開発ではなく研修企画、施策支援という立ち位置に変わってきます。全社員研修は上意下達の部分もありますが、それだけでなくどう現場の声を吸い上げて、また返していくかです。組織内のコミュニケーション的な要素を強めると、コンテンツというより、施策そのものに動きが出てきます。
猪口 法人化して自分たちの差別化ポイントを見つけて20年やってきて、さらに規模が拡大しています。会社をつくった時、この状況は予想できましたか。
柳田 つくった時にはできてないですね。当初は受注開発をせっせとやっていて、この戦いはいつまで続くのだろうかと、手を止めたらお金が止まるという感じでした。
そこから、受注開発ではなくパッケージでスケールするようにするとか、直接コミュニケーションをするサービス提供よりもコンテンツ提供のほうがスケールするだろうとか、この業態からすると30人ぐらいが適正に動けるのではないかとか、いろいろな思考を経て今があると思います。
猪口 経営や組織づくりの勉強をしてというより、継続していく中で自然に戦略転換できた感じですか。
柳田 そう思います。私は社会人になってから大学院に行って、その時のゼミが危機管理でした。そこで聞いたいろいろなことはすごく価値がありました。特に会社は競争に負けるというより、内側から壊れてく、勝手に潰れていくケースが多くあるようです。当社が組織を20年続けてこられたのは基本的にはラッキーだと思っていますが、分不相応なチャレンジをたくさんするなど、ビジネス上の地雷はなるべく踏まないように注意しています。
半歩踏み出すぐらいがちょうどいい
猪口 例えば、今30代で大きな会社で働いている方が悩んでいたとして、一通りの勉強はもちろん必要だとしても、踏み出せば何とかなると思いますか。
柳田 時代が相当変わっていますが、実際に自分のスキルを持ち出すという働き方はありだと思います。自分の市場価値が足りないにしても、何がどれくらい足りないのか知るチャンスは昔よりずっと多くなっています。なので、こっちはどうだろう、あっちはどうだろうという感じで、半歩踏み出すぐらいがちょうどいいのではないでしょうか。ただ、社内失業という言葉があるように、あまり社内で仕事していないとスキルは上がりません。また、YouTube等を見て勉強した気分になっていてもしょうがなくて、やはり事業の中でもみくちゃになって成果を出すことによってスキルは磨かれます。そうして磨いたスキルを持って会社の外でどれくらい戦えるかチャレンジする、だめなら社内でまた頑張る、というのが新しいやり方ではないかと思います。
一概にはいえませんが、大きな会社に入れたことはラッキーだと思うので、そのラッキーは使ったほうがいいと思います。大きな会社には人を育成する仕組みもたくさんあるし、新しいスキルを獲得できる仕事もたくさんあると思います。
ちなみに私が独立したばかりの頃は28歳でしたが、その頃には分不相応な金額をもらっていました。それは、BtoBの取引で会社として見られていたからです。しかし、逆にBtoBでは労働集約型の業務でも年功序列は関係なくて、10年経っても金額が変わりません。
その仕事が好きでずっと続けたい場合はよいのですが、個人としてビジネスとの向き合い方も少しずつ変えていかないとスケールさせるのは難しいと思います。
組織としての共通認識をどうやって醸成していくかが重要
猪口 柳田さんから見て、今後の社内研修やeラーニングはどちらの方向に進むと思いますか、あるいは進むべきでしょうか。
柳田 それに答えるには、ユーザー企業がどちらの方向に進むのがよいか、と考えるのがヒントになるかと思いますが、大きく会社としてやれることと、個人が動かなければならないことがあるかもしれません。
会社としてできるのは、組織としての共通認識を持つことです。モノもサービスもコモディティ化していくなかで、差別化を生むのは組織の価値観や風土の独自性がポイントになると思います。従業員全員が組織の価値観に深く共感してくれたら嬉しいですが、そこまでいかなくても、我々は何者でどこに向かっているのか、何をやって良くて何をやってはいけないのか、ということを組織として共有する。これは非常に大事なことです。その手段の1つとしてコンプライアンスがあったりするわけです。大事なのは、「組織としての共通認識をどうやって醸成していくか」です。
個人としてのスキルはかなり凸凹があるので、それを一斉教育でやるのは非効率なケースが多いです。前提知識のバラツキは教える側にとっても厳しいですし、学ぶ側にとっても、知っていることがたくさん出てくるとか、知らないのにいきなり応用編が出てくることもあるかもしれません。そこは個人が、自分が学ぶべきことを正しく把握して、きちんと学ぶ。職場としては、それが研修かどうかはわかりませんが、知識的な提供もあるでしょうし、経験から学ぶこともたくさんあると思うので、そのような機会を意図してつくることが大事です。
それぞれの事業部や個人によって、必要な教育は異なります。それを会社が無理やり与えたところであまりいいことはありません。会社全体としてやるべきことと現場でやることを分けて考えることが大事だと思います。
猪口 学び方という点ではどうですか。
柳田 学び方は人それぞれです。本を読むのが好きな人もいれば、講演を聞く、ワークショップなどのディスカッションや体験による学びが好きな人もいます。逆に、1つの学び方を最適だと言っている人がいたら疑ったほうがいいかもしれません。
ただ、なるべく学習者のスタイルに寄り添いながらも、会社として合理的にやらなければいけないことはあります。その場合でも、何を目的に、どこまでの成果をめざすのか、教育ご担当者と丁寧に対話をしながら、やるべきことをしっかりやるということだと思います。
猪口 結果についてはどうでしょうか。僕もマーケティングという側面でお客様の支援をしていますが、その先の結果にコミットすることだけはできません。それで当たるかどうか、売上があがるかどうかわからないわけです。
柳田 それは誰にもわかりません。ただ、お手伝いした施策を因数分解した中で、例えば「このキーワードの意味や背景をしっかり理解している人を何%まで上げる」「アンケートでこのような声を上げてもらうようなものにします」というところにはコミットできます。
自分たちが成功したと思っていても、相手が失敗したと思っているのはすごく不幸なことです。何をもってプロジェクトが成功したといえるのか、最初の段階でかなり詰めておくことが重要なことだと思います。
猪口 それがもっとも誠意ある対応だと思います。今日はありがとうございました。
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