中小企業庁が「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」を公表 まだ復活途上だが、悪環境が続く中、成長の足掛かりをつかめるか/INSIGHT NOW! 編集部
INSIGHT NOW! / 2023年5月2日 8時40分
INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社
中小企業庁は4月28日、2023年版中小企業白書(令和4年度中小企業の動向および令和5年度中小企業施策)と小規模企業白書(令和4年度小規模企業の動向および令和5年度小規模企業施策)を公表した。
今回の白書(中小企業白書)では、経営者に視点をあてた分析・提言を行ったり、小規模企業白書では、地域の持続的発展を担う重要性を提起したり、これまでよりも一歩踏み込んだ内容となっている。
まず、2期連続の最高益となった上場企業に対して、中小企業の売上高においては、依然厳しい状況にある。コロナ前の2020年度前半の水準にようやく戻ったという状況に過ぎず、業種によってはまだまだ厳しい。さらに、コロナ関連での融資を受けた企業は今後、返済も本格化していくことになるため、今後さら資金面では厳しくなることも予想される。
また、2022年の物価高は、中小企業の収益悪化に大きな影響を与えており、東京商工リサーチ「中小企業が直面する経営課題に関するアンケート調査」(2022年12月)によれば、約65%の企業が「マイナス」に影響したと答えている。
価格転嫁は進んでいるとの見方もあるが、原材料費の高騰による価格転嫁は顧客にも提示しやすいが、人件費や労務に関する価格転嫁は実現しにくいのが現状ではないか。「社員の給与を上げるので価格を上げたい」と言って実現する中小企業がどれほどあるだろうか。
実際、賃上げブームに沸く大手企業と異なり、中小企業で賃上げを実施する企業は約半数でしかない(2020年においても約4割の中小企業は賃上げを実施しているため、増加しているのは14%程度)。
あらゆる業種、大手、中小を問わず言われているのが「人不足」であり、大企業の賃上げ戦略は人材確保のためにほかならない。
だが、中小企業の場合、採用力にも限界があり、各社DX化による業務の効率化、従業員の能力開発による生産性向上や差別化のための戦略の練り直しに迫られている。その結果として賃上げを実施していくしかないだろう。
なんといっても、企業の浮沈のカギを握るのは人材だ。白書内でも、「価値創出のための戦略と連動した人材戦略による必要な人材像の明確化」が必要であるとしており、提供する商品・サービスのバリューアップのうえ、適正な取引価格に転嫁し、なんとか賃上げを実現することで、人材と価値創造のサイクルを実現してほしいものだ。
今回の白書では、経営者の役割や責任にも言及している。たとえば、「経営者仲間との積極的な交流を通じて、企業の成長意欲を喚起していくこと」「経営戦略として、エクイティ・ファイナンスの活用」などを提唱し、「こうした活動を行っている企業は、成長意欲の向上につながり、業績を向上させている」としている。
エクイティ・ファイナンスは、中小企業にとって、ガバナンスやコンプライアンス、戦略性などにおいて簡単に取り組めるものではないが、社会的な参画、ステイタスの向上のためにも有効と思われる。ただし、このあたり国の支援も含めたベースづくりが必要となりそうだ。
そして、経営者に対しては、「業務効率化、イノベーションにつながるDX化の推進(そのためのデジタル人材の確保・育成)」「GX、SDGs、カーボンニュートラル」といった流行に乗り遅れることなく」といったいつものお題目が並ぶ。これらの施策を実施しなければ、これからは生き残れないと言わんばかりの論調だ。しかし、こうした大手を追随するようなことを本当にやるべきなのか、そこには大きな疑問が残る。
もちろん、ニーズを機敏に感じ、大手に勝るスピード感と臨機応変さでいち早く取り入れ、大手を含めた業界をリードする立場の中小企業も存在し、異彩を放ち続けている。
しかし、「御社で遅れているのはDXですよ」と言われ、製造にマーケティングに、サプライチェーンまで、必要もないICTを導入し、負担になっている企業は枚挙にいとまがない。
さらに、多くの中小企業・小規模企業は、大手の下請けとして成り立っているゆえに、大手の戦略や業務プロセスに応じるかたちで、さまざまな仕組みやシステムを導入している会社も多いだろう。そういう意味では、中小企業・小規模企業は、国や大手企業の影響を大きく受けているとも言える。
今回の白書にもあるように、中小企業・小規模事業者への支援策がいくつか打ち出されるようだが、できることなら、そうした支援策や大手が取り組む時流的なものに惑わされることなく、独自の価値を生み出すバリューチェーンを支える経営戦略に基づいて、日々の業務に邁進したいものだ。
ドラッカーも語るように、「われわれは何を売りたいかではなく、顧客は何を買いたいかを問う」ことにしか、事業の発展はないのだから。
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