【インサイトナウ編集長対談】コミュニケーションは単なるツール。「何のためにやるのか」という目的からスタートする/INSIGHT NOW! 編集部
INSIGHT NOW! / 2022年12月9日 15時0分
INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社
お相手:増沢 隆太様
東北大学特任教授
人事コンサルタント/産業カウンセラー
株式会社RMロンドンパートナーズ 代表取締役社長
猪口 今回はコミュニケーションやキャリアの専門家でいらっしゃる増沢さんに、今のキャリアデザインの課題とアドバイスをお伺いできたらと思っています。
増沢 私は人事コンサルタントを名乗っていますが、そもそも人事の経験がありません。ですから人事制度等の手続的なことは範疇外で、コミュニケーションや採用、組織づくりなどが私の専門領域になります。研修も、コミュニケーションやモチベーションはどの会社でも必ずニーズがあります。そういう意味では、人事での自分の経験を活かすというより、いわゆる人事専門ではない部外者だからこそ言えることがあるというのが私の切り口です。
猪口 とはいえ、人事の経験がないままのチャレンジは、苦労も多かったのではないですか。
増沢 私はどちらかというと裏方の人間で、コンサルタントになる前はマーケティングをやっていて、広告を作る側、プロモーションを作る側でした。独立して、コンサルティングだけでは正直食べていけない、このままいけば確実に倒産するというところまでいき、何でもやらなければならない状況になりました。それから、キャリアコンサルタントの養成という仕事が広がりました。
猪口 どのようにご自身をPRされていったのですか。
増沢 たまたまインサイトナウで記事を募集しているのを知って、応募し、採用していただくことになりました。そうしているうちにマスコミから声がかかり、表に出るようになっていきました。今でも覚えています。最初にスポーツ紙に掲載され、次はテレビに呼ばれて露出するようになりました。今でも媒体露出は私の中ではかなり大事な仕事です。そのきっかけとなったのがインサイトナウで、参加させていただいたことで私の人生は大きく変わりました。インサイトナウから記事が転載されて広がっていくことで、存在感を示すことができます。大変ありがたいことです。
猪口 ありがとうございます。赤字の太字にしておきたいところです(笑)。独立は、マーケティングの仕事をしようと思ってされたのですか。
増沢 最初は純粋に人事コンサルタントとして独立しました。人材紹介とコンサルティングをセットでやったのですが、なかなかコンサルの依頼はなく、ほとんどの売上は人材紹介でした。2年目ぐらいまではこれなら何とかなりそうだと思っていたら、リーマンショックにぶつかり、大ピンチになりました。
猪口 コンサルタントとして独立したり、会社を作ったりして、今大変な苦労をされている方もいらっしゃると思います。常にアンテナを張りながら、どんなことでもやるんだという、まずは自分の気持ちでしょうか。
増沢 けっきょくプラットフォームの問題だと思います。元々マネタイズができる仕組みを持って独立すれば、そこまで厳しくはなりません。私はそれがないまま、後先を考えない無謀なやり方をしてしまったので、けっきょく大変な苦労をしました。
そのような状況で、とにかく何かしなければと始めたのが、大学の先生のアルバイトです。たまたま大学の教員公募のサイトで、東京工業大学がキャリアセンターを新しく作るため教員を募集していることを知りました。藁にもすがる思いで応募して、採用していただくことができました。
採用されてからは、これをやりましょう、あれもやりましょうと提案しているうちにニーズが増えていって、最終的には所属が変わってフルタイムの教員になり、仕事が一気に増えました。今は東北大学に勤めています。収入源は大学教員が主、自社コンサルが従と逆転しましたが、このやり方で現在に至っているので、むしろ法人を閉めずに済んでいるだけ、私としてはラッキーな気がしています。
猪口 キャリアカウンセリングのコンテンツをつくり、維持されてきた所以だと思います。インサイトナウ含め情報発信のノウハウというか、どのようにコンテンツを作っていったのでしょうか。
増沢 書くことをいつか仕事にしたいという思いは、学生の頃から持っていましたが、けっきょくスーパーマーケットに就職することになりました。小さい会社だったので何でもやらせてもらえました。教わることができない分、自分で外に出ていって、シナリオ学校に行ったり、人が作ったものを読んだりと独学で勉強しました。
猪口 中小企業、小規模な会社に入った強みでもありますね。大企業と違って何でも自分でできるので、そこで自分の力がついていく面はすごく大きいですよね。インサイトナウの初回の記事は覚えていますか。
増沢 覚えています。初めて自分が書いたものがネットに乗ったというのが、すごく印象に残っています。私は、面白く読んでもらいたいという思いが強くあります。もちろん自分が訴えたいことがあって、たまに真面目なトーンで書くこともありますが、基本的には面白みがすごく大事で、それがあることによってコンテンツが伝わると考えています。それでプロレスネタをよく使うのですが、そのときもプロレスの話をしたのを覚えています。
猪口 何かを伝えるときはそれなりの演出を考えることが大事で、一辺倒ではだめだということですね。
増沢 やはりタイトルで引っ張らないことにはクリックしてもらえません。だからといって、いわゆるタイトル倒れは一番避けたいところです。クリックして、こんなことわかっているということも、中身が違うということも避けたい。読んでもらえることが大前提で、読んだうえで、「なるほど、こんなことを言う奴もいるのか」と思ってもらいたいわけです。たまに反発を買ったり、プチ炎上したりすることもありますが、それもある程度は予想していて、そこには大炎上しないような仕組みをいくつかつけています。「こいつの言っていることも一理ある」というコメントが1つか2つでもあると嬉しかったりします。
猪口 増沢さんの戦略的コミュニケーションは、その辺りのネット上の話も含めたところに真髄があるということですね。
増沢 私はそう思っています。柱はけっきょく同じです。戦略という言葉がどのような意味かにもよりますが、コミュニケーションは単なるツールであって、それ自体に意味はありません。自分の意志や成果ができるかどうかであって、できないのであればどんなに上手く喋っても意味がないですし、一言も喋らずにできるのであればそれが一番です。
ネットの記事はまさにそういうことです。喋りでも同様で、例えばテレビに出るときも使いやすさを考えています。テレビ局から「すごく切りやすいです」と褒めていただいたこともあります。使われるのが数秒ということもありますが、ポイントによってカットしやすいように考えて喋っています。
猪口 自分のキャリアを作るうえでも、周囲の人や将来のお客様、上司など、いろいろな人とのコミュニケーションが必須です。今おっしゃった戦略的なコミュニケーションという意味で、キャリア形成をするうえでどのようにコミュニケーションを作っていったらいいか、アドバイスはありますか。
増沢 コンサルタントやコンサルティングに関心がある方は、いわゆるスーパープレゼンのようなものに憧れているのだと思います。あれはあれでいいのですが、私が目指すものではありません。大事なのはその目的です。上司と話すとき、クライアントと話すとき、部下と話すとき、当然全部やり方が違うはずです。ただ単にうまい喋りができればいいというわけではなく、環境だったり目的だったり、よく言う「仕込み8割」で、仕込みが一番大切です。表で見えているのは2割以下なので、仕込みをきちんとするべきです。
猪口 仕込みのプロセスや要素についてもう少し具体的に教えていただけますか。
増沢 一番は「何のためにやるのか」ということです。「その結果どうしたいのか」ということに尽きます。
猪口 コミュニケーションの結果どうしたいか、ということですね。
増沢 私は日々学生と面談をしていますが、学生のコミュニケーションの目的は、面接で採用されることです。ところが、面接では良いことを言おうとしてしまう学生がいます。良いことを言って採用されるのであれば戦略は間違っていませんが、良いことを言った人を採用するわけではありません。そうではなくて、その人のバリューを感じさせて、説得して、じゃあ雇おうと思わせられるかどうかであって、それが自分のセールスです。
よくあるのが、「御社を志望した理由は社会貢献につながるからです」というフレーズです。私の面接練習では、「では、社会貢献につながらない会社はどこですか」と聞き返します。要するに、犯罪でなければ、合法なビジネスは全部社会貢献になるはずです。「社会貢献につながるというのは、あなたは何も言っていないのと同じですよ。どのようなビジネスモデルがなぜ社会貢献につながるかをきちんと説明しておかないと、まったく説得力はありません。それがコミュニケーションの目的ですよ」と伝えます。
猪口 最近、東大・京大の学生が選ぶ就職先として、大手コンサルティング会社への志望が高くなっています。悪いことではないですし、仕事の格好良さに憧れているのかもしれませんが、せっかく東大や京大に入ったその頭脳をコンサルティング会社に使うのかと思いました。それについてどうお考えになりますか。
増沢 コンサルティング会社にいくのが悪いわけではありません。「新卒で何のコンサルができるのですか? コンサルのコンサルができるのですか?」という話です。東大や京大といった旧帝大の人たちであれば、最初に大手メーカーに入っておく方が得だと思います。大手だけがいいと言うつもりはありませんが、日本の伝統ある大企業には、あらゆる意味で組織のすべてが揃っています。そこで新卒という環境で育てていただいて、本当はそこにリターンを返したいところですが、良いところを持ってコンサルをやったら、全部の良いとこ取りできるのではないかと学生には話しています。
猪口 僕が会社を作ったとき、「起業されて大変でしょうから、御社をコンサルしたいです」と言ってやって来る新入社員のような方が大勢いました。「事業をやったことがないのに何のコンサルができるの?」と、今おっしゃったのとまったく同じ質問をしました。
増沢 クライアントに経営指導ができると勘違いする学生もいますが、できるわけがありません。「コンサルで企業にアドバイスしたい」「営業はしたくないけど、営業を管理したい」といったことを平気で言う学生がけっこういるんです。私ごときを説得できないのにどうやってお金を取るのでしょうか。そこでまたお金を取るというところに戻ってきます。お金を取るところは最後の山場です。マネタイズできなかったらビジネスではないわけで、経営で大切なのは売上です。売上を上げずにどれだけ経営改善したところで何の意味もありません。面接官の役としてそういった厳しいこと学生に伝えていますが、本音でもあります。そうした現実を理解しているか、コンサルディング会社は必ず見抜きます。
猪口 それは、ある程度キャリアを積んだ人たちでも同じように言えるかもしれませんね。
増沢 そう思います。一方で自信がない子も、特に理系に多くいます。「僕は基礎研究をやっているので、社会には何の役にも立たない存在です」「文学って人生詰んでいますよね」と言う学生がいますが、問題や謎を見つけて、その原因を探る。ソリューションを見出すトレーニングを学部や院でしているなら、専門分野やテーマには関係なく、十分企業社会に通用します。本質的な考察や原因究明ができるのが本当のエリートだと思います。
猪口 論理的な組み立てやそれを説明することも、広い意味での戦略的コミュニケーションの一環ですよね。
増沢 結局そうです。地頭が良いといいますが、薄っぺらいビジネス記事のタイトルだけを覚えてくるような学生ではなく、全然ビジネスに関係ないような、化石の地層を見ていたり、大腸菌の数を数えていたりする人の中に実は原石が埋まっていて、私はそこを企業にアピールしたいと思っています。15年大学教員を続けてきて、わかってくれる企業も随分増えてきました。勉強はしっかりするけれども少しだけ要領が悪い子たちの背中を少しだけ押してあげることが、今私がやっている仕事なのだと思っています。こうした学生との交流は、優秀な新卒学生を採用したいという企業の採用コンサルティングにもきわめて有効ですし、学生と企業の両方の立場を現場で理解できているのが今の自分の強みではないかと感じています。
本日はありがとうございました。
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