相次ぐ賃上げ表明は、いよいよジョブ型賃金時代の到来か/INSIGHT NOW! 編集部
INSIGHT NOW! / 2023年2月28日 9時0分
INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社
大企業を中心に賃金アップの表明が相次いでいる。もはや給与アップができることが一流企業の証であるかのような雰囲気ですらある。
当然これは働き手にとっては大歓迎の話だ。これだけ物価や光熱費が上がるなか、賃金を大幅に上げてくれるというのだからありがたい話だ。
しかし、本当にビジネスパーソンにとってありがたい話なのだろうか。
岸田首相は施政方針演説で「人材の獲得競争が激化する中、従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務です。本年6月までに、日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルをお示しします」と述べた。
時の総理大臣自ら、給与の支払い方まで言及したのには驚いたが、要はいち早く「職務給」つまりジョブ型賃金に移行しろという話だ。
多くの大企業がこのコメントを踏襲しており、たとえば、ジャパネットホールディングスは、「グループ横断の改革・戦略・企画を先導する新たな職種の新設と、既存の職種については役割や責任などを明確にした人事制度へと再編をいたします。また従来の年齢給を廃止し、職種によって基本給の差を設ける職能給とすることで、従業員の技能・知識や業務成果を報酬へと反映できる仕組みへと刷新。この職能給の総額を引き上げ、加えて大卒新卒採用の初任給を約2万円引き上げます。」と発表している。
これは、ジャパネットだけのことではなく、いま賃上げを謳う大半の企業の代弁だろう。
この「役割や責任などを明確にした人事制度」「職種によって基本給の差を設ける職能給」が、まさに「ジョブ型賃金」というものだ。
これまで、年功序列からジョブ型への移行という声があったにもかかわらず、なかなか進まなかったのだが、ここへきての給与アップの流れは、「ここはチャンス」とばかりに、一気に「ジョブ型賃金」へと移行するチャンスなのだろう。
ジョブ型賃金とは、たまに誤解されていることではあるが、成果主義とはまた異なるものだ。
成果主義とは年功序列と違って成果によって評価し、それで給与を決めていくというものだから、現在の企業の大半で行われていることだ。
そしてジョブ型だが、ジョブディスクリプション(職務記述書)という仕事の内容を記したものをもとに、仕事や責任の範囲を決めたうえで、職務等級や報酬額を決めるというやり方だ。欧米企業に勤務したことがある人なら普通にあるもので、もちろん年齢や家族構成は関係ない。
採用のロジックでいえば、たとえば「営業部長」が退職し、誰かを据えようとするとき、日本企業であれば何人かの営業課長から昇格させるというのが通常だが、外資系企業でふつうにあることは、その営業部長のポジションには外から採用し持ってくる。要はそのポジション、役職に賃金をつけ採用するのがジョブ型ということだ。これはスタッフレベルでも同じことで、その採用権限はそのチームのリーダーにあることが多い。
つまりその人の行っているジョブに対して給与を決めるということになる。経験や学習によって、人は成長するものだが、一度自分の職務が決まってしまうと、なかなかそこから脱するのは難しい。それもそうで、1年や2年の月日でビジネススキルが急に伸び、成果が大きく変わるというのは考えにくい。
なので、そういう意味では査定もあまりない。ジョブ型の導入をがんばれば昇給できる制度と考えている人にとっては厳しい現実かもしれない。
また、現実問題として、組織の多くは8:2の法則あるいは9:1の法則が成り立っており、少数の人が大部分の利益を上げていることが多く、本当に、職務に応じてのみ給与を決めるとなると、年収5000万もいれば、200万もいることになってしまう。それをうまく緩和してきたのがこれまでの日本型の給与だったわけだが、社員は本当にジョブ型賃金を受け入れるのだろうか。
もちろん、全員のベースアップを行い、賃金を底上げするという素晴らしい企業もあるが、ここでも残念なことにいろいろな手当の見直しがセットでついてくる企業も少なくない。
整理すると、定期昇給とは年齢を積むごとに、全員なんらかの昇格があり、給与もそれに伴い上がっていく。ただし、人事上の昇格とポジションは別物で、上に行けばいくほどポジションは減るのだから、そこはその人が出してきた結果やの能力によって差がつく。人事上の昇格を給与のベースにしている企業は少なくなく、ポジションは違っても同じ社歴であれば給与はあまり違わないという会社は今でもけっこうある。
それでは不公平だということで、その差に応じて給与も反映させるのが成果主義ということだろう。営業職などであるインセンティブはここでは除くが、成果を出せば、給与もポジションも上がる制度ということになるだろう。
今回の「賃上げ表明」は中小企業においても多数の企業が行っている。中小企業では、人件費として最初から準備できている企業はあまりないというのが実態だろう。実際には、収支は厳しくなっている企業のほうが多く、それでも追随せざるを得ない状況は、非常に厳しい現実だ。給与体系の本格的な見直しを余技なくされれば、平均では上がっても中央値は下がるといったことも十分にあり得る。
そもそも、ジョブ型の導入の本当の狙いが、一部のトップクラスの人材確保にあるとすれば、一般的、平均的なビジネスパーソンの給与は上がるどころか下がることも考えられ、全体の活性化につながるのかどうか、経営陣の手腕が問われている。
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