サービスモデルマーケティングで事業の可能性を拓く/松井 拓己
INSIGHT NOW! / 2023年5月5日 1時0分
松井 拓己 / 松井サービスコンサルティング
ビジネスモデルや事業戦略で世間から注目される企業も、継続的な事業成長のためには「サービスモデル」の構築と変革に行き着いています。ビジネスモデルはマネされやすいと苦悩している企業が少なくありません。同じようにサービスのメニューや機能も、開発した先からマネされてしまいます。同業他社をベンチマークして差を埋めていく取り組みが進めば進むほどに、サービスは同質化していきます。待っているのはじり貧の価格競争です。
一方で、いま元気の良い企業やイノベーションを実現している企業は、顧客との価値共創のしくみ、つまり「サービスモデル」が優れているという見方が注目されています。サービスモデルの組み立ての上手さで、顧客から圧倒的に選ばれて事業を成長させていこうと、改革に乗り出す企業が増えているのです。
ただし、いきなり自社の中からサービスモデルのアイデアや進化の糸口を生み出そうと思っても、どこから手を付けたら良いか分からず困ってしまいます。そこで、サービスモデルが優れている他社の事例を分析して学びやヒントを得る活動に乗り出す企業が増えてきました。これを「サービスモデルマーケティング」と名付けています。
事例をサービスモデルでひも解くサービスモデルマーケティング
サービスモデルとは何かについては、大まかに次のような構成要素があります。①共創する価値とは何か?②どのように価値を共創しているのか?③どうやってサービスを進化させているのか?④どのように経営が関わることで価値共創を持続可能にしているのか?この中で③と④は、分析対象のサービス事業者に訪問してヒアリングしないと分からないことが多い。そこでサービスモデルマーケティングの手始めは、サービスの価値を決定付ける①と②の部分にフォーカスすると良いでしょう。それはつまり、①共創する価値、つまり「事前期待の的」の設計と、②価値共創のしくみ、つまり「共創型サービスプロセス」の設計の2点をひも解くことです。
たとえば①で、そのサービスが応えようとしている「事前期待の的」を見出すことで、そのサービスにはどのような価値があり、なぜそのサービスが顧客や市場から圧倒的に選ばれているのかを明らかにすることができます。事前期待と一言で言っても様々です。すべての顧客に共通する事前期待もあれば、顧客ごとにことなる個別的な事前期待もあります。また、同じ顧客であっても状況で変化する事前期待もありますし、思ってもみないサービスを受けて感激したという経験の基になるような潜在的な事前期待もあります。どのような事前期待を的に定めるかによって、サービスの価値はガラリと変わります。分析対象のサービスが、顧客や市場から選ばれている理由は、どのような事前期待に応えているからなのでしょうか。他社では応えられない事前期待に応えているのかもしれません。顧客が諦めている事前期待に応えるような新たなサービスを生み出しているのかもしれません。優れたサービスの事例の価値を象徴する事前期待の的をひも解くことで、自社のサービスモデルの価値を高めたり、革新するためのヒントが得られるはずです。
そのうえで②では、その事前期待にどのようなサービスプロセスで応えているのか。顧客との価値共創がどのようなプロセスを経て実現しているのかの分析へと進んでいくのです。
まずは日本サービス大賞の受賞事例に注目
「業界が違うと、その事例から何を学んだらよいか分からない。」とか、「異業種はうちの業界と事情が違うので、参考にならない。」という声をよく耳にします。しかし実際、様々な業種・業界のサービスモデルの分析や、サービスモデルの構築・変革に取り組んでみると、その違いはあまり気になりません。BtoBサービスとBtoCサービスの違いも、サービスの本質を捉えれば、乗り越えることが十分にできます。実は日本には、まだ知られていない優れたサービスモデルがたくさんあります。ビジネスモデルの観点では学びが見出しにくかった事例も、サービスモデルの観点で捉え直してみると学べるところが多く見つかるものです。サービスは実にすそ野の広い領域だからこそ、あえて他業界の優れたサービスの事例に注目することが大切です。
そうはいっても、サービスモデルが優れた事例をどうやって調べたらよいか分からない。そんな時は、まず手始めに、日本最高峰のサービス表彰制度である「日本サービス大賞」の受賞事例から、気になるサービスに注目してみると良いでしょう。2年に1回の開催で第4回目までの受賞サービスの事例集がホームページに掲載されています。そこには111件もの日本のサービスイノベーションの最前線の事例が詳しく載っています。是非サービスモデルの観点で、大いに学びを得てみてください。
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