【インサイトナウ編集長対談】社内外とコミュニケーションを取ることが、結果的にイノベーションにつながる/INSIGHT NOW! 編集部
INSIGHT NOW! / 2023年4月19日 9時0分
INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社
お相手
三宅 信一郎様
株式会社BFCコンサルティング 代表取締役
Business Future Creation「ビジネスの未来図を創造する」
猪口 「BFCコンサルティング」を起業されてから15年、新規事業支援を主な業務に活躍されていますが、新規事業のノウハウは商社時代に培われたのでしょうか。
三宅 BFCコンサルティングは、新規事業系のコンサルティング、セミナーを行う会社として立ち上げました。社名のBFCはBusiness Future Creationの略で、読んで字のごとく「ビジネスの未来図を創造する」ことが理念です。
商社にいた頃は営業で走り回っていましたが、徐々に新規事業のような投資をする事業体に変わっていきました。1993年、マンデラ大統領就任期間中の激動の頃、南アフリカに駐在を命じられて5年間いたのですが、その時、ただ戻ってくるのではなく、現地で新しい事業を起こすように言われたんです。それでいろいろな試行錯誤をして、新規事業に目覚めました。2000年には商社を辞めて、その後ヒューレットパッカード(以下HP)に入り、そこでまた本格的に新規事業を任されました。マーケティング部隊に入って、RFIDという新しい技術を使ってソリューションを開発し、新事業として立ち上げたことを通して、体系的な新規事業のノウハウを学びました。RFIDというICタグは自動認識という技術なのですが、それと新規事業を組み合わせながら事業を行っています。
猪口 三宅さんは事業力強化・新規事業開発・創業支援コンサルタントをされているということですが、具体的にどのような手法で行われているのでしょうか。
三宅 最近は、岐阜県大垣市にある公益財団法人からセミナーの受託を受けて、新規事業についてのワークショップをメインに動いていました。大垣は製造業が多いので、新規事業のニーズも多いようです。受講者は40代前後の方が22名。ほとんどが中小企業の方で、それぞれ会社から「DXを使って新規事業を起こす」ことを命題として背負って参加してきています。全6回で、アイデアを出すところから新規事業計画を作るところまで通して学んでいただき、結果、大変高評価をいただいて終わりました。
猪口 実際の新規事業のプランニングのプロセスをすべて辿っていくわけですね。
三宅 これは僕も初めてのことでした。アイデア出しだけ、事業計画だけであればやったことがありますが、一気通貫で6回、1回を丸1日使って、体系立ててやるのはなかなか難しかったです。
1回目は「DXとは何か」というところから始めました。以前インサイトナウにも「今、巷ではやりのDXとかIoT。これって何なのか、ここではっきり整理してみませんか?」(https://www.insightnow.jp/article/11358)という記事を投稿させていただきましたが、DXというのは一つの概念であって、DXありきで事業を始めるという発想はおかしいはずです。新しい事業を始めた結果、デジタルトランスフォーメーションのように企業が変わっていく、という流れでなければなりません。「DX」「IoT」という言葉だけが先走り、それありきで話をしていてもうまくいくはずがないので、そこを最初にぶち破ります。DXは企業のビジネスモデルそのものを根底から変えるもので、製造業がサービス業にいくような話です。その下にIoTという概念があり、さらにその下にAI、ビッグデータ、RFIDといったテクノロジー群がある。まずは階層を分けて、いったん技術は置いておきます。
また、新しいものを発明するのもイノベーションですが、経済活動の中で資源、労働力、生産手段などを、今までとは違う新しいやり方でくっつけることで新しい価値が生まれ、新しい市場、ニーズが生まれる。その辺を皆で議論しながらアイデアを出し、そのアイデアが競争戦略に応じたものになっているかを考えます。
猪口 事業プランを考えたり、ディスカッションしたりするとき、元になるリソースや技術は自分の会社のものを想定するのでしょうか。アイデアは出てくるものですか。
三宅 企業秘密もあるので、当たり障りのない世の中の事象にすることもあります。要は、新しいアイデアの創出方法だけをまず学んでもらって、次にケーススタディを用意して、ワークショップを進めます。技術はあるが伸び悩んでいる中小企業が新規事業を考えるというモデルケースを作って、この会社が何をしたらいいか考えてもらいます。一つのグループに、設計の技術者、営業、品質保証、研究員、マーケッター、経営企画などいろいろな人がいて、最後には面白いアイデアがどんどん出てきました。
イノベーションはコミュニケーションから生まれる
猪口 同じ会社にいても、違う部門の人と話したり、何か真剣にディスカッションすることってあまりないですよね。
三宅 そうなんです。私が30、40代の若手に対して言いたいことは、「社外の人たちとコミュニケーションをしっかり取ることと、社内であってもいろいろな部署の人と連携してコミュニケーションを取ることで、結果、イノベーションにつながる」ということです。1人で悩んでいないで、社内外に友だちを作り、その友だちが自分のビジネスにどう生きるか意識せずにお付き合いしていれば、自然にどこかで接点があって、新しいビジネスがポンと生まれます。この研修を通して改めて思いました。
研修の最後に1人ずつ感想を言ってもらったのですが、私の講義そのものよりも、グループごとのディスカッションの時間を多く取ったことで、いろいろな人の考え方、発想、着眼点の違いをまざまざと感じたという意見が多かったですね。それこそがイノベーションの原点だと思います。
猪口 ある大学の先生が言っていましたが、日本人はどうしてもアントレプレナーシップが足りないそうです。アントレプレナーシップの定義として、「チャンスがあるかもしれないと思った時、今は自分のリソースにはないのだけど、何とかしてそれを持ってきてそれに挑む」ものだとおっしゃっていました。そのような観点から見たら、メンバーの方々のアントレプレナーシップはいかがでしたか。
三宅 私がもっとも強調したのは、「皆中小企業なのでコアは持っていても、新しいことをやる時に1社ではできない」ということです。オープンイノベーションという言い方がありますが、コアだけはしっかりと持ったうえで、足りないところは社内外関係なく持ってくることが必要です。
研修が終わった後、会社に戻るとステージは違っても皆が新規事業という実務にぶち当たりますが、いろいろなところから人、モノ、ノウハウなどのリソースをかき集めてきてやっていくということは、しっかり学んで帰ったと思います。
猪口 三宅さんのもう一つの事業、RFIDに関することと、新規事業、イノベーションというテーマで共通する点はどのあたりですか。
三宅 RFIDの仕組みは、ICタグの中にあるICチップにアンテナを使って電波を送って、データを読み取って、それをサーバーで商品と紐づけて、滞留在庫がどこにあるかといったデータを取ってきます。このような技術を入れると最終的には業務の大革新が起こる大きな可能性があるのですが、結局1社でできることではありません。やはりいろいろなベンダーさんと絡まないとできない。ICタグ一つとっても、複数のタグベンダーがいるし、ITベンダーもいるし、読み取り装置のハードのベンダーもいる。それらを全部束ねて初めてイノベーションができるわけです。こうした技術を入れて業務効率を格段に高めようとすると、いろいろな社外のベンダーと付き合う必要があります。
社内でも、販売企画という商品自体をデザインする企画部隊、生産を握っている部隊、倉庫を管理している部隊、製品や素材を調達・輸入している部隊、全部バラバラでやっていたのが、RFIDを入れるとなると、横串で連携をしないと効果が出ないので、皆だんだんとコミュニケーションを取るようになります。その中でリーダーシップを取るのはコミュニケーションがうまい人です。いろいろな部署に気軽に顔を出して、「あの部隊はこういうこと考えている」「この部隊はまだまだ認知が遅い」と、細かく調整して全体最適化できる人はすごく重宝されます。「イノベーション」をしっかりと成し遂げるためには、今まで付き合いがなかった人たちともしっかりとコミュニケーションを取る「コミュニケーション力」がすごく大事です。
猪口 今言われているコミュニケーション力とは、いわゆるプレゼンテーション能力とはまた違いますよね。
三宅 違いますね。新規事業でよく受ける相談なのですが、コア技術を握っている70歳ぐらいの職人さんとのコミュニケーションが一番難しいそうです。本当は職人も世の中に商品を出して、お客さんに喜んでもらいたいと思っているはずです。ですからやるべきは、新規事業開発室という名前を捨てて、営業と一緒に客先をどんどん回ること。職人さんからは本当のコアは何かだけは聞いて、それを持って客先を回って、そこの接点を作ることに徹することです。そうすれば職人さんも、そこまで回ってニーズを引っ張ってきたのであれば話を聞こうかと、教える気になってくれるかもしれません。これもやはりコミュニケーションです。こうした地道なことをしっかりやって初めて新しいイノベーションが起こって、DXにも繋がっていきます。結局やることは昔と変わらないような気もしますね。
RFIDのような新しいテクノロジーの見かけは格好いいものですが、最後の効果を得るためには、やはり人間系がしっかりしてないといけません。組織内のクロス横断的な連携を誰が取るかというところがしっかりしてないと、テクノロジーは動かないのです。
猪口 RFIDの技術によって効果が具体的に見えますし、本当にすごいと思いますが、経営陣としては、さらにその上、つまり物流の改革、改善だけでなく、いわゆるサプライチェーン全体の問題にも目を向けて事業自体の革新へと進めなければなりませんよね。
三宅 その通りです。私が顧問をしているRFIDを導入したビーズクッション製造販売の企業の店舗にふらっと入った時、店員さんにRFIDはどうかと聞くと、「最高です!」と言っていました。「棚卸がとにかく楽で正確だ」と。僕が入れたと言ったら、「えー?!ありがとうございます!」と久しぶりに人から頭を下げられました(笑)。ただし棚卸の効率化はRFIDの一部の機能です。店員さんにとってはそれで十分でも、経営者からしたらそれだけでは投資効果が出ません。在庫が圧縮され、販売機会損失が目に見えて減り、適正な店舗に適正に物が送れて、そこで初めてRFIDの莫大な効果が出ます。そこに至るまでにはまだまだ時間がかかりそうです。
仲間とともに好きなことをやる。独立した働き方の醍醐味
猪口 三宅さんは総合商社、大企業を経て独立されたということで、大手企業とフリーの両方をご経験されていますが、働き方の違いはありましたか。
三宅 どちらも経験した立場からすると、それぞれ良いところと悪いところが当然あります。独立して初めて、大手の看板の強さをつくづく感じました。大手の看板を存分に活かして、個人ではできないようなスケールが大きいことをしたいのであれば大手です。ただし、それが自分のやりたいことかどうかは別です。僕の場合は、たまたま自分のやりたかったことが大手の中で実現できたわけですが、辞めたきっかけは、自分がやってきたことが会社の都合で突然終わってしまったからです。会社の論理でストップするので、自分の好きなことができません。辞めた結果、やはり今はスケールメリットをなかなか享受できていません。売り上げを拡大したかったわけではないので、構わないのですが、やはり大手のブランド力と資本力はうらやましいですね。
一方、独立してからは好きなことをやれています。新規事業とRFIDだけ、自分が好きなことだけやっていればいいので、その面白みは大手にいるときにとは全然違います。
猪口 達成感も違うでしょうね。
三宅 社内の別の部隊が助けてくれることはないので、その辛さはありますが、それよりも何よりも好きなことができます。それに、たった1人というわけではありません。実質的には自分1人の株式会社ですが、自分ができないところを補ってくれる仲間がいます。コンサル仲間もたくさんいますし、IT専門家の仲間もいます。会計士もいれば、工場生産系に強い仲間、松井拓己さんのようなサービスに強い仲間もいます。実は松井さんには、先ほどのお話しした岐阜県大垣市のワークショップも教材のコンテンツ作成で協力をいただきました。そういった仲間と補い合いながら、新しいことにどんどんチャレンジしています。
猪口 独自の強みを発揮しながら、仲間と仕事をしていく。素晴らしい働き方だと思います。今日はありがとうございました。
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