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【インサイトナウ編集長対談】マーケティングやクリエイティブでは、社長と対面で喋る技量を磨け/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2022年12月21日 11時0分

【インサイトナウ編集長対談】マーケティングやクリエイティブでは、社長と対面で喋る技量を磨け/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:中村 修治様

有限会社ペーパーカンパニー 代表取締役社長
福岡大学非常勤講師


猪口 中村さんといえば、かつてインサイトナウの看板ビジョナリーでいらしたわけですが、そのエネルギーはどこから出ていたのですか。

中村 インサイトナウに記事をたくさん連載していただいていた頃は、某企業の社長さんを信じてへ投資していた2000万円が半年で溶けてしまって返ってこなかったということがあった頃でした。裏切られたような感じでもやもやしていて、そのはけ口がインサイトナウの投稿だったんです。毎週のように記事を上げて、ランキングの上位を独占できたこともあり、それが嬉しくてもやもやが解消できていました。あの暗い過去がなかったら、あんなに投稿していなかったと思います。インサイトナウに声を掛けてもらったおかげで心が休まり、すべて忘れることができましたし、記事がネットニュース等に取り上げられたおかげで、今はコラムニストとしても仕事ができるようになりました。

インサイトナウでは料金が発生しないのも意味があると思います。自発的に書くしかないという状態で書き続けたのは、すごく力になりました。「give」をしておけば後で「take」があるという経験が得られたことで、今もfacebookで十数年毎日朝に投稿しています。アウトプットの量を上げて質を上げると、インプットの質まで上がります。

猪口 それは何か仕事観の中心のような感じですね。

中村 今顧問をさせてもらっている会社が20社近くあります。会社の社員さんから見たら、顧問というのは何をやっているのかわからない、変なおじさんじゃないですか。それに、社名がペーパーカンパニーですよ。怪しいだけですよ。だから、facebookでちょいと有名になったり、メディアでコラム等を書かせてもらっていると、顧問先の社員さんたちが見てくれて、「こういうおじさんなのか」と認知にしていただいた、皆と仲良くできるキッカケを創出しています。「嫌われない顧問職」ということにおいて、アウトプットはすごく大事ですよ。

公私混同しろ

猪口 中村さんは若いころに独立されていますが、独立するという働き方は若い方々に勧めたいと思いますか。

中村 クリエイティブやマーケティングを追い求めたら、独立せざるを得ないような気がします。ただし、40代50代になってから独立するのは厳しいですよ。なぜなら、その歳まで企業の看板を背負っていて個人名でやっていないからです。マーケティングやクリエイティブで生きていくなら、お金の責任や覚悟の問題も含めて、早いうちに独立すべきです。20代、30代であれば転身のしようがありますが、50代だときついし、職を変えにくくなります。

ただし、東京と福岡でこれには大きな違いがあると思います。広告やマーケティングの2,000〜3,000万円のプロジェクトでプレゼンに行くと、東京だと担当者レベルかせいぜい部長、執行役員クラスまででしょう。一方、福岡は中小企業が多く、直接社長が話を聞きたいと言って出てくるので、社長と直接話すことになります。

会社を経営していて思うのは、そのとき、会社から来ている人と個人で会社をやっている人では背負っているものが違うため、印象も全然違うということです。代理店という企業を背負っているのか、個人で全てを背負って喋っているのか、優秀な社長が見たら、その覚悟の違いはわかります。そういう意味で言うと、早めに独立して社長と対面で喋れる、経営者と雑談できるような大人にならなかったら、30年、40年食えないですよね。

猪口 それは仕事と人生で共通した話ですね。

中村 公私混同していかなかったら食えないと思いますよ。「公」のノウハウだけではおそらく飯は食えません。会社の社長は公私混同しているので、こっちも公私混同でつけ入るような人間力を持たなかったら、永くはお付き合いできません。BtoBの基本として、特にマーケティングやクリエイティブでは、社長と対面で喋り、互いを磨ける技量がないと無理だと思います。

猪口 それは定年後の人生にも大きく影響しそうですね。看板だけだとしたら、それを取った人間は何もないですよね。

中村 早目に苦労しろとは言いませんが、早めにいろいろな経験を積んでおくと、40代50代になってトレンドが変わってきます。20代30代のうちにそういった経験をどれだけしておくかが大事で、会社に守られていたらそれができません。

猪口 東京で僕が感じるのは、本当は社長に直で行きたいのだけど、ビジネスの仕組みが複雑に絡みすぎて、そこを縫っていかないと到達しません。

中村 私も東京でも仕事しましたけど、溺れてしまって、自分が何をやっているのかわかりませんでした。有名なブランドの仕事をさせてもらいましたが、取締役にすら会えなかったですね。担当レベルで挟まれながら苦労しても、結局自分にどういう成果があったのかわかりませんでした。

40歳を過ぎてからは、プレゼンの仕事は社長に会えなければ受けないというスタンスを取れるようになりました。そうすると話が早く、仕事になる率も高くなります。そこの違いは本当に大きいですね。

地方にいると、「近くにいる」ということが一番のメリットになります。「今酒飲んでんだけど、ちょっと来ない?」と呼ばれて行く。それで会って喋る。東京は別だと思いますが、地方で専門職で生きるためには、この物理的時間と物理的距離が一番のメリットです。偉そうなことを言うのではなくて、親身になって相談に乗るだけです。その時に会社の看板を背負っているのではなく、個人名でちゃんと相談に乗るということを続けていたら、今や顧問先が20社近くになりました。

猪口 素晴らしいですね。先ほど、自分の力をつけていくためにアウトプットを常に出し続けることが大事だ、というお話をしていただきました。例えば、社長と喋る力、世渡りの仕方など、自分の力はどのように磨いていけばいいでしょうか。

中村 facebookに毎朝投稿していると、「よくネタが尽きないですね」と言われますが、これは、世の中全部をネタだと思って見ているということなのだと思います。「すべてのものがネタになる」と思って生きているような気がします。私はプランナーであって、自分をコンサルタントだとは思っていません。問題解決しようだなんてさらさら思っていないし、楽しければいいだけです。クライアントのところに行くのも、問題を解決するために呼ばれているわけではなく、「面白い話をしようぜ」「良いところを伸ばしたらこんな未来あるんじゃない?」「こんなことをやったら面白くない?」みたいな話をしに行くことしか考えていません。

猪口 思いっきり昭和じゃないですか(笑) ホイチョイさんの作品の影響で、僕も広告業界は楽しいところだと思っていました。僕の印象としても、今の30代40代は、50代もそうですが、コンサル志向な気がします。

中村 なんでそんなに賢そうな格好をするんでしょうか。マーケティングの世界に限っても、ワタシを上位互換できる賢い人なんて山ほどおられます。でも、賢い人が成功するなら、賢い人はみんな成功していますよ。賢い人は大勢いるので、ちょっとバカなふりをしていたほうがよっぽど稼げるじゃん!と思うんですよ。

猪口 今日の真髄ですね。

検索に引っかからないことを喋る

中村 AIが世の中に出てきたら、AIのほうが賢いわけで、それにどうやって勝ちますか。いかにバカでいられるか、いかに愛嬌があるか、そういったことしか勝負にしかならないはずです。世の中の情報は全部繋がっているので、インプットではスーパーコンピューターには絶対に勝てません。だから、検索できることを喋っていてもしょうがないわけで、検索に引っかからないことを喋らないと意味がないと、常に思っています。コンサルタントはネット上にある情報や誰かが書いた本を勉強しているから、企画書が書けて、提案ができるのでしょう。でも、「そんなの面白いか?」と思うわけですよ。「そんなのちょっと賢かったらできるじゃん」と。それよりもっと面白いことをやろうと思って、やり続けて、それを受け入れてもらっているのだと思います。50歳を過ぎた頃からは、コンサルタントではなく、プランナーでもなく、福の神でいようと思っています(笑)

猪口 福の神ですか(笑)

中村 クライアントにとっての福の神になって、「この人を外すと成長が止まるかもしれない。ハッピーな空気がなくなるかもしれない」と思わせるためにはどうしたらいいか、そのために、ずっと愛嬌を磨き続けています。

猪口 アウトプットを出す時の現場感覚のようなものはありますか。今の人たちは基本PCに向かっているのが仕事のイメージだと思います。20年ぐらい前に僕が事業会社にいた時には、「エクセルに仕事はないから」という話をよくしました。すべてが現場で起きているといった感覚があったわけですが、その辺はいかがですか。

中村 先ほどの「すべてのことがネタになる」というのは、映画を見ても、CMを見ても、看板を見ても、世の中で行われているすべてのことを見て、「企画書に書いたらどうなるんだろう」という見方をします。「どのような提案書で動き出したか」という見方が癖になっているんですね。本を読むより現場に行って、「ここをこうしたほうがいいね」「俺ならこうするね」ということを常に思考します。

猪口 自分ならこうする、と企画書をイメージするのは楽しいですね。

中村 企画書を提案するのにどういうワードでそのコンセプトを出したかぐらいの漠然としたものですけどね。すべてのものを見る時にそういう風に見るのは、トレーニングになりますし、役に立っています。

説得力は人柄と言葉が一体化されたもの

猪口 中村さんの企画書は楽しそうです。

中村 私の企画書の書き方は特殊ですよ。私は、1枚目に詩が書かれているような企画書を持って行って、「いいね〜」と言われるのが一番いいんじゃないかと思っているんです。賢い人は大勢いるので、理屈は調べたらたくさん出てきますから。猪口さんもわかると思いますが、1990年前後のネットがない頃は企画書が手書きでした。図書館に資料を探しに行って、資料をコピーして持って帰ってくるだけでお金になっていました。

結局一番重要なページは、前後ではなくど真ん中に何が書いてあるかだけです。なので、企画書を書く時は画像検索をします。オチの一番中心になるページにどんな絵を貼るか、真剣に考えるんです。画像検索して一番気に入った絵をはめて、そこに言葉や図を入れていきます。どちらかというと、絵から入るようにしたほうが、自分らしいプレゼンができるし、仕事になる率が高いことが、40代後半ぐらいから分かってきました。

猪口 それは皆さん違っていて、自分にとって効率的な、マックスなアウトプットが出せる方法をそれぞれ探すということですね。

中村 そう思います。説得力は人柄と言葉が一体化されたものです。フォーマットやテンプレートは人から聞いて学べるかもしれませんが、本質的なところは自分を見つめ直さないと作れません。そういう意味では、成功事例を自分の中で獲得しないとできないと思います。なので、フレームの話はできるし、プレゼンや企画書の肝の話はできますが、最終的にそこを落とせるかどうかは、その人の人柄次第です。その人がどう生きてきたか、本当にここにあるかないかといった差になっていきます。直接社長にいけしゃあしゃあとそれを出せるかどうか、勇気があるかないかの違いです。格好いいものを出さなきゃいけないとか、ちゃんとしたものを出さなきゃいけないと、皆躊躇するんです。でも、そんなものは出したらいいんですよ。

猪口 失うものはありませんからね。

中村 個人名でやっているので、0か100か、合うか合わないかです。還暦になってわかったのは、結局仲の良い社長としか続かないということです。成長を続けている仲の良い社長が20人いたら、私の場合はそれで食えるわけです。そのために今まで何百人、何千人の社長の前で喋ってきました。合理的な会社はAIやコンサルタントを導入します。または、「人間的に面白いか面白くないか」「この人と付き合っているとちょっと先が見える」ということを大切にする会社もあります。そのどちらを向いているかだけの話です。

働くということ、特にクリエイティブやマーケティングのプロとして生きていくということは、最終的にはお金と時間をいかに自由にするかです。それがフリーでない限り良いインプットはないと思います。嫌なことに縛られちゃいけない。だから何でも言えます。

猪口 とはいえ、一人でやっていたり、会社を作るとものすごく手間暇がかかります。

中村 手前味噌だけど、よくやってきたなと思います。私はキナックスホールディテングスとペーパーカンパニーという会社の代表をしていましたが、還暦になった8月末に全部を精算しました。

全部きれいにしました。キナックスという会社を譲り、株も譲渡して、切り離して、私は天涯孤独の企画マンになったんです。今は妖精みたいな状態で、3センチぐらい浮かんでいるイメージですよ(笑) めちゃくちゃ楽になりました。

あと何年生きるかわかりませんが、あとは自分で楽しむしかありません。今日はお話できて良かったです。派手にしようと思えばいくらでも派手になりますが、ブランディングは格好良くすればいいというものではありません。「やっていることと、言っていることを一致させること。」それが何よりのブランディングだと腹に落ちています。

猪口 以前来ていただいた竹林さんもおっしゃっていましたが、極端な話、BtoBのウェブサイトは受注できればアクセス1でもいいわけで、そのようなコミュニケーションが本来の姿です。本当のファン同士が見て、何かアクションが起きればいいなと思っています。

今日は楽しいお話しありがとうございました。


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